ーーNo.12 鮮血の襲撃ーー





















































































川を渡り終え、平原を越えた先に見えた要所、国境の砦カイツール。
そこは、この世界で覇権を争うマルクトとキムラスカが平行線に並ぶ場所だった。
フーブラス川を渡り終えた一行は、ようやく目的地に到着した。

「あれ、アニスじゃねえか?」
「本当だわ」
「どれどれ」

ルークとティアの言葉にガイも思わずその姿を注視した。
ずっと疑問に思ってた相手が、果たしてどの様な姿形なのかようやく分かる。
視線の先には、検問の兵士の胸元までしかないツインテールの後ろ姿があった。

「証明書も旅券もなくしちゃったんですぅ。通してください。お願いしますぅ」
「残念ですがお通しできません」
「・・・ふみゅう〜・・・」

肩を落とした少女は、しょんぼりという効果音が付きそうな表情でくるりと背を向けた。

「月夜ばかりと思うなよ・・・」

振り返りざまに響いた少女らしからぬ言葉。
その声にイオン、ジェイド、カンタビレ以外の足が止まる。
苦笑するようにイオンが少女に声をかけた。

「アニス、ルークに聞こえますよ?」
「ん?
きゃわ〜んvアニスの王子様vv」

180°態度が変わったそれに、ガイは思わず本音を口にする。

「女って、こぇ〜・・・」
「ルーク様vご無事で何よりでした〜!もう心配してました〜!」
「こっちも心配してたぜ。魔物と戦ってタルタロスから墜落したって?」
「そうなんです・・・アニス、ちょっと怖かった・・・てへへ」

テヘペロで頭を小突く仕草をするアニス。
その横でイオンは和かにその時の再現をするように両の拳を突き出した。

「そうですよね『ヤローてめーぶっ殺す!』っ て、悲鳴あげてましたものね」
「イオン様は黙っててください!」
「そんなんでイオン様の護衛をできなかったのか。
それで導師守護役フォンマスターガーディアンとはお粗末なもんだな」

続けて、呆れた声がそれに続いた。
それにちょんと首をこちらに向けたアニスはぎょっとしたように身を引いた。

「はうぁ!なんで隠居したカンタビレがこんなところに!?」

アニスの言葉に、無表情のままカンタビレは愛刀の鍔を上げ柄を握った。

「いい度胸だな、奏長。教えてやるからそこに跪け」
「カ、カンタビレに危ない所を助けてもらって、僕が同行をお願いしたんですよ」

仲裁に入るイオンに、カンタビレは仕方なく剣を収める。

「ところで、どうやって検問所を越えますか?」
「そうだな、旅券が無いとーー」

話しの路線を戻そうとするティアに周囲が同意を見せた。
その時、

「ここで死ぬ奴にそんなの要らねぇよ!」

頭上から響いた苛立った声、ルークの目前に凶刃が映る。
尻餅をついた彼に、容赦なく刃は迫りーー

「ルーク!!」
ーーガッキーーーン!ーー

ルークは時間がゆっくりと流れたような気がした。
目の前に、結われた暗紫が揺れる。
と、先ほども聞いた声が、苛立たしげに辺りに響いた。

「てめぇ、カンタビレ!邪魔するんじゃねえ!」
「お前の頭は沸いてんのか?
んな国境でイザコザ起こしゃ外交問題だ。責任取れるってのかよ?」
「事情も知らねぇ奴はすっこんでろ!」
「なら教えてもらおう、特務師団長」

そう言ってカンタビレは剣を交じ合わせた中、ずいと距離を縮めた。

「お前ら六神将は何を企んでる?イオン様をどうするつもりだ?」
「・・・・・・」

無言の鍔迫り合いが続く。
と、殺気を感じたカンタビレは後ろに飛び退った。
瞬間、入れ替わるように白刃が視界を横切り違う声が上がる。

「退けアッシュ!」
「ヴァン、どけ!」
「どいうつもりだ?私はお前にこのような命令を下した覚えはない・・・
退け!」

乱入したその声に渋々従い、アッシュはその場を立ち去った。
嵐のような出来事に、ルークは呆然とするしかない。
振り返った目の前の人物に、カンタビレは剣を収めぬまま目を細めた。
後ろ髮を結ったオールバックの鳶色、ティアと同じ深海の瞳、年嵩の印象を受ける顎鬚。
ローレライ教団神託の盾オラクル騎士団首席総長、ヴァン・グランツは泰然とした面持ちでこちらを向いていた。

