ーーNo.46 明かされた真実ーー



























































































































魔界クリフォトの中を航行すること数日。
やっと目的の街へと辿り着いた。
監視者の街『ユリアシティ』
魔界クリフォトの紫煙の中に佇むその街は、まるで救いのない闇の世界に唯一差し込む光のように見えた。

「ふぇ・・・これがユリアシティ?」
「珍しい建築物ですわね」
「こんなところに人が住んでいるなんてな」
「奥に市長がいるわ、行きましょう」

興味深く皆が周囲を見ながら歩き出す中、二つの足音が足りない事に気付いた。
カンタビレが振り返れば教え子であるティアがルークに近づいていく所だった。
大方、行く事を渋っているのだろう。
構うことないかと判断した、その時。

「とことん屑だな!この出来損ない!」

現れたのは神託の盾オラクルの軍服に身を包んだ鮮血の髪。
あの時、ヴァンに連れ去られたはずの彼が何故ここにいるのか。
カンタビレは止めていた足を来た道に戻した。

「・・・お、おまえ!どうしておまえがここにいる!
師匠はどうした!」
「はっ!裏切られてもまだ師匠か」
「・・・裏切った・・・?じゃあ本当に師匠はオレにアクゼリュスを・・・」

打ちのめされたように表情を暗くするルークと対照的に、怒りに表情を染めるアッシュが盛大に舌打ちをついた。

「くそっ!俺がもっと早くヴァンの企みに気付いていればこんなことにはっ!
お前もお前だ!何故深く考えもしないで超振動を使った!?
「お、おまえまでオレが悪いって言うのか!」
「悪いに決まってるだろうが!ふざけたことを言うな!」

当然と断言するアッシュに、ルークは撥ねつけるように同じ言葉を繰り返した。

「オレは悪くねぇっ!オレは悪くねぇっ!オレは・・・」
「はん、冗談じゃねぇっ!レプリカってのは脳みそまで劣化してるのか!?」
「レプリカ?そういえば師匠もレプリカって・・・」

動揺するルークを見て、カンタビレは小さく息を吐いた。

(「決定的、だな・・・」)

内心呟き対峙する二人の少年を見た。
まるで鏡に映ったようなそっくりな姿。
誘拐による後遺症で誰も分からなくなったと言う記憶障害。
同時期に入団した、鮮血の髪の幼い少年。
推測であってほしいという淡い願いは見事に打ち砕かれた。
そしてルークの様子を見たアッシュは、蔑みを深くした。

「・・・お前、まさかまだ気付いてなかったのか!はっ、こいつはお笑い種だな!」
「な、なんだ・・・!何なんだよ!」
「教えてやるよ。『ルーク』」

暗い光を瞳に宿すアッシュはゆっくりとルークへと近付く。
それを見ていたティアは、それ以上のやり取りを仲裁しようと足を踏み出した。

「アッシュ!やめーー」
「よせ、ティア」
「教官!しかし・・・!」
「遅かれ早かれ、知らねばならんことだ」
「でも!!」

言い募るティアを他所に、死刑宣告に等しい内容がルークに告げられる。

「俺とお前、どうして同じ顔してると思う?」
「・・・し、知るかよ」
「俺は、バチカル生まれの貴族なんだ。七年前にヴァンって悪党に誘拐されたんだよ」
「・・・ま・・・さか・・・」
「そうだよ!お前は俺の劣化複写人間だ。ただのレプリカなんだよ!」
「う・・・嘘だ・・・・・・!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ!

虚しい現実を拒絶する声が暗い辺りに木霊する。
そして、我を失ったルークは震える手で腰の柄を引き抜いた。
それを冷めた目で見下ろしたアッシュが吐き捨てる。

「・・・やるのか?レプリカ」
「嘘を・・・嘘をつくなぁっ!!
















































































































勝負は始めから見えていた。
まぁ、彼の心情を思えば分からなくもないことだが、目の前で見ていて気分の良い戦いぶりではなかった。

「はぁ・・・」

カンタビレは小さく嘆息した。
その前で、剣を弾かれたルークが無防備に地面に横たわっていた。

「う、嘘だ・・・・・・オレは・・・」
「俺だって認めたくねぇよ!こんな屑が俺のレプリカなんてな!
こんな屑に、俺の家族も居場所も全部奪われたなんて・・・情けなくて反吐が出る!死 ね!
「もうやめて、アッシュ!」
ーーガキーーーンッ!ーー

