ーーNo.25 追跡ーー
アニスと別れた後、カンタビレは表通りから外れた道を中心に探し回った。
裏通りから細い路地に巣食う輩の腕尽自主的な情報提供
によって、犯人の逃走経路を辿って行く。
「ったく、間が悪かったか。
ま、あいつが抜ける程度でザルになる城の警備もお粗末極まりないがな・・・」
苛立たしげにため息をつく。
いつもなら恐らくこのような事態にはなっていなかっただろう。
この件を間接的に招いてしまった責任の一端は自分にある。
しかし、起こった事をどうこう言っても始まらない。
考えを切り替えるように頭を振った。
(「そもそも導師が一人で出歩くのに警護の兵くらい付けるはず。
なのに騒ぎになっていない」)
早朝で人目が少ないとはいえ、目の前で拉致られた導師に兵士が黙っているはずがない。
もしそうなら即に外交問題だ。
となれば、可能性として大きいのは兵士の方が人質になり、導師は仕方なく従わざるを得なかった方か。
あるいは、城内兵士も抱き込まれたという可能性も無くは無いが、今回はこの線は薄い。
(「上から来て外に抜ける途中で、尚且つ人目をそれなりに避けられる場所つったら・・・」)
この辺か、とカンタビレは通りから死角になる木箱の積まれた裏側に回り込む。
すると、
「・・・日頃の行いの賜物だな」
そこには縛り上げられた上に昏倒している城内兵士であろうキムラスカ兵が伸びていた。
兵士を殴り起こし目覚めさせ、事の顛末を確
認し推論は確証に変わった。
カンタビレは見回りの兵に責任問題は後できっちり取ってもらうと脅し付け追い返した。
そして、街の外で目を光らせているだろう相手を物陰から伺う。
相手は唯一の外への道である橋を見張っている。
当然、身を隠せる死角などあるはずもない。
(「やれやれ・・・
ヘルメスは昨日のうちに、帰しっちまったしなぁ〜」)
負ける気は無いが、せっかく治療してもらった直後にまた怪我をこしらえれば、アースの小言が何倍になって返ってくるか・・・
悪寒を払い、シンクと戦り合わずに外に出る方法を探ろうと、街中へと戻り出した。
その時、
「あ、いたいた!カンーー」
ーービシッ!ーー
「痛った〜い!」
大声で呼ぼうとしたアニスの呼び声を、小石を直撃させて遮る。
慌てたティアがうずくまるアニスに駆け寄った。
「ちょっと、何すんのよぉ!」
「街中で俺の名前を大声で叫ぶな」
「なんて乱暴な・・・」
ガイの言葉を聞き流したカンタビレは、揃ったメンバーに渋面を作った。
「おいアニス、俺の話を聞いててどうしてこの面子になるんだ」
「だ、だって〜。
支部に行ったけどモース様が怒って神託の盾兵を連れてどっか行っちゃって・・・」
「・・・ったく、使えん余計なもんまで連れてきやがって」
「なっ!オレは親善大使だぞ!」
「だからどうした」
素早い切り返しに、ルークは鼻白む。
次いで、軽んじられたことが分かってまた文句が続こうとしたが、それを遮るようにジェイドが進み出た。
「アニスから事情は聞いているそうですね?」
「ああ、イオン様は街の外に連れ出されたのは間違いない。
だがその出口にシンクが張ってる。
蹴散らせるっちゃぁできるが強行突破はなるべくならしたくない」
「おや、珍しい」
「・・・・・・こっちにも事情があんだよ」
苦虫を30匹は噛み潰したような顔で言い返すカンタビレ。
それになるほどなるほど、とジェイドは深紅の瞳を面白そうに細めた。
「でも強行しなくて正解だったな」
「どういう事だ?」
「実はアクゼリュスに行く事になったのですが、海には監視がいるようでして・・・」
ガイに続いたティアの説明に、話の続きを聞く前にカンタビレは納得できたように腕を組んだ。
「なるほどな。海は囮で本隊は陸路って訳か」
「ほえ?どうして分かっちゃうの?」
「新聞にデカデカと和平使節団の派遣を載せてりゃな。
それにここにあるべき他一名の顔が無ぇなら、そいつが囮役だろ」
「さすがです、教官」
そんな事はどうでも良いとばかりに片手を振ったカンタビレは、未だに主人を宥めているガイに話を振った。
「で、ガイはこの街に詳しいだろ。他に外への抜け道を知らないか?」
話を振られた当人のガイは、きょとんとした後頷き返した。
「ああ、俺達もちょうど向かう所だ」
「なら案内を頼む」
「ちょっと待てよ、ジェイドもこれ以上同行者増やすなって言ってたじゃねえか!」
「誰が好き好んでお前らと同行するか」
「な、何!?」
悪態を吐くカンタビレにルークは喧嘩腰になる。
対し、カンタビレも上等だとばかりに鼻を鳴らす。
「俺はイオン様さえご無事に奪還できればいいだけだ。
街の外に出るルートさえ分かればそれ以上付き合うつもりはない」
「このーー」
「そうですね、カンタビレにも一緒に来てもらいましょう」
「はあ!?」
「・・・」
仲裁のような形で間に入ったジェイド。
それに不審気満載の視線で睨みつけるカンタビレ。
そしてルークも怒りが収まらないようで、怒りの矛先がジェイドに向く。
険悪ムードの中、宥めるようにガイが間に入る。
「まぁまぁ、ルーク。
これから向かう先には魔物も出るって噂だし、来てもらおうぜ」
「そうね。教官が一緒なら心強いし」
「もしも六神将が襲ってきてもあっという間に倒してくれそうだもんね〜」
「降りかかる火の粉しか払うつもりはねぇがな」
「えー!」
既に同行が決まっているような他のメンバーのやり取り。
ルークは仏頂面のまま吐き捨てた。
「・・・勝手にしろ」
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2019.12.10