ルークの肩を借りようやくといった感じで歩いていたガイだったが、船に乗るといつものようなはつらつとした顔を見せた。

「おかしいな。ケセドニアを離れたらすっかり痛みがひいたわ」
「なんだよ、心配させやがって」

ほっとしたようなルークに、悪い悪いとガイが返す。

「じゃあやっぱりカースロットの術者はケセドニア辺りにいたのね」
「よかったですわね、ガイ。早めにケセドニアを出て」
「そういや、この傷をつけたのはシンクだったけど・・・
まさかあいつが術者かな」
「おそらく・・・そうでしょうね」

カースロットの紋章がある腕をさすりながら語るガイ言葉に、イオンは歯切れ悪く答えるしかなかった。
















































































































ーーNo.33 既視感ーー


















































































































しばらく潮風に吹かれていると、カンタビレは近づいてくる気配に肩越しに振り返った。
そこにはいつも通りのガイが、よっと片手を上げていた。

「体の調子はどうだ、色男」
「おかげさまでね」

そりゃあ良かった、と応じカンタビレは再び水平線に視線を移す。
すると、ガイもカンタビレの隣の欄干に背を預けた。

「ケセドアニアでは助かった、ありがとな」
「別に。知ってた知識だったってだけだ」
「なぁ、カンタビレは神託の盾オラクルの師団長なんだよな?」
「ああ」
「その割には・・・」

向けられる不躾な視線にカンタビレは渋い顔を返した。

「なんだ?」
「割と細腕だーー」
ーーキンッーー
「いい度胸だ、相手してやるから抜け優男」
「き、気を悪くしたなら謝る!
六神将二人相手に瞬殺する奴と勝負なんかしないって」

焦るガイにカンタビレはつまらなそうに、視線を海に戻した。

「喧嘩を売るなら相手を選べ」
「あぁ、気をつけるよ」
「軽い謝罪だな・・・どっかの大佐みたいだ」

カンタビレの言葉にガイはキョトンとした顔を見せる。

「おいおい、俺がジェイドみたいだってのか?」
「物の例えだ」
「あの旦那と同じだなんて勘弁しーー」
「おや、私がどうかしましたか?」

噂話の当人の登場にガイは慌てたように振り返った。
そこには不敵な笑みを浮かべるダッグブルーの軍服の男が立っていた。

「ジェ、ジェイド・・・いたのか?」
「おや?私が居ては不都合でも?」
「いや、旦那の話をカンタビレとーー」
ーードシュッ!ーー

手刀を叩き込まれたガイの言葉はそこで途切れた。
痛みに唸るガイをそのままにカンタビレは歩き出す。

「っ〜!痛いじゃない・・・!」

瞬間、ガイははっとしたようにカンタビレの去って行く姿を見つめる。

(「俺・・・昔、こんな風に・・・」)

呆然と見つめるガイに、深紅の瞳が興味深そうに細くなった。

「どうかしましたか?」
「え?あ、いや・・・なんでも、ないんだ・・・」

鈍い痛みのソコをさする。
深々と心の傷を穿つ楔。
炎、怒号、悲鳴、鉄臭・・・
あの時の記憶は、全てが紅と煤けた色に染まっていた。


『良いですか、あなたはたった一人の跡取り。
何があっても生き残らなければなりません』

たしなめる厳しい声。
優しく大好きだったその人のあまりにも張り詰めた気迫と不穏な音が身を竦ませた。
そしてしばらくしてその声は遠くへと消え、代わりに聞こえてきたのは苛立った、荒々しい声。

『おい!お前、どうしたんだその格好!?』

『くそっ!気付かれたか。てめぇが騒ぐからだぞ、このクソガキ!』


朧げだが、きっと助けてくれたのだろうと思う。
だが、そんなことがあり得る筈が無い。
そう思いながら、ガイは痛む頭をさすった。
しばらくして、ガイは甲板から船室へと戻った。
するとそこには、先に休んでいたらしいイオンが居た。

「なんだ、イオン一人なんて珍しいな」
「アニスはルークと居るはずですよ」
「ははは、相変わらずだな」

まだ玉の輿を諦めてないらしい少女の逞しさに乾いた笑いが上がる。
その後も暫く世間話を続ければ、イオンから気遣わしげな視線が返される。

「どうかしたか?」
「ガイ・・・大丈夫ですか?」
「ああ、もう痛みも何もないわ。悪いなイオンにまで心配かけちまって」
「・・・いえ」
「今は何ともないから別に良いけど、アクゼリュスの件が片付いたら何とかした方がいいかもな」

うーん、と腕組みをしながら呟くガイ。
それに言葉を探すようなイオンだったが、再び口を開いた時出てきたのは先ほどと同じ言葉。

「ガイ、本当に何ともないんですか?」
「大丈夫だって、そんなに心配するなよ」
「そう、ですね」
「そんな深刻な顔されると、俺がお前を虐めてるみたいじゃないか」
「・・・」

冗談めかした言葉だったが、イオンはますます表情を暗くする。
逆効果だったことに、ガイは内心慌てながらも軽快に語る。

「頼むよ。お前にそんな顔されると俺がーー」
「腹切って詫びるってか?」
「!?」

ゾクリとする声にガイの肩が跳ねる。
勢い良く振り返れば、ティーセットを手にしたカンタビレがガイが今まで見たことが無い笑顔でこちらを見下ろしていた。

「そうかそうか。そんなに詫びがしたいなら俺が直々に真綿で首を絞めるような拷問に かけて殺してくれって嘆願しか吐けねぇようにしてやるのも吝かじゃねぇぞ?」
「元気元気!俺はちょー元気だから気にするなよイオン!じゃあな!!」

いつ入って来たんだとか、どこから話を聞いていたんだ、など突っ込みも無く、まさしく脱兎の如くガイは船室から姿を消した。

「カンタビレ・・・」
「確証がないのでしょう?」
「・・・」

ティーセットが乗ったトレーをテーブルに置いたカンタビレが静かに呟く。
答えは返らない。
それは拒否や無視に捉えられるが、今この場では肯定の意味しかない。
深刻さを深めるイオンに、カンタビレは運んできたカップをイオンの前に置いた。

「しばらく俺が目を配ります」
「・・・お願いします」
「お任せください」

気弱な声にカンタビレが不敵に笑えば、イオンの顔に若干の笑みが返された。
そして、僅かな不安さえも消すようにカンタビレは紅茶を注ぐのだった。











































































































>skit『必死』
A「もー!なんでガイまであたしの邪魔するかなー」
G「ま、まぁいいじゃないか。俺も潮風に当たりたかったんだよ」
T「でも教官と一緒に当たってたんじゃない」
G「え"!?き、気のせいじゃないか?」
L「つーか、もう海見るのも飽きた。船室にでも行こうぜ」
G「いや!まだ見てない所もあるだろ!」
L「ね、ねえーよ。んな小さい船、もう回り切ったっつーの」
G「いやいやいやいやいや、船橋ブリッジはまだだろ?そうだろ?な、ルーク。見たいよな?」
L「べ、べつにーー」
G「よーし!船室じゃなて船橋ブリッジに行くぞー!」
L「人の話を聞けっつーの!」
A「・・・なにあれ?」
T「船室に行きたくないワケでもあるのかしら?」





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2020.2.19