「ヴァン!」
「ティア、武器を収めなさい。お前は誤解をしているのだ」
「誤解・・・?」
「頭を冷やせ。私の話を落ち着いて聞く気になったら宿まで来るがいい」

小型ナイフを構えたティアにそれだけ言うと、ヴァンは宿へと消えた。
それを疑わしげに見ていたティアにイオンが声をかける。

「ティア。ここはヴァンの話を聞きましょう。
分かり合える機会を無視して戦うのは愚かなことだと、僕は思いますよ」
「そうだよ。いちいち武器抜いて、おっかねー女だな」
「・・・イオン様の御心のままに」






























































宿に入ると、ヴァンが一行を出迎えた。

「頭が冷えたか?」
「・・・何故兄さんは、戦争を回避しようとなさるイオン様を邪魔するの?」
「やれやれ、まだそんなことを言っているのか」
「違うよな師匠!」
「でも六神将がイオン様を誘拐しようと・・・」

ルークとティアが言い合う中、ヴァンは二人の会話を止めた。

「落ち着けティア。そもそも、私は何故イオン様がここにいるのかすら知らないのだぞ。
教団からは、イオン様がダアトの教会から姿を消した事しか聞いていない」
「すみません、ヴァン。僕の独断です」
「こうなった経緯をご説明いただきたい」
「イオン様を連れ出したのは私です。私がご説明しましょう」

ジェイドがここまでに至る経緯を話す。
マルクト皇帝に和平の使者として仲立ちを求められたこと、六神将の妨害、陸艦での出来事・・・
ルークらが合流した事も併せて話が終わると、ヴァンは納得したように頷いた。

「・・・なるほど。事情は分かった。
確かに六神将は私の部下だが、彼らは大詠師派でもある。
恐らく、大詠師モースの命令があったのだろう」
「なるほどねぇ。
ヴァン謡将が呼び戻されたのもマルクト軍からイオン様を奪い返せってことだったのかもな」
「あるいはそうかもしれぬ。
先ほどお前達を襲ったアッシュも六神将だが、奴が動いている事は私も知らなかった」

ヴァンの言葉に、ティアは弾かれたように言い返した。

「じゃあ兄さんは無関係だっていうの?」
「いや、部下の動きを把握していなかったという点では無関係ではないな。
だが私は大詠師派ではない」
「初耳です、主席総長」
「六神将の長であるために、大詠師派ととられがちだがな。
それよりティア、お前こそ大詠師旗下の情報部に所属しているはず。
何故ここにいる?」

話を切り返すヴァンに、ティアは渋々といった呈で話しだす。

「モース様の命令であるものを捜索してるの。それ以上は言えない」
「第七譜石か?」
「機密事項です」
「第七譜石?なんだそれ?」

緊迫した空気はあっという間にすっ飛んだ。

「「「「「・・・・・・」」」」」
「なんだよ、みんなしてバカにしたような顔で・・・」
「箱入り過ぎるってのもなぁ・・・」

苦笑いするガイが頭を掻く。
そんな中、ティアが説明し始める。

「始祖ユリアが2000年前に詠んだ預言スコアよ。世界の未来史が書かれているの」
「あまりに長大な預言スコアなのでそれが記された譜石も、山ほどの大きさのものが七つになったんです。
それが様々な影響で破壊され、一部は空に見える譜石帯となり、一部は地表に落ちました」
「地表に落ちた譜石は、マルクトとキムラスカで奪い合いになってこれが戦争の発端になったんですよ。
譜石があれば世界の未来を知る事ができるから・・・」
「ふーん。とにかく七番目の預言スコアが書いてあるのが、第七譜石なんだな」
「第七譜石はユリアが預言スコアを詠んだ後、自ら隠したと言われています。
故に様々な勢力が第七譜石を探しているのですよ」

