最後尾のカンタビレの姿も消えた。
後に残されたのは重傷2名と、不機嫌な青年が取り残された。
「あれがナタリア王女か・・・因縁だね、ラルゴ」
傷を負いながらも、まるで嫌味のような含みのある言葉。
シンクの言葉にアッシュの鋭い視線がラルゴに刺さる。
「・・・おい、ラルゴ。てめぇ、ナタリアと何か関係があるのか?」
「・・・さて、昔のことだ。忘れてしまった」
アッシュの視線にふいと視線を逸らしたラルゴ。
当然、アッシュは面白くない。
さらに詰問を重ねようとしたアッシュが距離を詰める。
が、
「六神将は互いの過去を知る必要はない。
アンタだって、それが身に染みているだろう?
『聖なる焔』の燃えカスであるアンタならね・・・」
シンクの揶揄するそれに出鼻を挫かれ、アッシュは忌々しそうに舌打ちをついた。
「ちっ・・・
クソが、俺一人でコイツらの尻拭ーー」
「よ〜、アッシュ。やっと終わったみたいだな」
「・・・」
と、その時。
どこからともなく現れた一人の男。
そしてその後ろに追随する漆黒のマントに身を包んだ者。
前髪で表情の半分が隠れているその男は、不敵な笑みを口元に張り付け気安くアッシュに片手を挙げる。
それを見たアッシュは元々深かった眉間の皺をさらに深くした。
「ザイン・・・いつからそこにいた?」
「さ〜てな?戦い終わるまで柱の陰に隠れてたもんでよ」
「貴様・・・」
「おいおい俺まで面倒事に巻き込むんじゃねぇよ。
ここに来たのは単なる伝令役でなんだからよ」
「何だと・・・?」
よいせっとザインはラルゴを肩に担ぎ柱のそば、シンクの隣に移動させる。
そして漆黒のマントの方を向くと、アッシュに向けた気安さが消えた声で命令した。
「おい、さっさと治せ」
「・・・承知しました」
「おい、どういうことだ?」
自分を無視したまま話が止まっている事に、アッシュが詰め寄ればザインは声音を戻し話を続けた。
「ラルゴとアッシュは一度、ダアトへ戻れとさ。
んでシンクと俺はこのままケセドニアに向かう」
「ふざけるな、導師の奪還はどうする気だ?」
苛立つアッシュの言葉に、あぁそれね、とばかりにザインはひらひらと手を振った。
「問題ない、リグレットが先回りしている手筈になってる。
俺も後追いで行くしな」
「だったら、お前がコイツを連れてダアトに戻れ。
俺は奴らを追う」
「あんな・・・人の話、聞いてたかアッシュ?上からの命令だっつってんだろ」
「知るか」
ザインの言葉に耳を貸す事なく、アッシュは歩き出す。
それを止めるでもなくただ見送りながら、ザインは面倒そうに頭を掻いた。
「ったくよー、とんだ我が儘坊主だぜ・・・
導師を取り逃がした上に、わざわざ助けに来てやったってのに礼も無しかよ」
「・・・余計な、お世話だ。助けてくれなんて頼んだ覚えはないよ」
漆黒のマントの治療を受けながら、息も絶え絶えなシンクの悪態にザインは深々と溜め息をついた。
「はあぁ〜、こっちもこっちで面倒臭ぇ餓鬼だな。
瞬殺されたくせに大口叩くんじゃねぇよ」
「・・・世話をかける、ザイン」
「全くだ。そう思うならヤられんじゃねぇよ」
素直に謝罪を述べるラルゴに対してもザインはあけすけに言い返す。
それを甘んじて受けるラルゴに対し、黙っていなかったのはシンクだった。
「ふん、こそこそ隠れるしか、できないくせに・・・」
「・・・シンク様、傷に障ます」
「おーおー、怖い怖い。
死に損ないのガキンチョの虚勢に俺様怖くて欠伸が止んねぇよ」
「貴様・・・っ!」
「シンク様・・・」
立ち上がろうとしたシンクが、くぐもった苦悶を押し殺し再び膝をついた。
それを介抱しようとした漆黒のマントの手さえシンクは跳ね除ける。
それを欠伸を噛み殺したようなザインが手振りで治療の続きを促し、緩んだ声音のまま続ける。
「ほーれほれ、黙って治療されてろ。
お前の仕事はまだ残ってんだ。
こちとらお前さんらと違って忙しいのに出向いてやってんだ、無駄な時間取らせんじゃねぇよ」
言外に『足手まといが』と滲ませるザインに、シンクは仮面の下の表情を歪めた。
(「・・・いつか殺してやる」)
「やれるもんならやってみな」
「!」
仮面で見えないはずの表情が驚きで固まる。
前髪で隠れて見えないはずのザインの視線は、自分の苛立ちを増長させる相手と同じような気がした。
そんな動揺が伝わったのか、ザインは心底小馬鹿にしたようにシンクの前に対座した。
「お前、かなり分かりやすいからおちょくられんじゃねぇの?」
「双撞ーーぐっ!」
「ザイン様!」
「シンク止めろ、ザインもその辺にしておけ。
我らが回復せねば時間が無駄になるんだろう?」
一向に治療が進まない事で、年長組だろうラルゴが仲裁に入る。
目の前の男に鋭い掌底を見舞おうとしたシンクは、漆黒のマントに抱き留められている。
直前の戦闘は間違いなく深手となっていた。
