ーーNo.42 失われた大地ーー























































































































「ヴァン!貴様、なんて事をしやがった!!」

アクゼリュスを見下ろせる崖上。
神託の盾オラクル兵に両脇を拘束されながらも、怒り狂うアッシュがヴァンの背中に怒声を叩きつける。

「何を怒っている」
「何っ!?」
「アクゼリュスを消滅させたのはレプリカだ。
私に怒りを向けるのは筋違いというものだ」
「全ててめぇが計画したことだろうが!!」
「勘違いしてもらっては困る。
その計画の片棒をお前も担っていた。
わざわざレプリカと回線を開いたのだ、防ぎたければ防げば良かったであろう」

肩越しに視線だけを返して言ったヴァンに、アッシュの怒りは頂点に達し、神託の盾オラクル兵を振り払うと腰の剣に手をかけた。

「貴様ぬけぬけと!」
「アッシュ、退きなさい」

するとアッシュの前にリグレットが立ち塞がる。
その者の実力はアッシュ自身も分かっていたが、我が身を焦がす怒りはそんな事で収まらない。
それも分かっているのか、リグレットは冷静な瞳でアッシュを見据える。

「閣下に仇成せば容赦しない」
「上等だ!」
「待て、リグレット」

しかし当事者からの制する声に、リグレットは戦闘態勢を解いた。

「出来るものならやってみるといい。
我が望みを阻む事が出来ると言うのならな」
「ちっ!!」

余裕余りあるヴァンの嘲笑に、アッシュは怒りのままその場を離れる。
それを見送るリグレットはヴァンを仰ぎ見た。

「追いますか?」
「構わん。少しは頭を冷やす時間が必要だろう」
「承知しました」
























































































































青空の下、まるでぽっかりと口を開けたような巨大な穴。
それはまるで終わりのないような漆黒の闇が続いていた。

「ほぉ〜、にしてもどでかい穴が空いたもんだぜ。
超振動ってのは相当な破壊力だな」

崖際ギリギリの所に、下を覗き込む一人の男。
そこに一つの街があったことも、一瞬で何千という命が失われたことも、
それを仕出かした者が誰かということも知っていながらその口元は不穏に歪み、とても楽しげだ。

「ツリーが失われたのだ、当然だ」
「で、大罪人はガキ一人ってか。
街一つ消すなんてこと考えるあんたの方がよっぽど悪党だぜ」

皮肉るザインに、歩み寄ってきたヴァンはふっと笑った。

「アクゼリュスの消滅は預言スコアの、星の記憶によって定められていたに過ぎん。
この世界ではその道を外れる事の方が間違いなのだよ」
「へーへー。わーってるよ、んなこたぁな。
聞き飽きすぎて耳タコだっつーの。預言スコア様々、素晴らしいこって」

軽口で応じるザインに、ヴァンは暫し探るような視線を向ける。
だが、返されるのは変わらず不穏な口元だけ。

「・・・ザイン」
「あん?」
「お前は王女がマルクトの策略で死んだとモースに報告だ。
これであの男の望みが叶うだろう」
「待ちに待った戦争の始まりってか?飛んで喜ぶぜあのオヤジ」
「閣下、お時間です」

二人の会話に割り入るようにリグレットが声をかける。
それに応じるようにヴァンは踵を返し、肩越しに続けた。

「私には次の準備がある、追って次の指示を出す」
「野望が大きい謡将殿はお忙しいこって」
「ザイン、口が過ぎるぞ」

非難するようにリグレットの険しい視線がザインに刺さる。
だがそれに返されるのはニヒルな口元だけだった。

「お前も己が仕事をするのだな」
「おいおい無茶言いなさんな。手がかりがねぇ中やってんだからよ」
「見張りも碌に出来ない奴の言い訳か?」
「その程度で頓挫する計画なら俺様が引き継いでやるよ」
「・・・まぁ、よかろう」

肩を竦めるに留めたヴァンはリグレットを伴ってその場を後にする。
そして陸艦に足を進めている中、ヴァンは呟いた。

「アレは読めんな」
「監視を付けますか?」

即座に応じたリグレットに、顎髭を撫でるヴァンは思案する。

「そうだな・・・神託の盾オラクルの監視を強めるか」
「シンクでなくてよろしいのですか?」
「別にやってもらうことがある。それにまだ捨てるには早い」
「はっ」

























































































































ヴァンと分かれたザインは、惨状を見た後とは思えないほど足取り軽く、鼻歌交じりに歩いていた。
そしてその後を漆黒のマントが続く。

「・・・ザイン様」
「あ、なんだ?」

突然かかった声に、淡々とした声が返る。

「・・・アクゼリュスが崩落あのようになるのをご存知だったのですか?」

静かな、だが悲しみに染まった声音。
ザインの歩みは止まる。
まるでその問いの真意を見定めるような、実験動物の観察するようにも見えるそれ。
しばらくの沈黙が過ぎてから、ようやく答えが返された。

「は、知るわけねぇだろ。そもそも何人くたばろうが興味もねぇ。
どうせヴァンの奴のくだらねぇ計画の一つだろうぜ」
「・・・・・・」

そう言ったザインは再び止まっていた歩みを再開する。

「まぁ、あいつは自分の願望にご執心だ。
俺を利用しようとしてる間は、無駄な勘繰りはしても余計な手出しはしてこねぇだろうしな」

くつくつと喉の奥で笑ったザインは、まるでゲームを楽しむような口調で続けた。

「ま、俺に手出ししたこところで無益なことはあいつにも分かってるだろうよ。
それにんな事で俺の目的に支障をきたすようには動いてねぇし。
俺は自分の理論が実証できる場があれば構わねぇんだからな」
「・・・・・・」

どこまでも掴めない言動のザインに従者は返す言葉を持たない。
ただ、足取り軽いその者の後を沈黙を守ったまま歩き進めた。





























































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2020.12.5