ーーNo.8 六神将ーー
しばらくしてガイが復活(ティアとは5Mの距離を置いてるが)し、一行はマルクト軍基地へと歩き出した。
念の為、辺りを警戒しながら街の入り口近くを通過しようとした時だった。
「!すぐに隠れろ!」
「なんーー」
ーードンッーー
「って!」
文句を言うルークを突き飛ばしたカンタビレは、すぐに入口から死角になっている物陰へとイオンの手を引く。
怒りを爆発させようとするルークだったが、ガイに押さえられ視線で入口を見るように合図を送られる。
そこには、陸艦でも見た六神将の姿があった。
『導師イオンは見つかったか?』
久しく聞いた者の声に、カンタビレは聞き耳を立てる。
凛としたリグレットの声に、雑兵は最敬礼を取って答えた。
『セントビナーには訪れていないようです』
『イオン様の周りにいる人たち、弟達の仇・・・この仔たちが教えてくれたの。
アリエッタはあの人たちのこと絶対許さない・・・』
『導師守護役がうろついてたってのはどうなったのさ』
仮面を付けた小柄な少年、シンクの問いに雑兵の声は曇る。
『マルクト軍と接触していたようですが・・・
もっともマルクトの奴らめ、機密事項と称して情報開示に消極的でして・・・』
『俺があの死霊使いに遅れをとらなければ、アニスを取り逃がすこともなかった。面目ない』
『ハーッハッハッハッハ!だーかーら言ったのです!
あの性悪ジェイドを倒せるのは、この華麗なる神の使者、神託の盾六神将、薔薇のディスト様だけだ
と!』
ラルゴに続いて響いた耳障りな高笑いにカンタビレは思わず眉間に皺を寄せる。
そして、カンタビレと同じ心情なのは向こうにもいたようだった。
苦々しい声が同様の心情で吐き捨てる。
『薔薇じゃなくて死神でしょ』
『この美し〜い私がどうして、薔薇でなく死神なんですかっ!』
『過ぎたことを言っても始まらない。どうするシンク?』
ディストを無視して話を進めるリグレット。
それを受けたシンクも暫し、思案しているようだった。
が、無視されている方は低い声を上げる。
『・・・おい』
『エンゲーブとセントビナーの兵は撤退させるよ』
『しかし!』
シンクの指示に言い募るラルゴだが、腕を組んだシンクが横柄に答えた。
『アンタはまだ怪我が癒えてない。死霊使いに殺されかけたんだ、しばらく大人しくしてたら?
それに奴らはカイツールから国境を越えるしかできないんだ。このまま駐留してマルクト軍を刺激すると、外交問題に発展する。
余計な奴に目を付けられる面倒は避けた方がいい』
『おい、無視するな!!』
完全に蚊帳の外のディスト。
だが、周囲は取り合うつもりは全くないようだった。
シンクに続いてリグレットも頷き返す。
『カイツールでどう待ち受けるか・・・ね。一度タルタロスに戻って検討しましょう』
『伝令だ!第一師団!撤退!』
『了解!』
ラルゴの一声で、雑兵すら走り去る。
そして、シンクらもタルタロスに向けて歩き出した。
残されたのは一人。
その場に取り残されたディストの耳に、カラスの馬鹿にした鳴き声が聞こえた気がした。
『きぃぃぃっ!私が美と英知に優れているから嫉妬しているんですねーーっ!!』
金切り声を上げるディストは浮遊椅子に座って、地団駄を踏むとどこかへと飛び去っていった。
それを見送り、神託の盾がいないことが分かるとジェイドが溜め息をついた。
「しまった・・・ラルゴを殺り損ねましたか」
「あれが六神将か・・・初めて見た」
ジェイドの心境を他所に、感心した風のガイ。
それに反応してルークが聞いた。
「六神将ってなんなんだよ」
「神託の盾の幹部六人のことです。
幹部は正確には七人いるのですが、世間で知られている六人を称して一般的にそう呼ばれています」
「ふーん、でもさっきは五人しかいなかったな」
