翌日(といっても魔界に太陽が昇ることはないが)。
ユリアシティに残ると言ったティアと、未だ意識が戻らないルークを残し他のメンバーはタルタロスでその時を待った。
そして当初の計画通りタルタロスは記憶粒子の波に乗り舞い上がる。
今まで感じ得たことのない、内腑が持ち上がるような感覚と全身にのしかかる圧。
しばらくしてその重圧から開放されたと思った瞬間、陸艦は衝撃に震えた。
その後、耳に届くのは潮騒。
そして光柱の御手によって、陸艦は暗闇から蒼天の光差す大地へと無事に迎えられたのだった。
ーーTOA No.49 魔界脱出ーー
「で?タルタロスをどこに着けるんだ?」
陽光を満喫する間もなく、魔界から脱出できた余韻からいち早く抜けたガイが問えばすぐにアッシュが応じた。
「ヴァンが頻繁にべルケンドの第一音機関研究所へ行っている。そこで情報を収集する」
「待て、ベルケンドはキムラスカの勢力下のはずだろ。そこに部外者のヴァンが入り浸ってたのか?」
「神託の盾からキムラスカに潜り込ませていたらしい」
「はっ、ヤツらしい小賢しさだな」
「それに俺はヴァンの目的を誤解していた。奴の本当の目的を知るためには奴の行動を洗う必要がある」
確かにそうだ。
あの男がアクゼリュス消滅の為だけにここまでの工作をしていたとは考えにくい。
(「それに第一音機関は他の研究所と違って、譜業の研究はしてねぇって報告があったはずだ。探れば何か分かるかもしれねぇか・・・」)
アッシュからの情報に思案を深くするカンタビレを他所に、アニスは口を尖らせた。
「ぶー、あたしとイオン様はダアトに返して欲しいんだけど〜」
「こちらの用が済めば帰してやる。俺はタルタロスを動かす人間が欲しいだけだ」
「ま、こっちも情報負けしたままなのは癪だしな。お前の読みが何処までアテになるか暫く付き合ってやるよ」
「ふん、好きにしろ」
「そこは感謝の一つも言いやがれ」
「おいおいカンタビレまで手を貸す必要あるのか?単にアッシュが自分の部下を使えばいいだけの話だろ?」
険を隠さないガイの言い振りに、アッシュは首を横に振った。
「それはできない。俺の行動がヴァンに筒抜けになる」
「いいじゃありませんの。私達だってヴァンの目的を知っておく必要があると思いますわ」
「ナタリアの言う通りです」
「・・・イオン様がそう言うなら協力しますけどぉ」
「私も知りたい事がありますからね。少しの間、アッシュに協力するつもりですよ」
「・・・」
他のメンバーの同意が重なり、一人憮然顔のガイを残したまま次の行き先は決まった。
「ベルケンドはここから東だ。さあ、手伝え」
魔界から数日の航行を終え、辿り着いた西アベリア平野。
海上からの来訪者を迎え入れる港は、他の街と比べ飾り気はなくそこで作業を行うものも無味にこちらを伺うようだった。
用が無い者を拒むような港を後にし、港を出、右手を海に面しながら南へ進むと目的の街が見えてきた。
音機関都市ベルケンド。
キムラスカ領であるそこは、街の警備はキムラスカ兵の装いで周囲に目を光らせている。
「警備の目はそれなりだな」
「あなたが悪目立ちしなければ問題なさそうですね」
「んな捕まりたきゃ敵国の首魁が居るって通報してやろうか?」
「ちょ、揉め事まずいんじゃ・・・」
雲行きが怪しくなる皮肉の舌戦を繰り広げていたカンタビレとジェイドにアニスが口を挟めば、片方は不機嫌そうに、もう片方はいつもの不敵な笑みのまま視線
を剥がす。
そして一行はなるべく目立たぬように足早に市街地を通り過ぎると街の奥、研究所の最奥にある 第一音機関研究所のドアを荒々しく開けた。
中は広さの割に人数は少なく、何事かとこちらを見返してきた。
それらを全て無視したアッシュは、探していた人物を見つけたのかずんずんと進みその者の前へと立つ。
すると、相手からは驚きを隠せない動揺が返された。
「お前さんはルーク!?いや・・・アッシュ・・・か?」
「はっ、キムラスカの裏切り者がまだぬけぬけとこの街に居るとはな・・・笑わせる」
「裏切り者ってどういうことですの?」
「こいつは・・・俺の誘拐に一枚噛んでいやがったのさ」
「まさかフォミクリーの禁忌に手を出したのは・・・!」
「・・・ジェイド、あんたの想像通りだ」
アッシュが応じた名に老躯は先程よりも大きく驚きを返した。
「ジェイド!死霊使いジェイド!」
「フォミクリーを生物に転用することは禁じられた筈ですよ」
「フォミクリーの研究者なら一度は試したいと思うはずじゃ!あんただってそうじゃろう、ジェイド・カーティス!
