ーーNo.47 監視者の街ユリアシティーー





























































































































ルークをベッドに置いたカンタビレは、ティアの案内で皆が待つ市長の元へと向かう。
会議室前で不機嫌顔のアッシュに一瞥を投げ、入り口のドアを開ければ早速ジェイドの声が飛んできた。

「随分、遅かったですね」
「野暮用だ。それに、客が来てたからな。わざわざ案内してやったんだよ」
「客って?」

首を傾げるアニス。
それに答えずカンタビレは手近の椅子に腰を下ろした。
間を置かず、現れた人物に皆が驚いた声を上げる。

「アッシュ!?」
「どうしてお前がここに!?」
「そんなことはどうでもいい。それと、そもそも貴様に案内された覚えはない」

ナタリアとガイを遮ったアッシュはカンタビレに睥睨の視線を向けるが、当人は面倒そうに流した。

「どうでもいいことなんだろ?いちいち突っかかんなクソ餓鬼が」
「・・・ちっ!話はどこまでいった!

友好的とはかけ離れたアッシュの八つ当たりの態度に険のある雰囲気になるが、それを和ませるようにイオンはこれまでの経緯を話し始めた。

「外殻大地に上がる方法について話しているところだったんです」
「ただ上がるだけなら、ティアが外殻大地に上がった方法で戻れば十分な筈です」
「えっ。どうして、それを・・・」

不思議そうな視線を向けてくるティアにカンタビレは肩を竦めて返した。

「俺は一時期、前導師の守護役も兼任してたからな。それなりに魔界クリフォトの事情も知ってんだよ」
「うは。隠居してたとは思えん」
「アニス・・・」

アニスの言葉を窘めるイオン。
と、やり取りを黙って聞いていたアッシュはテオドーロに視線を移した。

「タルタロスで外殻に上がる方法はないのか?」
「ないわけではありませんが・・・」
「おや、そうなのですか?」
「はい。パッセージリングと同様の音素フォニム活性化装置を取り付ければ、一度だけならアクゼリュスのセフィロトを刺激して再びツリーを伸ばす事ができると思いま す」
「でも、セフィロトとは私達の外殻大地を支えてる柱なんですわよね。それでどうやって上に上がるんですの?」

ナタリアの疑問に、イオンが答える。

「セフィロトというのは星の音素フォニムが集中し、記憶粒子セルパーティクルが吹き上げている場所です。
この記憶粒子セルパーティクルの吹き上げを人為的に強化した物が『セフィロトツリー』つまり柱です」
「要するに記憶粒子セルパーティクルに押し上げられるんですね」
「一時的にセフィロトを活性化し、吹き上げた記憶粒子セルパーティクルをタルタロスの帆で受ければ、うまくいけばそのまま上がりますね」
「なるほどな、セフィロトツリーに乗せられる形で外殻へあがるんだな」

イオンとジェイドの説明に腹落ちしたガイは納得顔だ。

「さよう。しかしそこまでしてあの陸艦が必要なのか?」
「必要だから言っている!」
「おいおい、でもあれだけの陸艦をこの人数で動かせるのか?」
「最低限の移動だけなら4、5人いれば十分ですね」
「それに上に上がってすぐに移動しなければならない事を考えればその方法が良策、か」

後を引き継いだカンタビレも頷き、アッシュの提案に賛同が集まった事でテオドーロは立ち上がる。

「では、取り付けに少々お時間をいただきましょう。よろしいですかな?」
「・・・仕方ない」

話がまとまり、テオドーロとアッシュは会議室を出て行った。
部屋に残ったのはルークを除いたメンバーだった。

「さて、話はそれだけじゃないはずだな、ジェイド」

口火を切ったカンタビレに皆の視線がジェイドに向けられる。

「おや、何の事でしょう?」
「ルークとアッシュの事だ」

椅子の背もたれに寄りかかったカンタビレは面倒そうに言い捨てる。
はぐらかすことを許さず、ずばり核心を突いたカンタビレにその場の空気がピンと緊張した。
一石を投じた言葉に、皆の表情が強張った。

「その・・・本当なんですの?ルークがアッシュの・・・」
「本当、だと思うわ。アッシュが言ったことを直接聞いたし・・・」
「じゃあ・・・本物のルークはアッシュだってことか?」
「信じらんない・・・」

ナタリア、ティア、ガイ、アニスは困惑した表情を浮かべる。
その中で、表情を暗くしたガイに気付いたカンタビレだが、それをあえて口にする事なく口を噤んだ。

「あくまで、その可能性はあると思っていました。
しかし・・・」
「生物レプリカは作る事が禁じられていたはず、と聞いたことがありますが」

顔色の優れないイオンの言葉にカンタビレは頷いた。

「ええ、その通りです。
かの天才譜術博士、バルフォアによって10年以上前に禁じられています」
「ですが、事実として存在している。誰かがその禁忌を犯したとしか考えられません。
私が言えるのはここまでです」

