ーー冬の話ーー















































































































遠くから響く複数のスノーモービルのエンジン音が迎えの到着を告げる。
洞穴の小さな焚き火を前にしていたは、近付いてくる相手に視線で応じた。

「迎えありがと、伊地知くん」
さん、ご無事で何よりです」

そして挨拶もそこそこに、足と腕を組んで岩肌に寄りかかって座るはアゴで目の前を示した。

「で、そこに居るのが連絡した負傷者ね」
「はい、すぐに搬送します」
「ったく、こんな真冬にわざわざ登山を考えるなんてバカが居たもんだよ」
「はは、全くですね」

普段より刺々しさを増したに相槌を打ちながら、潔高は一緒に来たメンバーにスノーモービルで負傷者を運び出すよう指示を出す。
そして、固定を終えた負傷者が運び出されたのを見送ると、は深々とため息をついた。

「あー、終わった」
「お疲れ様でした」
「ホント、早く帰りーーくしゅっ!

盛大なくしゃみに潔高が振り返れば、見慣れた外套の下で自身を抱くような同期の姿。
よくよく見れば、素肌がむき出し。
周囲は真冬、しかも雪山。
そう言えば、運び出された負傷者が腕を吊っていたがその道具が何を使ってのものかが今になって思い至り、潔高は慌てて自身のコートを脱いだ。

「ちょ!なんて格好されてるんですか!」
「負傷者優先した結果なので許してください」
「と、とりあえず私のコートをどうぞ」
「ありがたく」
「いいえ。こちらこそすぐに気付かずすみませんでした」

潔高から借りたコートに袖を通しただったが、眉間に寄せられたシワはなかなか消えず文句が続く。

「うー、寒。今回はマジ踏んだり蹴ったりだった」
「本当に大変でしたね、それよりあなたの負傷は?」
「とりあえず、大丈夫。ってか、そんなことより予備の呪具が谷に落ちたことがマジ最あーーへぶっ!
「あなたが落ちなくて良かったですよ・・・」

逆の状況を想像し、血の気をなくす潔高にこすり合わせた両手に息を吐きかけながら、は気重に続けた。

「あーもーこの雪の中、回収に行くのがダルい」
「それはこちらでやりますよ!」
「場所知らないじゃん」
「あ・・・」

正論の切り返しに潔高は二の句が継げず黙り込む。
鼻すすったは、これからの足となるスノーモービルに近付きながら淡々と続けた。

「手間増えるだけだから、行く」
「・・・お願いします」

潔高が操縦席でハンドルを握り、その後ろには座る。
しばらくエンジンが唸る音が響き、これ以上は人の足でなければ進めない木立となったことで二人は寂しい森の中を並んで歩きだす。
普段なら雑談があるが、今日に限っての口は重く雑談はことごとくすぐに消える。
間が持たなくなった潔高は新たな話題を振った。

「そ、そういえば知らない番号から連絡もらいましたがご自身のスマホはどうされたんです?」
「失くした」
「え?ならその電波を辿ればーー」
「呪具落とした後に雪崩巻き込まれたタイミングだったからそれは無理」
「そ、そうでしたか」

言わんとする先を読まれた回答に再び会話は打ち切られた。
呪具と一緒であれば探す手間がぐっと減ったが、目論見はあっけなく潰える。
つまり、探しものは2つになったわけだが、一つに関しては現代のIT技術のおかげで割と解決の目処が見えなんとかなりそうだ。

「では、先にスマホを探しましょうか」
「なら、二手に分かれよう」
「え・・・ですが」
「私、呪具回収してくるから、スマホの方よろしく」
「ちょ! さん!?」

言うが早いか、呼び止める潔高へ振り返ることなく歩く速度を上げたは記憶を頼りにさらに森の奥へと進むのだった。




























































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2024.01.12