ーーProlougeーー
あの頃、口癖のように繰り返し言われていた。
「何ものにも囚われず強くありなさい」
思い出されるのは、こちらを見つめる優しく強い瞳。
「大丈夫。
相手を想えることができる貴女なら、きっと先生よりも強くなれるわ」
頭に触れる暖かい手。
心地よい声。
ずっとこの人のようになりたいと、そしてなれるとこの時は思って疑わなかった。
「ほんと?」
「もちろんよ。
先生が嘘ついたことある?」
その言葉に全身で否を示す。
あの人の言葉に手放しで喜んでいたのは、憧れて止まなかったから。
そして、当時の自分はあまりにも世界を知らな過ぎた。
「さ、みんなが待ってるわ。
行きましょう」
「うん!せんせい、あのね・・・」
「どうしたの?」
「あたし、みんなとずっといっしょにいたい!」
だから抱いた。
無力さを知らないが故の幼い願いを・・・
叶えられると思っていた儚い夢を・・・
「だからね、あたしがみんなをまもりたいな」
でも、そんな私の言葉にあの人は笑ってくれた。
その笑顔はあの街の太陽や雪原よりも眩しくて・・・
そして当時の自分には、何よりも説得力を持つものだった。
「それは頼もしいわね。
先生も一緒に守っていい?」
「うん!」
あの頃、口癖のように繰り返し言われていた。
「お前の力はこの世界を変えるものだ」
思い出されるのは、こちらを見つめる狂喜に染まった昏い瞳。
「心配するな。
お前はただ俺の言う通りにしていれば、この腐った星をひっくり返すことができる」
頭に触れる大きな手。
頼り甲斐のある強い声。
もしかしたらこの人のように強くなれるかもしれないと、そしてなりたいと思っていた。
「・・・ほんと?」
「当然だ。
俺ができないことはないんだからな」
その言葉に嬉しさが溢れた。
いつもなら愛情とは程遠い態度しか取らなかった。
そんなあの人の言葉に手放しで喜んでいたのは、憧れて止まなかったから。
そして当時の自分には、世界の全ては『あの人』だった。
「おっ、そろそろ時間か。行くぞ」
「うん!せんせい、あのね・・・」
「どうした?」
「ぼく、せかいをかえてみせるよ!」
だから抱いた。
いつかは愛してくれるはずだという幼い願いを・・・
自分が期待に応えれば、もう孤独に怯えることはないと・・・
「だからぼく、いわれたことぜんぶがんばるから」
そんな私の言葉にあの人は笑ってくれた。
笑顔の裏に隠れる意図は分からないまま・・・
その瞳の先に見ているモノが自分だとは気付かぬまま。
「頼もしいな。さすがお前は優秀なだけある。
俺を失望させるなよ」
「うん!」
遠い遠い日の思い出。
描く未来と現実が同じだとその時は信じていた。
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2015.1.19修正
2015.1.1