ーーRe;はじめましてーー
まだまだ寒くも梅の香りが舞う初春。
忙しいさなかに横暴な呼び出しを受け、指定の一室へと入ってみれば、神経を逆なでする一言が放たれた。
「遅かったね」
「何が遅かったねですか、これから任務だって言うのに・・・?」
こちらの都合を完全無視した開口一番に
は苦言を返したが、悟の背後に立つ存在を目にしたことで文句は尻すぼみとなった。
真新しい高専生の制服をまとった、自身より長身の少女。
眼鏡の奥にある切れ長の目は、どうみても触るな危険という看板を立てても良いほど鋭く、さらに不機嫌顔。
だがどこかで見たことがあるような似通った面差しだなと思いつつ、この場に呼び出された理由についてもうっすら当たりがついた
だったが確認も込めて訊
ねた。
「そちらは新入生の方ですか?」
「そ。4月から入学ね。箱入りだったから色々入り用なもん揃えてあげて」
「あ?」
「はい?」
「んじゃ、とりあえず一緒に任務行ってきてねー」
「おい!」
「ちょ!五条さん!」
「僕、これから出張だから。じゃ」
あっという間に姿が消える。言い逃げ状態で取り残された2名は呆然と立ち尽くした。
「・・・」
「・・・」
「はぁ、本っ当にあの人はもう・・・」
「・・・」
しかし、過去似たような経験をしていた
はいち早く回復し文句を口にするも、聞かせるべき相手は不在なことで中途半端に途切れた。
とはいえこのまま時間を潰すわけにもいかず、仕方なく、怒りに震えているような少女へ声をかける。
「えーっと・・・とりあえず色々聞きたいんですけど、任務の時間が迫っているので話は道中で聞かせてもらってもいいですか?」
「・・・」
「あー・・・じゃ、ひとまず付いてきてください。これ以上、補助監督を待たせるわけにはいかないんで」
返事も同意も皆無。
は反論がないなら同意と受け取り話を進めようと、ひとまず部屋を出、待ち合わせ場所へと歩みを進める。
すると、後ろからは付いてくる気配があることで、とりあえずは従ってくれるらしいことに胸を撫で下ろし歩調を早めた。
しばらくして駐車場へ到着すると、そこにはすでに準備が完了している待ち合わせ相手がいたことで
は詫びるように手を合わせた。
「すみません、新田さん。お待たせしました」
「いえ大丈夫っスよ!今日は都内だけの予定なん、で・・・?」
と、当然ながら
の後ろから現れた追加メンバーにあかりは首を傾げる。
「えーっと、その子は誰っスか?」
「実は五条さんが絡んでまして、詳細は車内でしましょう」
「う、うっス・・・・」
その一言で含まれた事情を察してくれたらしく、あかりは早速車を発進させる。
高専敷地内をゆっくりと走行する中、出会ってから一言もやり取りできていない隣へ
は居住まいを正し口を開いた。
「えーと、まずは自己紹介からですよね。私は
と申します。
東京高専を卒業してるので、あなたからすればOGになりますかね。あ、運転してもらってるのは補助監督の新田さんです」
「ども、新田あかりっス」
「それで本題なんですけど、私はあの人からあの部屋に来いという情報しかもらってないので、とりあえずお名前と五条さんから何を指示されているか教えても
らえますか?」
「・・・」
再びの無言。
当然、車内の空気は淀む。
運転席でハンドルを握るあかりからはハラハラしていることが分かるような気遣うような視線がバックミラー越しに向けられる。
「えー・・・もしかして、あなた五条さんの隠し子?」
「は?んなわけねーだろ」
「良かった、とりあえず日本語での意思疎通は大丈夫そうですね」
「あ?」
「その様子だと、そちらも五条さんからろくな説明が無いと受け取ります。
違うなら説明してくださいね。ひとまず、目的地が近いので先にこれから向かう任務の概要について説明します。
新田さん、このタブレット借りますね」
「は、はいっス!」
助手席に置かれたタブレットを手に取り、終始不機嫌顔の隣へ
は任務説明をざっくり行う。
それが終わる頃、車はゆっくりとスピードを落とし目的地へと到着した。
「到着っス」
「ありがとうございます、新田さん」
「・・・」
礼を述べた
は車から下り、見た目は一見何の変哲もないビルをしばし眺める。
その後、肩に掛けていたライフルケースをトランクリッドに乗せた
は追加の装備を懐や腰元へと追加していき、後部座席から降りている少女へと向いた。
「さて、説明した通り今日は定期ポイントの見回り及び祓除になります。5-3級の低級レベルがメインですけど油断しないようにお願いしーー」
「・・・」
ーーガシッーー
「!」
説明を待たずに歩き出した腕を
は逃すこと無く掴んだ。
「はい、ちょい待ちです」
「・・・何だよ」
「虫の居所が悪いのかもしれませんが、任務なので2つほど指示に従ってもらいます。
一つ、確認についての返答・了承は必ずすること」
「・・・」
「もう一度説明しましょうか?」
「・・・分かったから要らねー」
「結構です。最後に、あなたの名前を教えてください」
「必要ねーだろ」
「必要だと私が判断しているんですよ」
「・・・」
鋭い睨み返しをさらりと笑顔で返しながらも有無を言わせない
に負けじと沈黙が続く。が、伊達に癖ある術師相手をしていない
は畳み掛けた。
「指示に従えないようなら、駄々っ子はこのまま待機してもらいますけど、どうします?」
「・・・真希」
「では、真希さん。この廃ビルは構造上、中央とビル側面側に階段が交互に設置されている妙な造りになっています。
これまでの報告では呪霊が特定箇所に溜まることはないようです。
そこで、私は右の壁伝い、あなたは左の壁伝いに各階を見回って合流しつつ最上階を目指しましょう。違和感や何かあれば、新田さんか私に連絡を。端末の使い
方は問題ありませんか?」
「馬鹿にすんなよ。それくらい分かる」
「それはごめんなさい。じゃ、油断せずに行きましょう」
「・・・・・・おう」
「それでは、新田さん帳を。それと連絡あるまで待機でお願いします」
「了解っス!」
流れるような説明を終え、二人は廃ビルへと向かう。
周囲は黒い帳が徐々に辺りを覆い、エントランスに足を踏み入れた頃には先程の静寂から一転した呪霊のざわめきに満たされるのだった。
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2026.03.25