悲鳴を縫って高い金属音が凶事を阻んだ。
振り下ろされた剣跡を受け、細身の刀身越しに鋭い暗紫の瞳がアッシュを射竦める。

「そこまでだ」
「貴様っ!」
「いい加減気も済んだろうが。意識もねぇ奴に手を下すほど落ちぶれたってんなら、俺が相手してやる」
「・・・ちっ!」

睨み合いの末、ようやく退いたアッシュにカンタビレは僅かに抜いた愛刀を戻した。
未だに怒りが収まらないような後ろ背を向けるアッシュにカンタビレは続けた。

「『もっと早くヴァンの企みに気付いていれば』ね。
それは俺がヴァンをどうにかできなかった当てつけか?」
「ふん」

カンタビレの問いに答えず、まるで同意するように鼻をならしたアッシュはようやく剣を収める。
それ以上口を開かないようなアッシュに、倒れたルークを一瞥したカンタビレは構わず言葉を続ける。

「戦いに私情は挟むもんじゃねぇって、前にも忠告したがな」
「てめぇには関係ねぇだろ」
「そうもいかなくなった」
「あ?」
「お前も市長の所に行くんだろ、『アッシュ』?」

名前を強調して呼んだカンタビレにアッシュは鋭い視線を返す。
が、それをひらりとかわすようなカンタビレは、肩をすくめた。

「このまま魔界クリフォトにいる訳にもいかねぇ。
早くヴァンの動向を探る必要がある以上、ここを抜け出すには市長と会う必要があるんだろ?」
「ふん、分かっている事をいちいち言うな!」

怒りに肩をならしてアッシュは歩き去る。
それを見送ったカンタビレは餓鬼だな、と呟くとルークを揺らすティアへと視線を移した。

「ルーク!ルークしっかりして!」

口ではキツイことを言っていても、やはり気になるのだろう。
ティアに近づいたカンタビレは膝を折ると、ルークの首筋に指を添えた。

「・・・気を失ってるだけだ。ま、怪我だけが原因じゃないだろうがな」
「カンタビレ教官、ルークは・・・」
「心には相当な負担だろうよ。
今まで生きてきた思い出も、居場所も、自分の存在すらも否定されたようなもんだからな」
「・・・・・・」

ティアはルークを悲しげに見下ろす。
そんな教え子の頭にぽんっ、と手を乗せるとカンタビレはルークを担ぎ上げた。

「さて、と。
市長の所に行く前に、こいつを置ける所に案内してもらうぞ、ティア」
「あ・・・は、はい!」

赤くなりながらも、終止気遣わしくルークを見つめるこの子は心底、優しいと思った。
















































































































男は言った。

『何も知らぬ貴様の刃はもう私には届かん、どう足掻こうともな』

・・・何も知らないだと?一体、何を知らないというのだ?

『すでに賽は投げられた。もう神だろうがユリアだろうが止められねぇさ』

止められない・・・神でもユリアでも止められないそれは何だ?

「・・・」

イオンの誘拐、各地のセフィロト解放、成功していた生体レプリカ、預言スコア、暗躍する六神将・・・
点でしか判明していない事態を繋げるにはまだ情報が少な過ぎる。
線へと繋ぐ鍵は一体どこにーー

「カンタビレ教官?」

呼びかけられた声にはたと我に返る。
物思いにふけ過ぎていた。
相手から気遣わし気な表情が返されていた。

「ああ、悪いな」
「いえ。それより身体の方は・・・」
「問題ない。今回、お前とナタリアには随分世話をかけたな。貸し一つだ」
「そんなことは・・・」
「で?お前はどうするつもりだ?」
「どう、とは・・・」

ティアの返答にカンタビレは小さく嘆息した。
この辺り反応は歳相応だな。

「ヴァンの造反は確定的だ。お前はその実妹。
これだけ揃っていれば教団ならどう動くか分かっている筈だな」
「・・・はい」
「まぁ、それは別としてお前はお前の任務を遂行中のはずだ。
腰を落ち着けて考える時間が必要な場合もある。
お前自身の答えを出せ」
「・・・」
「じゃ、そろそろ市長のーー」
「カンタビレ教官」

呼び止めに振り返れば、懸命に言葉を探しているような少女の姿。
そしてようやくそれを見つけたのか、不安げに揺れる深海の瞳がこちらを見つめた。

「わたしには・・・何が足りなかったでしょうか?」

いつかの決意に満ちた時と違うそれ。
後悔、不安、恐れ、迷い・・・
答えを求めるかつての教え子に、カンタビレは求めるものとは違う答えを投げ返した。

「俺は、過去を振り返るより気付けたその先を考えろと教えた筈だったがな」

































































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2021.06.13