ーー不束者ですが・・・ーー













































































































翌日。
硝子からもらったメモに書かれた住所へ向かってみれば、そこは少し寂れたカフェだった。
そしてしばらく物陰から伺っていれば、目的のカフェへと入っていく私服姿となったの姿。
ガラス張りの店内で、席を見渡しただったが、すでに待ち人は先に到着していたらしくその席へと足を進める。
座った場所は通りに面しており、様子を観察するには絶好だったが、残念ながら待ち人の方は後ろ姿しか見えない。
と、その相手に見たことがない表情を返したを目にしたことで、悟は我慢できず店へと押し入った。

ーーカラーンーー
「いらっしゃいまーーあの、お客様?」
「おい!」
「え」
「?」

突然割り込んだ声にが視線を上げれば、ここを知るはずのない男の姿。
完全に隠していたと思っていただけに、動揺を見せたは思わず腰を上げた。

「ちょ、なんでここに居るんですか!」
「おー、噂通りイケメンじゃん」
「帰るぞ

ぶっきらぼうに言った悟に、あっという間に動揺を収めたは一つ嘆息すると淡々と返す。

「帰るのはそっちですよ五条さん、話しがややこしくなる上に邪魔なので消えてください」
「別にややこしくはならんでしょ。イケメンはオレの趣味じゃないし、折角だから紹介してよ」
「はあぁ・・・」

悟の登場から動揺を見せないの向かいからの声。
対しては今の状況に頭痛がひどくなりそうで頭を抱えた。
だが、そんなをお構いなしに悟は見知らぬ男へ食ってかかる。

「ちょっと、誰よコレ」
「はは、聞いてた通り失礼な男だ」
「あん?」
「五条さん・・・」

店員が終始困り顔の上、店内の注目を引いてしまったため、致し方なくは悟を座らせる。
その後、店員への謝罪ととりあえずの注文を済ませ、渋々ながら向かいの席の男を紹介した。

「はぁ・・・こちらは私の従兄弟です」
「どーも」
「で、こっちは同僚の五条さんです」
「・・・」
「はは、感じ悪っ」
「紹介は以上。はい、とっとと帰りやがれくださいませ」
「やだ」
「この・・・」

こっちが折れてやったというのにつけあがりやがって。
を示すように拳を震わせるだったが、従兄弟の孝徳はからからと軽い口調が返された。

「まぁまぁ、いいじゃん。そちらさん、お前と一緒じゃなきゃ帰るつもりなさそうだし」
「いや、この人絶対仕事ほっぽってーー」
「電話、鳴ってんぞ」

その言葉に画面を見たは、用件もなんとなく察したことで小さくため息をつくと、ちょっと出てきます、と席を立ち店の外へと出ていった。
それを見送ると、孝徳は肘をついて明後日の方向を見ている不機嫌顔の悟に訊ねた。

「で?少しは誤解は解けましたかね。ごじょーさん?」
「馴れ馴れしく呼ばないでくんない?」

初対面に対して最悪ともいえる応対。
だが、孝徳は特に気にした風もなく自身との関係について話し始めた。

「オレとあいつの付き合いは、引き取られた頃に一緒に住んでたってだけですよ」
「ふーん」
「研修医としてアメリカから帰ってきたらあいつ、オレの実家と仕事で絡んでるって話し聞いたんで心配になってこうして会うことになったと」
「へー」
「何しろ、引き取られた事情が事情でしょ?オレもなんで今さらわざわざ関係を持とうとしてるのか謎だったけど・・・」

そこで言葉を一旦止めた孝徳は、手元のコーヒーを傾けた。

「まぁ、今日でやっと納得できたなーって感じですわ」
「は?」
「あいつに聞かれましたよ、最新医療の脳神経・眼科、救急、セカンドオピニオンetc...日本でまだ認可されてなくても向こうで効果のあった症例・判例について教えてもらえないかってね」
「はぁ?あいつは忙しいからそんなことに関わってるヒマないんですけどー」
「それはオタクがこうやってサボるから?」
「あ?」
「はは!あんた、昔絶対やんちゃしてただろ」
「・・・」

常ならば、悟の態度は大概相手をイラつかせるかその場を離れさせる。
が、孝徳は全く堪えていないのか、のらりくらりとかわしていく、のみならず要所で切り返してもくる。
なんとなくに似た部分も垣間見えたことが余計に目に付き悟の機嫌は降下していった。