「さすがに俺も名前までは知らないな」
丁寧に解説したイオンに返したルークとガイ。
そのまま話を続けそうなイオンを遮るように、カンタビレは先に口を開いた。
「巨漢の男が黒獅子ラルゴ、椅子に座ってた奴が死神ディスト、チビが烈風のシンク、ぬいぐるみ持ってたのが妖獣のアリエッタ、残りが魔弾のリグレットだ。
いなかったのは鮮血のアッシュだな。
各師団長があれだけ顔を並べてるとは豪勢なこった」
「彼ら六神将はヴァン直属の部下よ」
「ヴァン師匠の!?」
「六神将が動いているなら、戦争を起こそうとしているのはヴァンだわ」
きっぱりと言い切ったティア。
それにルークが反論しようとしたが、それより先にイオンが異を唱えた。
「六神将は大詠師派です。モースがヴァンに命じているのでしょう」
「大詠師閣下がそのようなことをなさるはずがありません。
極秘任務のため、詳しいことを話す訳にはいきませんが、あの方は平和のための任務をわたしにお任せくださいました」
(「ま、どっちも怪しいと思うがな・・・」)
そう内心で呟いたカンタビレは会話を切り上げるようにイオンの肩に手を置くと立ち上がる。
イオンは物言いたげな視線を送ってくるが、カンタビレは首を振るだけでその先を制し、イオンの手を引き歩き出した。
「差し出がましい真似、ご容赦ください。
しかし、あれ以上不毛な論争など体力の無駄だと思いましたので」
「・・・いえ、僕も言葉が過ぎました」
「そんなことありません。
あの狸ジジイが噛んでるのは否定しませんよ。
ただ、吊るし上げるには言い逃れできない物証がないのが腹立たしいってだけです」
「そうですね・・・」
「イオン様が一言ご命令くだされば、俺直々に力尽くで吐かせてやりますよ?」
「さ、さすがに今の状況でそれは手荒過ぎかなと・・・」
「はっはっはっ、俺はいつでも本気なのでお気軽にどうぞ」
「・・・考えておきます」
目的地に向け談笑(?)する二人を他所に、尊敬するたった一人を悪く言われて、ルークがティアに食ってかかる。
「ちょっと待ってくれよ!ヴァン師匠だって、戦争を起こそうなんて考えてる訳ないって」
「兄さんならやりかねないわ」
「なんだと!お前こそモースとかいう奴の回し者じゃねぇのか!?」
「あなたには関係ない事よ」
「なんだと!!」
隠れているという事も忘れ、声を張り上げるルークに淡々とながらも棘を含めて言い返すティア。
だんだん激しくなる二人の口論に、ガイが仲裁に入る。
「落ち着けよ、二人とも。
モースもヴァン謡将もどうでもいい。
今は六神将の目をかいくぐって戦争を食い止めるのが一番大事なことだろ」
尤もな事を言われれば、ようやく我に返ったようなティアが表情を改めた。
「・・・そうね。ごめんなさい」
「・・・ふん。師匠を悪く言う奴は認めねぇ」
ワガママ全開のルークに、苦笑いを浮かべるしかないガイ。
ようやく収まったソレに、完全に傍観者となっていたジェイドは見計らったように口を開く。
「終わったみたいですねぇ。それでは基地へ行きましょうか」
「あんた、いい性格してるなー」
「いえいえ、カンタビレほどじゃないと思いますよ」
そう言ったジェイドの視線の先には、カンタビレがイオンを伴って歩き出している姿。
「ある意味、羨ましい限りのポジションだ」
「保護者役は大変ですねえ〜」
「・・・あんたも面倒見る気ゼロだな」
「全力でお断りですv」
満面の笑みにも関わらず、冷や汗が浮かぶような威圧感。
背後ではまたヒートアップし始めた言い合いにガイは疲れたようにため息をついた。
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2018.1.2修正
2015.1.1