ーー冬の話ーー
落とした呪具のざっくりとした場所を説明した後、潔高と分かれたは黙々と雪山を歩いていた。
「はぁ・・・」
重いため息をつけば、白い塊が顔の横を流れていく。
足元は雪に取られ、体力が奪われていくのが分かる。
透明な重しを徐々に増やされていくようで、だんだんと身体の自由が思い通りにいかなくなっていく感覚に、くすぶっていた苛立ちがさらに募った。
(「寒いのは嫌いだ」)
それだけは、幼い時から変わっていない。
幼少期の暗い記憶がそう思わせるのか、喪失感がそれと酷似するからそう思うのかは分からない。
ただ、歳を重ねてもこの感情だけは消せなかった。
(「ったく、いつもなら呪具落とーー」)
ーーガッ、ゴンッ!ーー
「はぶっ!」
ーードサドサッーー
雪に足を取られた上にむき出しの幹に顔面をぶつける。
次いで頭上から枝に積もっていた雪の落下。
じくじくと広がっていく痛みと寒さ。
今回の任務を受けてから、ろくな事が起きていない。
呪具の紛失、遭難者との遭遇、呪霊との戦いによる予期せぬ雪崩。
日頃の行いは悪い方ではないというのに、どういう仕打ちなのか。
「・・・くそっ」
悪態をつき八つ当たりするように、幹を押しのけ記憶にある谷へと再び足を進める。
しばらく歩くとやっと目的の場所へと着いた。
谷底への縁を注意深く歩きながら下へと視線を向けると、なだらかな斜面に探していた呪具を見つけたことで、やっと見つけたと嘆息する。
「また微妙な場所に。下からじゃ絶対見つけられなかったな」
どうやら二手に分かれたのは正解だったようだ。
は手近な幹に、潔高から別れ際に渡されたロープを結びつける。
命綱だが、きちんとした結び方などスマホが手元に無い以上調べようがない。
とりあえずベルトへ結びつけ、あとは腰元に回してひと結びにすればまぁそれっぽくなったからよしとする。
手がかじかみ、苛立ちながらもどうにか下に降りる準備が整った。
「よい、せっと」
ロープを掴みながら、雪が積もった斜面を滑りながら呪具へと近付く。
そして、ショルダーストラップに手が届きそのまま肩に担いだ。
「ふぅ・・・」
「
さん!」
と、その時。
谷底側から歩いてきたらしい潔高には片手を上げて応じた。
どうやら向こうも探しものは見つかったらしい。
登ってロープを回収するのも面倒となり、このまま下に降りて合流しさっさと帰るべくは再びロープを握る力を強めた。
「今降りるよ」
「気を付けてくださいね」
「だいじょーー!」
と、それまでピンと張っていたはずのロープがたるんでいくことが分かった。
はまさか、と思わず上を見上げる。
(「結びが甘かった!」)
手を付こうにも、そこは急斜面の途中。
重力に引かれるまま手が付けるのは落ちる方向だけだ。
(「あぁ、ったく。本当にツイてない・・・」)
ゆっくりと景色が回転していく。
下が雪なら多分、落ちたとしても大事にはならないだろう。
というか、先程から視界が像をきちんと結ばず、考えるのも面倒になってきた。
こちらに駆け寄る人影をぼんやり見つめながらはついに意識を手放した。
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2024.01.12