ーーNo.16 古城での戦いーー
時間は少々遡る。
カンタビレが階下へと姿を消したと同時に、残ったメンバーはアリエッタとの戦闘が開始されていた。
「そこをどきなさい!根暗ッタ!」
「アニスこそわたしのイオン様を返してよ!」
「イオン様の邪魔する奴をイオン様が認める訳ないでしょ!」
「わぁーーーん!バカバカバカバカバカ!」
アニスの尤もな応酬にアリエッタは泣き喚き、それに呼応するように魔物達は一斉に牙を剥く。
「な、なんだかやりにくいな・・・」
「ガイ、惑わされないで!」
「見た目は子供ですが、魔物を使役する力は侮れません」
「来るわ!」
ライガが跳躍し、一行へと襲いかかる。
が、身構えていたティアの詠唱は完成していた。
「深淵へと誘う旋律・・・ナイトメア!」
「かわせるか!真空破斬!」
ーーギャンッ!ーー
連携も決まると、そのまま踏み込んで急所を捉えたガイはさらにアリエッタへと間合いを詰める。
するとアリエッタが従えていた魔鷲フレスベルグが空中から急降下を見せた。
「みんなだいっきらい!あっち行ってよ!」
「うるさーい!引っ込むのはお前だっちゅーの!」
「喰らえ!虎牙破斬!」
アニスと共に前衛となったガイの技が決まった。
しかし、とどめには至らず討ち漏らしたフレスベルグが後衛へと襲い掛かる。
「しまった!ティア!」
新たに襲って来たライガを押し留めるガイが叫ぶ。
と、詠唱を中断したティアは鋭い嘴を避け、飛び上がり短剣を放った。
「セヴァードフェイト!」
「荒れ狂う流れよ、スプラッシュ!」
同時に、ジェイドの譜術によって発生した水流に押し潰されフレスベルグは生き絶えた。
手勢を減らされ、焦りを見せるアリエッタは叫んだ。
「もぉいやー!倒れちゃえ!!」
「それはこっちのセリフ!食らえ光の鉄槌、リミテッド!」
魔物が倒された事で、アリエッタの注意が逸れた瞬間、アニスが譜術を発動する。
が、それを回避したアリエッタだったが、アニスは一気に間合いを詰めた。
それを守るようにライガがアリエッタの前に立ち塞がる。
「こっち来ないでよー!」
「双旋牙!」
「っ!?」
「からの、翔舞煌爆破!」
「きゃぁぁぁっ!」
アニスの打撃が決まり、アリエッタはライガと共に吹き飛ばされる。
「うっしゃー!」
「どうやら、片付いたようですね」
立ち上がることなく、気絶したアリエッタにジェイドは眼鏡を押し上げた。
一方その頃。
カンタビレとルークは来た道を戻っていたのだが・・・
「衝皇震!」
地面を抉った一閃はカンタビレの死角、左側から襲ってきた魔狼を一掃した。
ルークを叩き起こし、屋上へ戻ろうとした矢先、どういう訳か魔物が行く手を遮っていた。
肩で息をするルークに、呆れたようにカンタビレは言い捨てる。
「とろとろしてんな、死にてぇのか」
「う、うるさい!オレだってこれくらい」
カンタビレに怒鳴り返したルークは、魔狼の一匹を斬り伏せた。
ーーギャンッ!ーー
「捌きが甘い」
「っ!ちくしょう!」
しかし急所を外した攻撃で魔狼は再び起き上がろうとし、カンタビレがトドメを刺した。
粗方、魔物を捌き終えたか。
膝に両手をつき息が上がっているルークに、カンタビレは聞こえよがしに呟いた。
「なんだ、ここでお迎えが来るまで休憩か?