いや・・・ジェイド・バルフォア博士!」
「「「「!!!!!」」」」
スピノザの言葉に、今度は一行に動揺が走ることとなった。カンタビレを除いた誰もがジェイドに視線を向ける。
その様子に言い負かせると確信できたのか、スピノザは勢いづいた。
「あんたはフォミクリーの生みの親じゃ!何十、いや数えきれんほどのレプリカを作ったじゃろう!」
「・・・」
「世界がここまで繁栄してこれたのは、数多の実験を繰り返した犠牲の上に得た産物じゃ」
「・・・」
「それが分からぬあんたじゃなかろう!戦場の屍を漁ってまで、この研究を進めてきたあんたならの」
「・・・そうですね」
「そんなあんたに、ワシを責める権利など・・・研究を投げ出したあんたにあるはずがない」
「!」
無遠慮に暴かれていくジェイドの過去。
世間の噂にも通じるそれに誰もが言葉を失っていく。
そしてジェイド本人すらスピノザの非難に反論を持たず甘んじて受け入れていた。
だが、最後の言葉を耳にしたカンタビレは、皆の間を縫いスピノザの胸ぐらを掴んだ。
ーーガンッ!ーー
「うぅ!」
「てめぇに」
自身よりも細い老躯をカンタビレは手近な機材に叩き付けた。
スピノザだけが見た、射殺せるような眼光と見据えられ低い声が抵抗の意志を封じた。
「・・・・・・てめぇなんかに、何が分かるってんだ」
カンタビレの様子に一行は驚きのためか、恐怖のためか声をかけられない。
だが、しばらくして恐怖で蒼白となるスピノザを見かねたのか、老人にしては手荒すぎる応対を思ってか、ガイがカンタビレの肩に手を置いた。
「お、おいカンタビレ、落ち着けよ」
「手ぇ出すな、ガイ」
「とにかく落ち着けって!」
ガイの手によって強制的に距離を取られたカンタビレは一行の後ろへと引きずられるようにして引き離された。
それを見送ったジェイドは、いつもの語調で淡々と返した。
「あなたの言い分は否定はしませんよ。フォミクリーの原理を考案したのは私ですし」
「な、ならあんたにワシを責める事はーー」
「すみませんねぇ。自分が同じ罪を犯したからと言って、相手を庇ってやるような、傷の舐め合いは趣味ではないんですよ」
そう言って眼鏡を押し上げたジェイドは、動揺を抱かない泰然とした紅の瞳でスピノザを見据えた。
「私は自分の罪を自覚していますよ。だから禁忌としたのです。生物レプリカは、技術的にも道義的にも問題があった。
あなたも研究者ならご存知の筈だ。
最初の生物レプリカがどんな末路を迎え、そして引き起こされた事件がどんな被害をもたらしたかを」
事実を突き返され、これまで強気に出ていたスピノザはたじろぎ最初のように落ち着きなく動揺を見せた。
「ワ、ワシはただ・・・ヴァン様の仰った保管計画に協力しただけじゃ!
レプリカ情報を保存するだけなら・・・」
「保管計画?どういうことだ?」
今まで聞いたことがないフレーズにアッシュがいち早く反応する。
だがその反応が予想外だったのか、スピノザの方が驚きを返した。
「お前さん、知らなかったのか!」
「いいから説明しろっ!」
「・・・言えぬ。知っているものとつい口を滑らせてしまったがこれだけは言えぬ」
「だったら、手足の二、三本飛ばして吐かせてやる」
「落ち着けって!普段のお前らしくないぞ・・・」
再び距離を詰めようとするカンタビレを必死にガイが阻む。
と、そうこうしているうちにスピノザは譜術障壁が施された隠し扉の奥へと逃げ出していった。
それを見送るしかできず、意地を張るのも馬鹿らしくなったカンタビレは掴まれていた腕を振りほどいた。
「・・・ちっ・・・ガイ、もう放せ。俺は冷静だ」
「でも・・・」
「諄いんだよ、これ以上邪魔すんな」
「お、おい!カンタビレ!」
再度、こちらの動きを止めようとするガイの腕を跳ね除け、カンタビレはその場を足早に後にするのだった。
>Skit『カンタビレの怒り』
G「なぁ、どうしてカンタビレはあんなに怒ってたんだ?」
A「かなりマジ怒りっぽかったよね〜。初めて見たけど」
N「スピノザと昔、何かあったのでしょうか?」
G「さぁな・・・イオン、何か知らないか?」
I「・・・いえ、カンタビレはあまり自分のことは話さないですからね」
A「むー、イオン様でも知らないんですね」
I「ただ・・・」
G「ただ?」
I「もしかしたらですが、ジェイドを庇っての行動だったのかもしれません」
A「ほえ?あの仲悪そうなカンタビレが大佐を・・・?」
I「ええ」
A「うーん・・・」
G(「有り得ないんじゃないか?」)
A(「有り得んちゅーの」)
N(「有り得ないのではないかしら」)
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2026.03.02