イオン、アニスが説明しジェイドが締めくくると、ルークはティアに振り向いた。

「それをティアが探してるってのか?」
「さぁ?どうかしら・・・」
「まぁいい。とにかく私はモース殿とは関係ない。
六神将にも余計なことはせぬよう命令しておこう。効果のほどは分からぬがな」

苦笑交じりにヴァンが言えば他のメンバーも苦い表情を浮かべる。
それ以上の問いがない事で、ヴァンは入り口近くでずっとこちらを睥睨している者に向いた。

「さて、そちらの質問に答え終えたなら、私にも聞かせてもらおう。
カンタビレ、いやーーヴェルトロ」
「え?」
「ヴェルトロって・・」
「・・・」

皆の視線が一気にカンタビレに集中する。
わざわざ言い直したヴァンに、それまで沈黙を守っていたカンタビレは冴え冴えとした視線をヴァンに返した。

「何故お前がここにいる」
「俺がここに居ちゃ都合が悪いような言い振りだな。
てめぇに答える必要があるか?」
「私はお前の上官だ」
「俺はイオン様に求められたから同行したまでだ。
てめぇの都合なんざ知らねぇよ」
「おい!ヴァン師匠にーー」
「まぁまぁ、ルーク落ち着け!」

壁に背を預けるカンタビレの言い様にルークが食ってかかろうとするが、それをガイが宥める。
それ以上の追及がない事で、カンタビレは外へと出た。
これ以上同じ空間にいるのは御免だ。
しばらくすると立場上、自身の上司が現れる。
数瞬だけ交錯する視線。
だが言葉を交わすことなく、互いに鋭い視線を射返す。
暫くしてヴァンはそのまま歩き出してしまう。
カンタビレは壁に背を預け、離れて行く後背に腕を組んだまま口を開いた。

「で?あんたはなんでここにいる?」

詰問するようなそれに、ヴァンは背を向けたまま答えた。

「お前が先ほどの話を理解できていないとは驚いた。
私がここに来た理由は先ほど説明した通りだ」
「はっ、シラをきるならそれも良い。
だが、一つだけ言わせてもらうぞ・・・」

相変わらずこちらを向かない男に、カンタビレの敵意ある声が刺さる。

「イオン様に手出しをすれば容赦しない、覚えておけ」
「身に覚えのないことを、覚えておく必要はないのだがな」

肩越しに視線だけをこちらに投げたヴァン。
薄く笑むそれに、カンタビレの視線はさらに厳しくなる。
それを気にも止めず、ヴァンは検問所へと歩き去っていった。






































































夜。
カンタビレは宿の外へと出、壁に背を預け夜空を見上げながら物思いに耽っていた。
他のメンバーは背後のベッドで熟睡中。
旅券は予想通りヴァンの手持ちで解決済み。
この先のカイツール軍港で船の手配も済ませるらしく、バチカルまでの足の心配もない。
とはいえ、腑に落ちない。
セントビナーで聞こえてきた六神将の会話からすると、ここで待ち伏せでもしてきそうなもの。
だが、襲ってきたのはあの時の会話にいなかったアッシュ。
時間的にも距離的にもあそこにいたメンバーが待ち伏せするには十分すぎるゆとりがあったはず。
本当に彼が待ち伏せ役だったのだろうか。
それにしてはあっさりと引き退った。
いや、あっさりし過ぎた。
ならば、その目的はーー

「カンタビレ?」
「!」

かけられた声にハッとしたカンタビレは声のした方を向く。
そこにはイオンが心配そうな表情でこちらを見上げていた。

「イオン様・・・」
「どうかしたんですか?」

敵襲の恐れはないとはいえ、気を抜き過ぎた。
カンタビレは小さく息を吐くと表情を緩めた。

「申し訳ありません、もしや起こしてしまいましたか」
「いえ、僕も寝付けそうにありませんでしたので」

そう言ったイオンはカンタビレの隣に進む。
そのまま立たせる訳にはいかず、手近な木箱にイオンを座らせると、カンタビレは自身の羽織をイオンの肩にかけた。

「考え事ですか?」
「まぁ、そんなとこです」
「・・・ヴァンの事、ですか?」
「申し訳ありません、イオン様の心を割いてしまうとは俺もまだまだですね」
「疑っているんですか?」

