「お前、明日の初詣の後のやつ来るのか?」
カレンダーを見ていた硝子は同じ空間にいるもう一人に向かって問いかける。
すると大量注文された滅菌ガーゼを所定の場所へ仕舞っていた
は手を止めることなく応じた。
「あー・・・行きたかったんですけど、ちょっと別件の用事が・・・」
「年始早々ご苦労なこったな。仕事か?」
「しご・・・うーん、微妙です」
「なんだそれ」
「実は母校の教諭経由の頼み事で、仕事になるかどうかは見てみないと分からない感じで・・・」
「窓か補助監督に依頼すれば良かったんじゃないのか?」
「いや、新年早々頼むのが心苦しくて・・・」
「相変わらずのお人好しだな」
あからさまに呆れる声音に苦笑しながらも、手早く作業を終えた
は空になった空箱を畳みながら振り返った。
「あはは・・・ま、顔見知りの方が事情も聞きやすいでしょうしすぐに終わる感じならその場で処理したほうが手っ取り早いですから。もし間に合うようなら顔
を出すので当日連絡します」
硝子にそう言いながら、
は医務室内を横切ると出口近くに積み上がっていた同じようなダンボールの山をぱぱっと紐で一つに括る。
そして任務は完了した、とばかりに硝子に向き軽く頭を下げた。
「では良いお年を」
「おぅ、じゃ当日な」
ーー人間万事塞翁が馬?ーー
翌日。
都心から離れた郊外は早朝という時間帯も相まって、霜が降りた真っ白な景色に包まれていた。
周囲は広がる草原が山々に囲まれたのどかな場所で人の気配はない。代わりに遠くに見えるのは放牧された動物の姿のみだ。
待ち合わせの時間を再度確認し、首元のマフラーに顔を埋めた
は小走りに駆けてくる足音の方を向いた。
「どうも、xx先生の生徒さんだった人かい?」
向こうがゆっくりとした歩調に変わったことで
も歩き出しながら軽い会釈を返した。
「えぇ、はじめまして
と申します」
「こっちは白川です。いやー、年明け早々に申し訳ないです。今は手が足りないもんで」
「お気になさらず。早速ですが問題の厩舎へ案内いただけますか?」
目的地へと向かいながら、
を先導する初老の男は陽気な様子で快活に話した。
「いやー、ほんに申し訳ない。どの馬も落ち着きが無いのに原因がさっぱりで。オーナーさんらも気味悪がっちゃってお祓いするならするで早くやってくれって
せっつかれちゃったもんだから」
「詳細は伺っていないのですが、具体的にどのようなことを確認されてますか?」
「うーん、うちらはなーんか妙な胸騒ぎみたいな、気が重いなぁとか家鳴りがするとか、道具が勝手に落ちたりとかかねぇ。気の所為やら偶然ってこともあるか
もしれないんだけどね」
「なるほど。負傷された方や亡くなった方がいらっしゃったりとかは聞いてますか?」
「いやいやそれは全然。そうなっちゃたら流石に困っちゃうからね」
否定するように力強く手を振る白川の様子は終始明るい。
は残穢を確認しようと目を凝らすも、大きな残穢は確認できない。どうやら憑依する種類が原因ではないようだ。
今のところは。
ふつりと黙り込んだ
に白川は気遣わし気に視線を寄越した。
「それで・・・どうにかなりそうなもんかね?」
「聞き取りの今時点ではなんとも言えません。実際に見せていただいて対応可能なら私がその場で処理しますが、難しい場合は早急に適任者を派遣させていただ
きます」
「そりゃ助かる!今日は他に誰も居ないんで自由に見て回ってもらって、何かあれば電話してください」
その場で電話番号だけを交換し、問題の厩舎の前で別れた。
ガランとした大きな建物を前に、
はしばし見上げる。
ざっと見、本来ならここに20頭近くが入るはずだが、今は空っぽだ。動物が神経質になるのであれば何も無いというのはないだろう。
人間にさほど大きな反応も無いなら等級もそこまで高くはなっていないはず。
は念の為に持ってきた予備の呪具が入った長いショルダーバッグを置き、手持ちの呪具を手にして問題の厩舎へと進む。
厩舎の外を歩けば、僅かに漏れる残穢。
中に潜んでいるのはもう間違いない。
足音を忍ばせゆっくりと厩舎へと入る。すると背筋を逆なでる不快感が走りすぐに天井を見上げた。
(「3級ってところかな」)
壁に張り付くようにソレらが居た。
まるでナメクジから粘糸が生えたような姿で表面に散らばっている目が忙しなく動き回っている。
この程度なら帳の必要もないだろう。
はすでに消音装置をつけていた呪具を構えると目標に向け手早くトリガーを弾いたのだった。
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2026.03.28