※かっこいい最強は不在です






高専の山々が色づき始めた晩秋。
次の任務まで待機となっていたは差し込む陽光に照らされ、窓辺で日向ぼっこ状態となっていた。
朝晩が冷え込んできたとはいえ、窓辺で陽を浴びさらに野鳥のさえずりまで追加されてしまえば心地よい暖かさにだんだんとまぶたが重くなっていく。
と、しばらくうとうとしていたが、僅かに目を覚ませば対面の席に自分のスマホを手にした不審者一名。
気持ちよかったまどろみはあっという間に吹き飛んだ。

「・・・あの、人のスマホ何勝手に使おうとしてるんですか?」
「ちょっとー!なんで僕の誕生日でロックが解除されないの!」

寝起きには騒音でしかない、不服気な声にはうんざり感を隠すことなく深くため息をついた。

「なんでその番号でロックが解除されると思ってるのかが謎です」
「前までは指紋ロックだったじゃん!」
「人が居眠りしている間に勝手にロック解除した不届き者が居ましたので変えたんです」
ーーバンッ!ーー
「そんなことどうでもいいの!」
「この場合、どうでもよくするかの判断は私がしまーー」
ーーズイッ!ーー

自分勝手な言い訳を並べ立てたかと思えば、席から身を乗り出した悟がスマホの画面をこちらの眼前に突き出した。

「・・・なんですか?」
「誰?」
「はい?」
「これ誰?」
「ちょ、画面近くて見えませんよ」
「このタカノリって誰だよ!」

うわー、面倒くさいことが面倒くさい人に見られてしまった。
内々に進めていたことだけに、まだ知られたくないのだが残念ながらこちらの都合を考えることをしない目の前の男は我を通すのが分かりきっていた。

「・・・」
「ふーん、だんまりとはね」
「スマホ返してください」
「明日会うってどういうこと?」
「五条さんに話す義務や義理があるとでも?」
「あるでしょ」
「無いです」
ーースカッーー

スマホを奪い返そうとした手は空を切った。
予備動作を読ませない動きだったはずだというのに、余裕でかわされたのが腹立つ。
そんなこちらの心情を読んでいるのか、見下ろしてくる男の口元は得意げだ。

「・・・返してください」
「明日行かないなら返すよ」
「お願いですから、これ以上面倒になる前に返してください」
「だから明日行かないならーー」
「何をしている?」

天の救い。
もといここの呪術高専のトップであり厄介な目の前の元担任の正道が現れたことで、は即座に抗議した。

「学長、五条さんにスマホ取られて任務に行けないんですが?」
「悟、いい加減にしろ」
「ちょっ!誤解なーー」
ーーパシッ!ーー
「あー!!!」

日頃の圧倒的信用度の差による勝利。
油断した隙を見逃すことなく、自分のスマホを奪い返したはすぐに席を立つとそそくさと正道へ会釈を返しその場を逃れる。

「ありがとうございます、学長。それではこれから任務ですので失礼します」
「うむ、気を付けてな」
「なんで学長にだけ言うの!」

背後からぎゃんさわの文句に正道の指導が飛ぶが知ったことではない。
折角の穏やかな気分がぶち壊しになり、気力が削がれたは待ち合わせに時間がまだあってももう向かってもらおうと補助監督室へと足を早めた。












































































































ーー不束者ですが・・・ーー












































































































「おい、ここは休憩所じゃないぞ」

医務室の隣。
執務室と打ち合わせ室を兼ねたそこに、ソファーを大の字で占領する男に硝子の低い声が響く。
が、当然とそれに気後れすることなく、全身を投げ出している悟は頭をソファーの背もたれのさらに後ろに投げ出しながら気重な声を上げた。

「硝子・・・に男ができたの知ってた?」
「は?」

馬鹿馬鹿しい問いに心底、呆れを含んだ疑問符を硝子が返せば、反論するように悟は続ける。

「あいつのスマホの画面に通知でメッセ入ってたんだよ」
「お前な、他人のスマホ勝手に見るなよ」
「たまたま通知来たのが目に入ったの!」
「それでロック解除しようとして怒られて拗ねるって、全部自業自得だろうが」
「なんで知ってんの?」
「お前・・・本当にやったのか、どクズだな」

冗談のつもりが実践済みだったとは。
呆れ果てるしかできない硝子は、備え付けのコーヒーサーバーから自身のカップにコーヒーを淹れ悟の対面のソファーへと腰を下ろす。
そして、一口口を湿らせると足を組んだ。

「で?あいつに男ができたって?」
「二度も確認する必要ある?」
「あいつに限って有り得んだろう」
「だから!メッセで会うって約束してるの見たの!」
「お前・・・」

がばりと身を起こした悟に心底どうしょうもない奴だ、とばかりな目で見下ろした硝子はカップをテーブルに置くと仕事の書類を手にしながらぞんざいに続けた。

「あいつは曲がりなりにも呪術師だぞ、一般人を相手にするわけないだろ」
「どうしてそう言い切れんの!」
「ったく・・・お前ホント、普段は底抜けな傲岸不遜のクセにあいつに対してはなんでそう」

もはや押し問答の様相となり、だんだんと応じてやるのも面倒になってきた硝子は書類から悟へと視線を移す。
そこにはソファーで不貞寝を始めた同期の姿。
いつもなら蹴り出しているところだが、今日に限っては当人にとって相当だったのか、情けない声をこぼしていた。

「なんであいつはこんな超絶イケメンの最強GLGの僕にアタリ強いの・・・」
「・・・」
ーーベチッーー
「でっ!」
「ほれ」

鬱陶しい姿に、手元の紙に走り書きしたメモを顔面に叩きつければ、文字を追う悟が当然の疑問を返す。

「何これ?」
「あいつが明日会うって場所だ」
「!」
「会って確かめてこい」
「硝子!今度酒奢る!」
「高いやつでな〜」

脱兎の如く。
あっという間に姿を消した男に再びカップを傾けた硝子は懐からスマホを取り出す。

「ったく、あいつも苦労するな」

タッタッ、とスマホでメッセージを打ちながら独りごち、送信ボタンを押し終えた硝子は伸び上がると仕事へと戻るのだった。















































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2024.3.12