ーーAct1-1ーー









































































































「新人? それが二人もですか?」

胡乱気なその声に、隊長服に身を包んだ目の前の男は少年のようにカラカラと笑った。

「おぅ! こんな辺境に新人二人もとは、俺の人徳だな」
「・・・それには同意しかねます」

左肩に流れる緩く結ばれたアイスグリーンの三つ編み、メガネ越しに向けられる細められた蒼い瞳。
呆れ返る女性に苦笑した声がかかる。

「まぁ、。 その辺にしてくれ。
今、隊長と誰を指導係にするか話し合ってたところだ」

女性の隣、頭上からかかった声には視線を上げた。
薄褐色の短髪に、茶色の瞳。
人が良さそうな彼のその様子には嘆息した。

「ユルギス・・・
貴方が甘やかすから、手のかかる子供のような大人が増長する気がするのだけれど?」
「なんだ、今日は朝からご機嫌ナナメか?」

からかう声音に、はユルギスから視線を移すことなく続けた。

「ええ。
何しろ、昨晩から今し方まで私達の上司たる隊長殿の書類不備の修正をしてまして。
おかげさまで徹夜をさせていただきましたわ」
「・・・ってことは、その書類が?」

彼女の手元、クリップボードの上に積み上げられた書類の山に、ユルギスの視線が釘付けとなる。
目測だけだが20cmには届く高さがある。

「そういうこと。
残り5分の4はまだ私の部屋にあるわ」
「・・・・・・」

閉口するしかないユルギスに、はようやく呼び出した本人の方に向いた。

「で、どこまで決まったんですか?ナイレン・フェドロック隊長?」

わざわざフルネームを呼び、きっちりと黒い笑顔で応じる。
浅黒く焼けた肌、自身より青みがかっている銀髪。
だが執務机を挟んだ向かいに座っていた男、ナイレン・フェドロックは豪快に笑い飛ばした。

「うわはははっ!
悪ぃな、忘れてた〜」
「・・・隊長、この量を忘れてたというのはいささか無理があります」

の手元から書類を代わりに持ったユルギスの尤もな返答にも、ナイレンは笑ったままだった。

「まぁ、良いじゃねえか。
俺にはこんなデキの良い部下が二人もいんだ。
これからも頼りにしてるぜ、お二人さん?」
「「・・・・・・はぁ」」

これ以上言っても無駄だ、と重なったため息が室内に響く。
そして、ナイレンは途中だった話題に話を戻した。

「で、本題だがな今回来ることになった新人はこいつらだ」

渡された紙をは受け取ると、早速、目を通していく。
ユルギスはすでに知っていたのか、その紙を受け取ることなくナイレンは話を続ける。

「帝都の古い付き合い奴から鳩が来てな、どんな奴か大まかに連絡がきた。
一人はカッチカチの優等生。
そのせいか騎士団試験でも、成績は上位の方だったみたいだな」
「あれ?この子・・・」
「知り合いなのかい?」

隣からの声にはしばらく考え込む。
そして、問いを投げかけた。

「隊長、この子の父親って、もしかして騎士団に在籍していたのでは?」
「ああ、その件は後でな。次いくぞ〜」

話題を切り上げられた事で、もそれ以上考え込む事をやめる。
再び視線は手元に落ちた。

「もう一人はやんちゃ坊主ってところだな。
面接試験での受け答えの部分見てみろ。相当笑えるだろ?」
「なんていうか・・・」
「そうなんだ・・・」

声を上げて笑うナイレンに、目の前に立つ副隊長の二人はお互いに顔を見合わせた。

(「隊長に似てるし・・・」)
(「隊長に似てるんだよな・・・」)

同じ想いを抱いたらしい事に、再び嘆息が口をついた。
こちらの心情を構うことなく、隊長は話を進める。

「ざっくりとした説明は以上だ。
でな、指導係なんだが俺は誰でも良いと思ってる。だがユルギスがな・・・」
「やはり少し考えた方が良いのではと思います。
何より、書類がこの一枚だけでどう選べと言うんですか?」

こう言っててな、と口をへの字に曲げるナイレン。
は再びその一枚の書類を見返した。
そして、顔を上げると自身の考えを口にする。

「ユルギスの言っている事は尤もです。
ですが、隊員増強で書類が届かないのなら、それだけ帝都では手が足りてないってことなんでしょうね」
「それは・・・確かに・・・」

騎士団の実情を知っているだけに、ユルギスは納得するしかない。
未だ記憶に新しい、過去の大戦。
その傷跡は10年を経た今でも深い傷跡を残している。
昔の記憶を払うかのようには続けた。