ズバリな直球にカンタビレは返答に迷い閉口した。
だが、この状況でのそれは肯定しているようなもの。
表情を曇らせるイオンにカンタビレは話題を変えた。

「イオン様、人を信用させる話の方法があるのをご存知ですか?」
「・・・いいえ」
「嘘の話に真実を織り込むことで、より真実味を帯びるんです。
それは真実のみの話でさえ凌駕するほど、万人を納得させてしまう威力を持つ」
「先ほどの話ですか?」
「ええまぁ。
偽るとすれば、どこか。その偽りの後ろに隠された真実を知らない事で招かれる事は何か。
そうまでこちらを煙に巻いてどんな計画が進んでいるのか・・・」
「・・・」

そこまで言ってカンタビレは先ほどよりも深刻さを増したイオンを見、自身を叱咤した。
話し過ぎたな、とカンタビレは口調を軽快なものに変える。

「なーんて、つらつらと時間潰しに考えてただけです。
さ、明日に備えて寝ましょう」

強制的に話を切り上げ、カンタビレはイオンの手を取る。

「苦労をかけますね」
「何を仰います。僻地を任された暇人の時間潰しとお伝えしたじゃありませんか。
全て俺の勘繰り違いだってオチだってあり得ますよ」
「そうですね」
「ここなら見張りを立てる必要もありません。
しっかりお休みください」

軽口で応じ、宿のドアを開ける。
疑惑の渦はまだまだその全貌を表さない。
募る苛立ちから目を背けるようにカンタビレはドアを閉めた。











>Skit『話題の人物登場』
T「アニス、無事で何よりだわ」
A「ルーク様ぁvあたし一人で寂しかったですぅ〜v」
L「お、おう。合流できて良かったな」
I「大変でしたね。アニス」
J「もう少しで心配する所でしたよ」
A「ぶ〜。最初から心配して下さい!」
T「これであとはバチカルを目指すだけね」
J「そうですね。六神将に襲撃されずに行けるとよいのですが・・・」
G「・・・」
A「なになに?ガイってばあたしに興味ありげ?」
G「いや、ジェイドとイオンとカンタビレの話から一体どんな子なのかと・・・
あの豪語っぷりからてっきり・・・」
A「え〜。あたし、普通のカワイイ女の子ですよぅ」
J「アニスの『普通』の基準は私とは少し違うようですねぇ」
I「ははは」
A「大佐ってばひっどーい!イオン様も笑うところじゃなーい!」


>Skit『噂の一人歩き』
G「まさかカンタビレがあの神託の盾オラクル騎士団第六師団長、猟犬ヴェルトロだったとはな」
L「なんだよ、そんなに有名なのかよ」
A「えぇっ!ルーク様、ご存知ないんですかぁ?」
L「わ、悪かったな!
だいたい、第六師団なら、前に聞いた六神将と同じ仲間みたいなもんだろ?」
C「・・・俺をあいつらと一緒にするんじゃねぇ」
I「第六師団はカンタビレが実地訓練指導教官も兼ねていることもあって、
神託の盾オラクル騎士団でも一番軍事力を持っているんです」
T「それにカンタビレ教官は、ダアトを離れてエンゲーブで流通の安全確保の任務に当たられているのよ」
I「はい。そのおかげで魔物の被害も激減し、
マルクト、ケセドニアだけでなく全世界の食料物流量が飛躍的に上がっているんです」
L「へぇー」(興味薄)
J「ま、猟犬という名は軍人なら誰もが一度は聞いたことがある名前ですしね」
G「だな。その目に睨まれた者は片目を取られるだの、
首を主人に持って帰ったが為に戦場は首なしの死体だらけだの恐ろしい噂が・・・」
L「ま、マジかよ・・・」
T「きょ、教官はそんなことなさらないわ!」
C「ま、火のないところに煙は立たないって言うがな」
T「カンタビレ教官まで!」
C「で?その噂を実体験したい奴はどいつだ?」
剣を僅かに抜いたことで、脱兎するルーク、ガイ、呆れるティア
I「カンタビレ、いくら何でも脅かし過ぎですよ・・・」
C「そうでしょうか?俺は正直者ですからね」




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