ーーNo.3 華麗なる救出劇ーー


































咄嗟に思いついた作戦にも関わらず、青年はすぐに乗った。
互いの利害が一致した結果だが・・・

(「ま、登場のタイミングが良すぎるってのが気になるところだがな」)

心中で呟いたが、詮索は事態が収拾してからで良いだろう。
眼下では未だ睨み合いが続く。
タイミングを計っている間に、アリエッタも現れた。
先日、仕事で手助けしてもらったが導師の身に危険が迫るとなれば、容赦するつもりはない。

(「さて・・・」)

カンタビレは足元の神託の盾オラクル兵の位置をしっかりと見定める。
時間をかければまた状況が変わる。
同時に手早く周囲を無力化すれば、あのリグレットでさえ立て直すには時間を要する。
こちらにはそれで十分だ。
カンタビレは導師を取り囲む神託の盾オラクル兵に向かって譜術を紡ぐ。
すると何もない空間から光の矢が降り注ぎ、短い悲鳴が木霊した。
それに注意が逸れた瞬間、青年が飛び出しリグレットを弾き飛ばすとイオンから遠ざけた。
と同時に、マルクト兵がアリエッタに槍先を突き付け、形勢は逆転した。

『ガイ様、華麗に参上!』

・・・ま、台詞にどうこう文句をつけるつもりはない。
いささかそれを選ぶセンスはどうかと思うが。

(「見立て通り。
にしても、あの将校・・・結構な手練れだ」)

崖上から眼下の会話は聞こえないが、マルクトの将校はリグレットらを戦艦内に引き下がらせている様子が見て取れた。

(「あの後ろ姿、どこかで・・・」)

と、思考に沈んでいたが、ハッチが閉じたことでリグレット達の姿は鉄の扉の向こうへと消えた。
目論見が成功したことでカンタビレは肩の力を抜く。
そして、先ほどの青年も探し人の下へ歩み寄っていったため、自らも導師の下へと動き出した。









































崖を降りたカンタビレの耳に、緊張から解かれた弾んだ会話が聞こえてきた。

『ーーても、よく一人でオレらを助けられたよな』
『いや、俺だけの力じゃないんだ・・・』

苦笑するような青年の声に、カンタビレは後を引き継ぐように代弁した。

「イオン様をお救いするために、そこの兄さんに少しばかり協力してもらったんだよ」

自身の声に、会話が止む。
姿を見せてやれば、皆の視線がこちらに集まった。
それに迷惑顔を返してやれば、自分を知っているイオンが驚いたように声を上げる。

「カンタビレ!?どうしてあなたがここに?」
「久方ぶりでございます、イオン様。
お怪我もないようで何よりでございました」

膝を折ったカンタビレがひとまず挨拶を済ます。
そして視線を上げると、自分の見知った顔がさらに並んでいた。

「!」
「こりゃ、誰かと思えば・・・いつぞやの小生意気な問題児か」
「カ、カンタビレ教官!?」
「ったく、なんだその驚き様は。情報部に所属してる割にゃあ、感情出し過ぎだろ?」
「あ、す、すみません///」

赤くなる以前の教え子に呆れたカンタビレは、協力してもらった青年へと視線を向ける。

「さっきは協力してもらって助かった。兄さん結構やるもんだ」
「いや、そりゃお互い様だ。
こうして探していたルーク坊ちゃんも見つかったことだしな」
「だから坊ちゃんって呼び方やめろよ!」

青年に腕を回された長い赤髪、ルークは噛みつくように反論する。
坊ちゃんと言うからには、良いとこ出なのだろう。
それに言い様からして使用人なのだろうが、仕えているという割には主人と使用人ではなく、兄弟のように見える。
二人の様子に、カンタビレは合点がいったとばかりに頷いた。

「なるほど、確かに聞いてた通り、威勢の良い坊主って訳だ」
「なっ!お前オレを誰だと思ってーー」
「ルーク!教官に失礼よ」
「そーだぞ。何せカンタビレさんのおかげでお前を助けられたもんだしな」