ジェイドはそれ以上語る事なく口は閉ざされる。
皆を包む空気も同様に重くなり、自然とこの話は打ち切られることとなった。
















































































































タルタロスの準備が整うまで自由行動となった。
街から出、暗紫の空を見上げていたカンタビレに声がかかる。

「どうかな?魔界クリフォトの感想は」
「聞いていた通り、気分が滅入るとこだ。長居はごめんだな」

容赦なく言い返し、振り返ればそこに居たのはこの街の統治者。
友好的とは程遠い眼光で見返してきたカンタビレに、老躯は感心したように息を吐いた。

「あなたが第六師団長カンタビレ殿ですか。
なるほど、精悍な顔立ちをされておりますな」
「初対面だと思っていたがな、テオドーロ市長」

眉間にシワを寄せ、鋭い睥睨を崩さぬカンタビレにテオドーロは後ろ手を組み穏やかに続ける。

「前導師より、お話しだけは伺っておりましてな」
「なら、随分とやりあったんだろ。
あの方はあんたらみてぇな高みの見物を決める輩にはさぞ邪魔だったろうしな」
「ユリアの御許に旅立たれし者に願うのは安寧のみです」
「それがユリアの教えってか。はっ!胸糞悪い」

そう吐き捨てたカンタビレはそのままその場を後にしようとした。
が、気が変わり再びテオドーロに向き直った。

「何故、俺達に協力する?
ここの連中はモースと同類の偏執狂だろ」
「我々は『監視者』です。
外殻大地がユリアに詠まれた預言スコア通りの繁栄の道を辿るのを見届けるのが務め」
「結論は同じだろう、周りくどく言うんじゃねぇ」

苛立ちを隠すことなくカンタビレは唸る。
まるで刃物のような様子を崩さないカンタビレにテオドーロは、語調を変えず続けた。

「随分とお疑いですな」
「停戦は謂わば『預言スコア通りの繁栄の道』とやらを阻害する。
なら、それをしでかす奴らを一箇所にまとめて外殻大地の高さから落としゃ効率良く殺せる」
「なるほど、軍人らしい考え方ですな」
「崩落させた首謀者の身内を手放しで信用しろと?
俺がそんなにぬるい人間とでも思ってんのか?
ユリアシティ市長、テオドーロ・グランツ」
「解釈違いをなさっておいでだ」
「は、どうだかな。
預言スコアを盲信してる節穴共には目の前の現実さえ見えているとは思えねぇよ」

不信感を露わに蔑みの視線を強めるカンタビレに、テオドーロは自身の胸に手を置いた。

「心配も不安も抱く必要はありません。
この世界の人々も、あなたも、導師でさえユリアの預言スコアに導かーー」
「冗談じゃねぇ」
ーーガァンッ!!ーー

より一段と険しい面持ちになったカンタビレは、怒りをぶつけるように手近の壁に拳を叩きつける。
威力を物語るように陥没した壁に拳を埋めたまま、まるで射殺すようにテオドーロを睨みつけた。

「エベノス様もそしてイオン様も預言スコアに踊らされてるんじゃねぇ。己の意志の下に歩ま れてんだ。
てめぇらの理屈を押し付けてんじゃねぇよ」

吐き捨てたカンタビレはそのまま歩き去った。
こちらに語りかけられた言葉すら聞かぬように・・・

























































「あなたも、ユリアに導かれし一人ですぞ。カンタビレ殿」



































































>Skit『呼び方』
G「そういえばカンタビレがジェイドのことを名前で呼ぶのって初めて聞いた気がするな」
A「言われてみればそうかも」
G「なんか、最初からソリが合わないつーか、険悪だったよな」
I「そうですね。ですがカンタビレがそのような態度をするときは、決まってとても信用の置ける人相手でしたよ」
A「それって相手を試す為にわざとやってるってことですかぁ?性格悪ぅ」
I「アニス・・・」
G「でもイオンの話が事実だとすれば、少しは旦那の事を信用するようになったってことか?」
A「今頃!?遅っ・・・」
G「まぁ、性格的に合わないってこともあるんじゃないか?
ジェイドは何でも煙に巻くタイプだし、カンタビレは聞いても答えるのは当たり障りないことだし、
イオン以外には聞かれないと答えないタイプだしな」
I「カンタビレもヴァンと一緒でかなり若いときから軍事訓練を積んでいましたから、
周囲の目がどうしても厳しかったんだと思います。
きっとそのために身につけた処世術なんではないでしょうか?」
G「へぇ〜、偉くなるといろいろ大変なんだな」



>おまけ
「くしゅっ!」
ーーズキッーー
痛っ〜 ・・・こんなときに誰だ、噂しやがって・・・」


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2021.06.13