陸艦から距離を取り、セントビナーへと一行は進路を取る。
と、

「イオン様!」

歩いていたはずのイオンが突然体勢を崩し、カンタビレは辛うじてその身を支える。
膝を突き、その体を起こせば苦し気な荒い息を吐いていた。

「・・・はぁ、はぁ」
「まさか、ダアト式譜術を?」
「・・・すみません、随分時間も経っているし回復したと思ってたんですけど・・・」

カンタビレの指摘に困ったような気まず気な表情を返すイオン。
それに対し自身も同じような苦悶の表情を返すカンタビレに、ジェイドが見兼ねたように声を上げる。

「少し休憩しましょう。このままではイオン様の寿命を縮めかねません」






































ーーNo.4 新たな仲間ーー


































「・・・と、いう訳なんです」
「またあのオヤジは・・・随分と強硬な策に出たもんだ」

休憩を取る事になり、ここに至るまでの経緯を聞いたカンタビレは深々と溜め息をついた。
二国の和平のためマルクト皇帝から仲立ちを求められたイオンを軟禁。
その後どうにか脱出し、派遣されたマルクト精鋭部隊と合流したイオンを奪おうとリグレットら六神将が襲撃。
結果、陸艦に乗船していたマルクト兵を皆殺し。
封印術アンチフォンスロットまで用意していたとは随分と手が込んでいる。
そもそもローレライ教団最高指導者である導師に大詠師が取るべき行為ではない。
まったくもって腹立たしい事この上ない。
というか、外交問題確実な出来事を平気でやらかす神経も腹の虫が収まらない。
諸々の憤りが渦巻く中、深々と一つ溜め息をついたカンタビレはとりあえずの問題をひとまず横に置いた。

「ま、俺が探ってた騒ぎの原因がお前らだとはな」
「オレは悪くねぇ!」
「す、すみません・・・」

憤慨するルークと小さくなるティアに、カンタビレのアメジストの瞳が呆れたように向けられる。
ルークを宥めたガイは話を変えるようにイオンに問うた。

「で、イオン達が戦争を回避するための使者って訳か。
でもなんだってモースは邪魔したがってるんだ?」
「それはローレライ教団の機密事項に属します。
お話しできません」
「なんだよ。けちくせえ・・・」
「口を慎め、小僧」
「んなっ!」

ルークの不満そうな声に、間髪入れずにカンタビレがぴしゃりと返す。
すぐに怒りに顔を染めたルークだが、まぁまぁとガイが宥めにかかる。
困ったように笑うイオンに、ジェイドは話しの路線を戻した。

「理由はどうあれ、戦争は回避すべきです。モースに邪魔はさせません」
「ま、吊し上げられて痛い目を見ればあのオヤジには良い薬だ」

腕を組んで幹に寄り掛かりながら、カンタビレは不機嫌そうに呟く。
そして、座っていたイオンは新たに加わった仲間についと視線を向けた。

「ところであなたは・・・」
「そういや自己紹介がまだだったな。俺はガイ。
ファブレ公爵のところでお世話になってる使用人だ」
「そうでしたか。僕はイオンです。
改めて助けてもらい、ありがとうございます」
「気にしないでくれ。俺一人の力じゃ無理だったからな」

ガイはイオンと握手を交わし、次にカンタビレにその手を差し出した。

「あんな離れた所から、的確なサポートがあってこそ成功したようなものだしな」
「カンタビレだ。
そういうガイも大した身のこなしだ。剣術でもやってたのか?」
「ま、護衛程度さ」
「・・・そうか」

肩を竦めて返したカンタビレと握手を終えたガイは、次にジェイドと握手を交わす。
そして、残る一人。
ティアも皆と同じように手を差し出した。
瞬間、

ーーズザザザザザッ!ーー

ガイは土煙を立て、ティアから飛び退いた。
ルーク以外の視線がガイに集中する。

「「「・・・・・・」」」
「・・・何?」

当然の疑問を呟くティアは再び、同じ行動に移る。
が、

「・・・ひっ」

情けない悲鳴が上がり、当の本人はティアと5Mの距離を取っているにもかかわらず震えていた。
その様子を不思議顔で見ていたイオンに、ルークは面倒そうに説明する。

「ガイは女嫌いなんだ」
「というよりは、女性恐怖症ですね」
「誤解を招く言い方をするな!女性は好きだ!」
「声高に叫ぶことでもねぇがな」
「つーか現に近づけねえだろ」
「そ、それはだな・・・」

