涙が引っ込んだ辺りで、は持っていた携帯から一つの番号へと電話をかけた。
留守電を淡く期待したが、予想外にすぐに呼び出し音は終わる。
そして向こうが長話をする前には即座に話を始めた。

「お疲れ様です、です。
至急報告したいことがあります。
・・・ええ、分かりました。では後ほどその場所へ向かいます」

















































ーー9本の薔薇と共に、後日譚 Part.1ーー

















































「お疲れ〜。
珍しいこともあるもんだね、がサシで僕のこと呼び出すなんて」
「・・・」
「ん?どうしたの?」
「あの、確かに急ぎとは言いましたが、なんでココなんですか」

こてんと小首を傾げてくる(勿論可愛くない)男には頭痛で重さを増した頭を抱えた。
二人の目の前には可愛らしいファンシーなデザイン外装のパンケーキ屋さん。
並んでいるのも女子ばかりで、任務帰りのと長身野郎は嫌でも浮いていた。
精神的ダメージを受け続けているに構わず、呼び出された悟は口を尖らせた。

「だってやっと予約取れたんだもん」
「はぁ・・・」

『もん』って、何歳だよ。
私はこれからここでシリアスな話をしなければいけないのか?
これなら高専に場所を指定しとけば良かった。
電話をかけた時点では、自分は思いのほか動揺していたらしいが、今更もう遅いか。
悟の後へ続き席へと案内され、すぐにメニューを眺めだす悟はグッタリしているへ本題を投げた。

「そんで話って?」
「・・・特級呪詛師と会敵しました」
「・・・」

あえて名を出さずそう言えばサングラス越しにこちらの真意を確かめるような視線が投げられる。
予想している通りだと、肯定するようなが疲れたように嘆息すればなるほどね、とばかりに悟は再びメニューへと視線を落とした。

「いつ?」
「3時間前です。
今日の任務後、時間は迎えが来るまでの約15分ほどです」
「ふーん」
「拠点、構成規模、最近の任務妨害の探りは全部答えて貰えませんでした」
「まー、だろーね」
「あとこちらに来ないかとスカウトされました」
「マジか!ウケるw」

ウケねぇよ。

「そんで?捕まえられたの?」
「特級相手に2級ごときが太刀打ちできる訳ないじゃないですか」
「何だよ、つまんねぇー」
「やる気は見せたんですけど、大通りの人を人質に取られたもので」
「ふーん」

終始、つまらなそうに答えた悟はやっとメニューを置いて頬杖を付いた。

「いやー、まさかわざわざ呼び出しておいてそんな報告聞かされるなんてねぇ」
「呼び出しの目的はそれだけじゃないですよ」
「え、そうなの?」

キョトンとする悟の前には小さな手提げ袋を置いた。
袋の開口部から見える中には花束。
ハタから見れば、何の変哲もない贈答の品だ。
だが贈ってきた相手が相手だけに油断ができなかった。

「何か術式が仕込まれているか分かりますか?」
「ちょっとー、僕の目はX線装置と違うのよ?」
「便利道具は有効活用するために存在してるんですよ」

言外に早くしてくれ、とばかりに先を促すに悟はチラリと視線を落としただけ。
そしてすぐに面白みがないとばかりな腹立たしい表情を浮かべた。

「なーんも無し、逆につまんねぇー」
「・・・そうですか」
「にしてもよく持ってきたね、放っておきゃ良かったのに」
「術式が仕込まれてるかもしれないものを、非術者が闊歩するところに無闇に置けないじゃないですか」
「それだけ?」
「どう言う意味ですか?」
「花束もらえて嬉しいんじゃないの?」
「この顔が嬉しいとでも思っているなら両目、抉りますよ」

にやつく悟にそう言い捨てると、は緊張から解放されたようにテーブルの上に肘をついて組んだ両手に額を乗せ、深々とため息をついた。
しばらくして、

「・・・すみませんでした」
「え、何?」
「無神経だと思ったんですけど、五条先輩しかこんな事頼めませんでしたから」
「ホントだよねー、さっさと報告上げりゃあ良かったのに。
ま、上げたところで上は何もできないだろうけどさ」
「・・・」

確かにその通りだ。
その人が高専から去り、その後の足取りは全くと言っていいほど追えていない。
呪術師の人手不足もあって、捜索に割ける人員もおらず、結局は野放し状態。
それを思えば、あの時に殺されるのを覚悟で立ち向かうべきだったのだろうか・・・

ーーパンッーー
「つー訳で、頼みも聞いてやったんだしパンケーキ食べようぜぇ〜」
「・・・は?」

楽しげに手を打ち鳴らした悟には呆気に取られた。
いや、こんな気分で食べれるはずがないだろ。

「いえ、私はこれで失ーー」
「おいおいおいおい、まさか最強呪術師をタダで使えるなんて思ってないよね」
「このお礼はまた改めまーー」
「はーい、却下〜。
実はカップル限定の超スーパースペシャルストロベリーデラックスパフェがあんだよね〜。
それと季節限定トロピカルプリンアラモードと、チョコレートブラウニーサンデー&ショコラミルフィーユと・・・」

ちょっと待て、誰がカップルだ。
というか、ここに呼び出した本当の目的はそれなのか?

「で?は何にすんの?奢ってやるから好きなの頼んでいーよ」

無邪気に笑いながらメニューを差し出す悟に表情筋が死んだ虚無顔が向けられる。
胸焼けしそうな長々とした横文字の数々には小さく嘆息し注文メニューを決めた。

「・・・アイスコーヒーで」



























































後日譚 Part.2



Back
2021.10.29