同じ肩書きの『師団長』でありながら、闘将二柱を一人が膝をつかせた。
六神将に属さないその者の実力は、左遷されても尚、導師の矛と盾として機能している。
「・・・そーいや、そーだったな。
そんじゃ、行儀良い子になって治療受けるんだぞ、ボクちゃん」
「殺すッ!」
ザインはシンクの頭をぽんぽんと撫で、再び喧騒が激しくなった。
「はぁ・・・」
言ったそばからザインのシンクをからかうそれにラルゴは深々とため息をついた。
完治までそれなりな時間がかかりそうだ。
ーーNo.30 布石ーー
ケセドニアに向かう途中、オアシスで休息を取ることとなった。
強行軍でそのまま向かうこともできたが、砂漠の灼熱と、足場の悪さも相まって
いつもなら文句の一つも言うルークもこの時ばかりは黙っていた。
「ふぅ、少し生き返ったな」
「ええ、一息つけましたね」
炎天下を避け、日陰で休むとルークとイオン。
その隣に座ったアニスも二人に首肯した。
「ですね。やっぱり砂漠はきついよ〜」
「っつーか、また砂漠歩くのか。うぜぇ〜」
「まぁ、普通は海路を使うから、砂漠越えなんてしないからな。
他人から見たら俺らは・・・ま、変人だ」
げんなりするルークに返したガイ。
その言葉に流石のイオンも微妙な表情を浮かべた。
「変人、ですか」
「変人って響きは結構傷つく・・・」
「通常陸路なら、砂漠越えは陸艦ですからね。
つーか、イオン様を変人部類にカテゴライズすんじゃねぇよ。
徒歩で砂漠越えになったのは六神将の所為だろうが」
「す、すまん。そんなつもりは・・・」
「カ、カンタビレ・・・」
後半を殺気を纏って凄むカンタビレ。
それにガイは日陰から飛び出して距離を置く。
イオンは慌てたように間に入ろうとするが、勝者は見るからに明らかだった。
イオンと同様に微妙な表情で応じていたアニスは、ガイに反論するように口を開いた。
「っていうか〜、変人って言うのは大佐みたいな人のこと言うんだよ!
このクソ暑い中でも涼しい顔してんだもん!」
「それ言うならカンタビレだってーー」
「なんか言ったか?」
「な、なんでもねぇ!」
「いえいえ、トクナガを可愛いと思うアニスの趣味には負けますよ」
「えー!可愛いじゃないですか!目はギョロっとしてて、口はジャギジャギで!」
「「「「・・・」」」」
なんとも言えない空気になったことで、小休止はそれまでとなった。
各自が出発の準備を整える。
そして一足早くそれを終えたメンバーが、オアシスの出口で他のメンバーを待つ。
その間、これまでの六神将の行動にティアが小さく呟いた。
「ますます分からないわ、六神将の意図がなんなのか・・・」
「確かに量りかねますね。
あのような遺跡にイオン様を連れて行って、しかも我々にその場所を伝えるとは・・・」
「俺達をおびき寄せる罠、とか?」
「有り得んな」
ガイの推論をカンタビレは即座に打ち消した。
それに目を見張ったガイ、そして興味深そうなジェイドの視線が返される。
「きっぱり断言するな」
「回りくど過ぎるだろ。
今まで散々直接襲撃してきた、今更そんな事をする必要がどこにある。
他の意図が関係していると考えるべきだ」
「じゃあカンタビレはどう考えてるんだ?」
「憶測を語るのは主義じゃねぇ」
「さよか・・・」
答えらしい答えを返されなかった事で、ガイは肩を落とす。
ジェイドも同じく的確な答えを持たないのか、メガネを押し上げた。
「兎に角、進むしかないってことですね」
残りのメンバーが近づいて来た事で話を打ち切る。
そして、再び黄砂の海へと歩き出した。
>skit『水浴び vol.1』
G「にしても凄い砂埃だ。あとで服を脱いだらきっと砂の山が作れるな。あちこちに入り込んでやがる」
C「だからって宿屋ですぐに脱ぐなよ」
G「おいおい、人を露出狂みたいに言わないでくれよ」
T「でも確かにそうね。さすがにわたしも水浴びしたい気分だわ」
L「水浴び・・・」
N「ルーク!何鼻の下を伸ばしているのです!」
L「な、な、な、なんだよっ!何もしてないだろ!」
A「ルーク様!えっちなこと考える暇があったら早くケセドニアに行きましょうよ!」
L「き、決めつけるな!いつ誰が何を想像したってんだ!
勝手なこと言うなっつーの!」
N「不潔ですわ!あなたがこんな方だったなんて!」
A「ひどーいひどーい!」
L「あーもーうるせーっつーの!」
I「賑やかですね」
C「少々、言葉が違うかと」
I「でも水浴びしたら気持ち良さそうですね」
C「折を見て、今度は陸艦で参りましょう」
J「・・・ガイ、ルークに救われましたね」
G「・・・な、何が?」
J「口、よだれ。バレたら袋叩きですよ」
G「・・・」
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2020.2.1