ルークの切り返しにガイはしどろもどろに言葉を濁す。
無言になるティアの後ろで、イオンはカンタビレを見上げる。
そのカンタビレも肩を竦めて返すしかできない。
と、沈黙を続けるティアの様子に慌てたようにガイが弁解を口にする。

「わ、悪い・・・君がどうって訳じゃなくて・・・その・・・」
「私のことは女だと思わなくていいわ」

ガイにそう言ったティアが再び握手しようと近付く。
だが、一歩進めば一歩後退の繰り返し。
埒の明かない状況にティアは呆れたように額を押さえた。

「・・・分かったわ。不用意にあなたに近付かないようにする。
それでいいわね?」
「すまない・・・」

ようやく話しが落ち着いた所でカンタビレは口を開いた。

「一つ気になってたんだが・・・」

そう言ったカンタビレの視線はガイに向けられた。

「ファブレ公爵家の使用人らしいが、よく主人がマルクトの領土に消えたって分かったな」
「ああ。ルーク達が消える現場にグランツ閣下が居合わせたから、だいたいの見当がついたんだ。
俺は陸伝いに、閣下は海を渡ってカイツールから捜索してる」
「ヴァン師匠も捜してくれてるのか?」

ガイの言葉を聞いたルークが嬉しそうに声を上げるが、その名を聞いたカンタビレは僅かに眉が動く。
しかし、カンタビレはそれ以上の追及はせず、口を閉ざした。
それに代わるように一つの声が響く。

「・・・兄さん」
「兄さん?兄さんってーー」
ーーキンッーー

ティアの言葉を聞き留めたガイが問い返す。
瞬間、カンタビレは剣を抜き放ち、イオンを庇うように茂みに向いた。
その行動にジェイド以外がぎょっとしたように目を剥く。

「いつまで隠れてるつもりだ?
相手してやるからとっとと出てこい、腰抜け共」

その言葉にようやく、他の者も警戒を強めた。
そして、茂みから三人の神託の盾オラクル兵が得物を持って現れる。

「やれやれ、ゆっくり話している暇はなくなったようですよ」
「・・・あんたも分かってたなら、言うか動きゃあよかったんだ」
「おや、これは失礼。
皆さん既にご存じかと思っていたので」

うそぶくジェイドにカンタビレンは半眼を向ける。
敵対する相手に、ルークは及び腰になった。

「に・・・人間・・・」
「ルーク!下がって!
あなたじゃ人は斬れないでしょう!」

ティアの咎める声に赤髪の青年は怯え震え上がる。
それを好機と見た兵士達は襲いかかってきた。

















































ーーキンッーー
「ったく、とんだヒヨっ子共だ。
指導した奴の顔を見てみたいもんだな」

敵の一人を片付けたカンタビレは、剣を鞘に収めながら呟く。
口ほどにもないほど、あっという間に返り討ちにできた。
致命傷を受けた最後の一人はおぼつかない足取りでルークの前に膝を突く。

「ルーク、とどめを!」
「・・・う・・・」

ジェイドの声にルークは迷いながらも剣を振りかぶった。

ーーガキーーーンッーー

しかし最後の足掻きか、立ち上がった兵士に剣を弾き飛ばされたルークはその場に尻餅をつく。
呆然と兵士を見上げるルークに、ガイの厳しい声が刺さる。

「ボーッとすんな、ルーク!」

だが誰の距離からでも、ルークが剣を振り下ろされるまでの時間内に辿りつけるところにいない。
ガイは全力で走り出すが、どうみても間に合わない。
悪態を吐きそうになったカンタビレも、敵が落とした剣を投げ放ったがこれも間に合うか微妙なところだ。

ーー斬られる!ーー

誰もがそう思った瞬間、

ーードンッーー

ルークは突き飛ばされ、代わりに走り込んできたティアに剣が振り下ろされた。
そして、投げられた剣が兵士の得物を弾き飛ばし、追いついたガイの一撃で兵士は地面へと沈んだ。
カンタビレは後ろにいるイオンに振り返る。
するとすぐさま頷きが返されカンタビレはティアの元へと走り寄る。
負傷具合を確認するカンタビレの耳に震えた弱々しい声が届いた。

「・・・ティア・・・お、俺・・・」
「・・・ばか・・・」



































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2017.12.2 修正
2015.1.1