それともぬるい箱入りお坊ちゃんには厳しかったか?」
「バ、バカにするな!」
「おー、それだけ威勢があるなら問題ねぇな」
「はあ?何言って・・・」
言いかけたルークの言葉は続かなかった。
目の前には数えるのも馬鹿らしい魔物の群れ。
仲間を殺された為か、完全にこっちをロックオンしている。
「大方、さらった悪党共の置き土産ってところだな」
(「マジかよ・・・」)
さらりと告げるカンタビレだが、ルークの冷や汗は止まらない。
と、魔狼の群れがにじり寄る。
剣の背で肩を叩いてたカンタビレは、さも楽しげに構えた。
「さて、次の魔物が来る前にこのまま突っ切るぞ、剣先を下ろすな」
「・・・はぁはぁ、このっ!!」
自棄を起こしたルークは、カンタビレに引き離されないよう走り出した背中を追うのだった。
魔物を倒し終え(といってもほぼカンタビレがだが)、再び屋上へと到着したカンタビレとルーク。
しかしそこではもう決着はついた後だった。
「遅れて登場はこっちでしたね」
「カンタビレ、無事でしたか」
「勿論です。
イオン様もお怪我もないようで安心致しました」
「アニスちゃん、頑張っちゃったも〜ん。
ね、イオン様♪」
「そもそもそれがお前の務めだろうが」
「ぶー」
鋭い切り返しにアニスは口を尖らせる。
そして、カンタビレと共に遅れて登場した主人にガイが駆け寄った。
「ルーク!無事だったか」
「ああ、ま、まぁな・・・」
目に見えて息が上がってることにガイは首を傾げた。
「どうした?どこか怪我でもしたのか?」
「大したことねえよ、ちょっと頭痛ぇけど・・・」
「大方、シンクかディストにでもやられたんだろ」
しれっと言い返したカンタビレ。
そしてその視線は、ここまで来る羽目になった少女に向けられる。
その相手、気絶しているアリエッタにジェイドは槍を片手に歩み寄る。
この先、どうするかなど軍人なら分かり切ったこと。
生かしておいてこの先も邪魔されるのなら、自分でも同じ方法を取るだろう。
が、イオンは行く手を遮るように立ち塞がった。
「待って下さいジェイド!アリエッタを連れ帰り、教団の査問会にかけます。
ですから、ここで命を絶つのは・・・」
イオンの言葉にジェイドの動きは僅かに止まる。
だが、その言葉を無視しても誰もその行動は責められない。
「・・・」
責められないが、イオンが取った行動を無碍にされる訳にもいかない。
二人のやり取りを見ていたカンタビレはジェイドの前に立ち塞がり、携えた鞘でその矛先を押さえた。
「イオン様のお言葉だ、退いてもらおうカーティス大佐」
「おや、どうしましょうか」
「退かねぇなら、腕尽くでも退いてもらう」
ふざけた態度にアメジストが深紅の瞳を睨みつける。
しかし、全く堪えた様子はない。
と、
「それがよろしいでしょう」
その声に一同が振り返れば、ヴァンが神託の盾兵を引き連れてやって来ていた。
「カイツールから導師到着の伝令が来ぬから、もしやと思いここへ来てみれば・・・」
「すみません、ヴァン・・・」
「過ぎたことを言っても始まりません。
アリエッタは私が保護しますがよろしいですか?」
「お願いします、傷の手当をしてあげてください」
ヴァンとイオンのやり取りを聞いていたガイは嘆息しながら呟いた。
「やれやれ・・・キムラスカ兵を殺し船を破壊した罪、陛下や軍部にどう説明するんですか?」
「教団でしかるべき手順を踏んだ後、処罰し、報告書を提出します。
それが規律というものです」
毅然としたイオンの姿に誰も意見できる者はいない。
ヴァンから馬車を用意しているということでそれで帰る運びとなった。
と、
「お前が付いていながらこの事態とはな」
すれ違いざまのヴァンの言葉にカンタビレは条件反射で突き返す。
「部下の動きも把握できねぇてめぇに小言言われる筋合いはねぇ」
鋭い言葉にヴァンからは一瞥しか返らない。
アリエッタを抱えたヴァンはそのまま階下へと姿を消した。
皆が踵を返し歩き出す。
ヴァンの後を嬉しそうに追うルーク。
それに続くガイ、ティア。
厳しい面持ちのイオン。
それを気遣うようなアニス。
そして、カンタビレもイオンに続いて歩き出した。
最後となったジェイドと交錯する視線。
しかし、互いに返されるのは腹の底を探るような視線のみ。
それぞれの胸中に渦巻く思いを抱えながら、一行は古城を後にするのだった。
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2018.11.29