「それで指導係ですが、この隊の中で割ける人員も限られています。
なので、基礎的なことを教えられる人材を宛がうのが妥当じゃないでしょうか?」
「ま、そうなるか」
「それに訓練となれば、腕も立って頼りがいのあるユルギス副隊長もいるわけですしね」
・・・他人事にするつもりか?」
「あら?私は事務方担当と隊長の命令を受けちゃっているもの」

しれっと言ってのけた相方に、ユルギスは無言の訴えをナイレンに向ける。
だが、それに期待した返事は返ってこなかった。

を訓練に使うことは許可せんぞ〜
かわいい新人じゃないか、相手してやれよ」
「・・・はぁ、分かりました」
「で?
お前が考える隊員ってのは誰だ?」

上司の言葉に、はきょとんとナイレンを見た。

「隊長は考えてなかったんですか?」
「いんや、お前の考えを先に聞こうと思ってな」

キセルで自分を指されたことで、はすぐに口を開く。

「私は、アイヒープ隊員2名を推します」
「ほぉ・・・理由は?」
「新人に年齢も近いですし、面倒見の良い性格です。
それに、この隊に慣れてきた彼女達なら良い経験になると思います」

要領よく答えるにナイレンは頷いた。

「よし、分かった。
指導係はシャスティルとヒスカを当てる」
「二人がそう言うなら、私からの異論はありません」
「そう言わずに、ユルギスも反論すれば良いじゃない。
私達に仕事のしわ寄せがきている腹いせに、新人は隊長一人で面倒見る、とか」

肘で脇腹を突付くに、ユルギスは苦笑した。

「その腹いせはがしたいんだろ?
片棒を担がせようってのかい?」
「ええ、そのつもり♪」
「・・・お前ら、仮にもその本人の前で何考えてやがる・・・」

唸るナイレンに、二人の副隊長は声を上げて笑った。
ひとしきり笑うと、は眼鏡を押し上げ、書類に書かれてない事を問うた。

「で、隊長。
この二人はいつ赴任するんですか?
これからいろいろ準備や部屋の手配をしないといけないんですが?」
「あ、それは俺も聞いてないですね。訓練の予定表も早く提出したいですし。
ナイレン隊長、いつなんですか?」

部下二人からの問いかけに、当人は静かになった。
それをいぶかしんだとユルギス。
隊長執務室内に、嫌な空気が流れる。
それを破ったのは、再び黒い笑顔を浮かべた副隊長だった。

「まさか・・・ま・さ・か、と存じ上げますが、ナイレン・フェドロック隊長?」
「・・・お、おう。
なんだ、・フォールグ副隊長?」

一歩、踏み出した彼女の視線の先には、顔を引きつらせた隊長がキセルを咥え明後日の方向を見つめている。
最悪の事態を想定しながらも、それが当たっているという絶対の確信から思いっきり目を背けていただったが、
確認しないわけにはいかなかった。

「これはあくまでもリスクヘッジとして伺います。
よろしいですね?」
「おう!任せとけ!」
「・・・新人2名はもう帝都を発っていますね?」
「おぉ!よく分かったな!」
「・・・・・・近日中にシゾンタニアに到着するとか?」
「さすが、!その通りだ」
「・・・・・・・・・その近日中というのはもしや明日ですか?」
「あっちゃ〜、それはハズレだ」

隊長のそれに、ユルギスはほっとしたように息をついた。

「良かった、それではまだ2,3日の猶予があるってーー」
「あいつらは本日、到着する。多分だがな〜」
「・・・・・・・・・・・・」

辺りを沈黙が支配する。
ユルギスからはの後姿しか確認できない。
なんとか、慰めの声をかけようとした時、彼女が動いた。
手にしていたクリップボードが鋭い角度で振り下ろされる。

ーーゴヂッ!ーー
「っ!!!」

無言で悶える我が上司たる、隊長。

「天誅です。
私はこれから準備を始めます。
そして、後ほどお持ちする書類、全てに、本日中に、チェックとサインをしてください」
「なっ!
お前でも徹夜した奴を、俺に一日でやれってのか!?」

僅かに潤んだ瞳を彼女に向けたナイレン。
それにキレイな笑顔が返される。

「それぐらいこなしてください、ヘタレ」

スタスタと部屋を後にする
暴言が残された部屋には、男二人がぽつんと残された。

「・・・・・・後ほど、の部屋から書類をお持ちします」
「ユルギス、お前まで裏切るか・・・」

痛む頭を押さえ、恨みがましい声を上げるナイレンにもう一人の副隊長は苦笑した。

「これ以上を怒らせて、隊長が撲殺される姿なんて見たくないですからね」
「・・・言えてるな・・・」

自身の非を認めたナイレンに、ユルギスは敬礼を返すとその部屋を後にした。

















































あとがき
はできる女。
そして裏を握るのは、いつでもNo.2(笑)




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2019.1.26