使用人の言葉に主人たるルークは胡乱気な視線をカンタビレに送る。
それに肩を竦めて応じたカンタビレは、さきほどから言葉を発していない軍人へついと視線を向けた。
オーカーの長い髪、眼鏡越しに向けられる、夕焼けを切り取ったような深紅の瞳、そしてダッグブルーの軍服。
その顔に過去の傷が疼いた。

「・・・お宅はどちらさんで?」
「私はマルクト帝国第三師団長ジェイド・カーティスと申します、あなたは?」
「俺はカンタビレ。
一応そこのティアの元教官で、導師イオンと懇意にさせてもらってる」
「・・・カンタビレ?それはーー」
「おっと、話はどこか落ち着いた所にしてくれ。
こんなところにイオン様を置いておく訳にはいかないからな」

ジェイドを遮ったカンタビレはそう言うと、何かを探すように辺りを見回した。

「ところでイオン様、導師守護役フォンマスターガーディアンはどちらに?」
「はい、実はタルタロスから落ちてしまいまして・・・」
「それまた役立たずな」
「ま、アニスですから問題ないでしょう。
この先のセントビナーで落ち合うことになってますし」

イオンの代わりに答えたジェイドにそういうことなら、とカンタビレも頷いた。

「それなら、ちょうどいい。
元々俺はセントビナーに用事だったからな。ついでに拾いましょう」
「って、おいおい。
アニスって子の心配はないのか?」

会話を聞いていたガイがひくりと顔を引き攣らせる。
それに三対の視線が向けられた。

「大丈夫ですよ、アニスですからv」
「ええ。アニスですから、きっと無事でいてくれてます」
導師守護役フォンマスターガーディアンなんだ、それくらい心配することじゃない」

ジェイドの企み顔、イオンの柔らかな笑み、カンタビレの当然顔。
その質問自体が間違っていると言われているような反応に、ガイは何も言えなくなってしまった。

「そ、そうなのか・・・」(「アニスって一体・・・」)
「ちなみに、セントビナーにはどのような用向きで?」

話を変えるようなジェイドがカンタビレに問えば、アメジストの瞳はすいと細くなった。

「・・・なんであんたに教える必要がある?」
「これは手厳しい」

そう言いながらジェイドは笑って眼鏡を上げた。
全く手厳しいなどとは思っていないその口ぶりにカンタビレの視線は険しくなる。
しかし同じ疑問を持っているのか、イオンの問うような視線に気付いたカンタビレは膝を折り、目元を和らげた。

「イオン様、ご説明したいのは山々ですが、ここでは御身に障ります。
落ち着いた場所に着くまでお待ちいただけますか?」
「ええ、分かりました」

他の者とは違うあからさまなカンタビレの対応に、ルークから不満気な声が上がった。

「けっ、なんだってイオンばっかにあんな態度なんだ?」
「お?なんだルーク、ヤキモチか?」
「ばっ!ちっげーよ!///」

ガイにからかわれたルークは顔を真っ赤にして反論する。

「さて、ここで話し込んでても時間の無駄のようです。
今はセントビナーへ向かいましょう」

ジェイドの声にそっぽを向いたルーク以外が頷くと、次の目的地に向けて一行は歩き出した。


































>Skit『迷子の聖獣、再び』
(イオンの足元にやってきたチーグルを見て)
C「チーグル?どうーー」
Mi「ボク、この人知ってるですの!」
C「!?・・・チーグルって、いつから言葉を・・・」
I「この子はミュウです。
 なんでも、魔物に襲われそうになっていた所をルークに助けられたとか」
C「へぇ・・・」
C(「ガラに似合わず、お人好しな・・・」)
I「でも、ミュウ。あなたがどうしてカンタビレを知っているんですか?」
C「俺にペットを飼う趣味はないぞ?」
Mi「ボクにリンゴをくれたですの!それに仲間の所につれて行ってくれたですの!」
C「リンゴ・・・?・・・!あぁ、お前あん時の・・・」
I「どういうことですか?」
C「実は、カクカクシカジカ・・・という訳なんです」
I「なるほど、そうでしたか」
Mi「はいですの!そうだったんですの!」

C(「こいつ魔物に襲われてたって、その時も迷子だったんじゃ・・・」)
C「ははは、まさかな・・・」

※そんなカンタビレの予測は実は当たっちゃったりしてる





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2017.12.2 修正
2015.1.1