「安心した」
「は?」
「あいつ、人間味あるちゃんとした反応もできるって分かって」

突然、からかいを引っ込めた孝徳は再びカップを傾けると、その視線は店外で通話しているへと向いた。

「言った通り、事情は知ってても昔のあいつはオレの家では本当に感情出さないばっかりで・・・
しまいに親は不気味がるわ、あいつもそれを察して本当に必要最小限の接触しかしてこなかった」

小中学生でやってのけるのはたいしたもんだよ、と孝徳は苦笑とも悔恨とも見える笑みで呟いた。

「あんたみたいなのが居るお陰で今のあいつがあるなら感謝って感じだわ」
「野郎から感謝されても微塵も嬉しくねーっての」
「はは。そりゃ同感。
ま、オレはあんたらとは違う見えない側の非術者?ってやつなんで、余計なことは言うつもりないですよ。
ただ5、6年一緒に住んでただけとはいえ多少の情はあるんで。両親は相変わらずの腫れ物扱いで関わりたくないみたいだけど」
「そんな身内の話し、どーでもいいんだけど」
「でもあいつは絶対自分の話し、自分じゃしないんじゃないの?」
「あんたにそれを教えるとでも?」

じとりと睨み返す悟の視線をしばし受けていたが、孝徳は肩をすくめるだけで返す。

「病院っていう職業からか、悪いことってのは続くんだけどあいつが来てからそういう細々とした悪いことってのが起きなくなってね。
あいつは自分は関係ないって言い張ってるけどさ」
「ねー、その話しまだ続くの?聞く気無いんだけど」

足を投げ出し、相手の話を聞く態度にない悟を気にせず孝徳は更に続ける。

「自分が邪険にされてるの分かってる上で、あんたらの助けになることに協力を申し出されちゃ・・・こっちとしてはできることさせてもらうってことなんで、末永くよろしく」
「はー?ナニソレ?マウントでも取ってるつもりですかー?」
「はは!ウケんなーあんた。絶対、あいつにちょっかい出しすぎて嫌われてるクチだろ?」
「僕が嫌われるわけないじゃん!」
「うわ、すげぇ自信なの余計ウケるわ」
「調子こいてるとぶっ飛ーー」
ーーゴンッ!ーー
「でっ!」

小気味の良い音が上がった。
悟が振り返れば、拳を握ったまま剣呑な表情を浮かべていたが低い声を這わせる。

「何、一般人に術式発動しようとしてるんですか?」
「こいつがケンカ売ってきたんだっつーの!」
「五条さん!やっと見つけましたよ!今日のーー」
「ヤだよ、僕行かないかんね」
「そ、そんな・・・」
「いい歳した大人が伊地知くんを困らせないでくださいよ」
「どうせ僕じゃなくても何とかなるやつでしょ」
「ぜ、全部特級案件ですよ・・・」
「そう言って前は雑魚だったじゃーん」

わがまま児相手にの電話の相手である潔高は恐縮しながらも、あの手この手で連れ出そうとしているが悉く却下されている。
見慣れた光景とはいえ、大の大人がやっているのを目の前で見ると言葉にできない虚しさが湧いてくる。
はぁ、と頭を抱えるの隣、終始、不毛なやりとりを眺めていた孝徳から気楽な声がかかった。

「スーツ君、困ってるみたいだから助けてやれば?」
「でも、まだ話の途中でーー」
「いいっていいって。さっきの件、オレが全部受けてやるから」
「え、でも・・・あの手の話しは伺いとか許可とか取らないといけないんじゃ・・・」

なまじ手続きや知識を持ってるだけに、申し訳無さを見せるだったが、孝徳は安心させるように頭を撫でた。

ーーポンッーー
「いいって言ってんだろ、こういう時は素直にありがとうって甘えときゃいいんだよ」
「・・・」
「あー!ちょっとお客さん、ココはそういうことするお店じゃないんですよねー!」
「五条さん、店内で大声出さないでください・・・」
「五条さん!お願いですからもう行かないと!」

場所を弁えない騒ぎを続ける隣に、これ以上留まっても邪魔されるばかりで話は進まないと判断したは、提案を受け入れるように一つ頷き返す。
そして、自身の荷物を手にすると孝徳へと向いた。

「では詳細はまたメールで連絡します」
「おう」
「伊地知くん、一緒に学長に報告に行こう。コレがこれじゃあ差し障りありまくるし」
「ちょっ!コレ呼ばわりは酷くない!?なんでそういう方向に話しがいくの!」

騒音を放置し、席を立ったは孝徳に頭を下げた。

「忙しいのに今日はありがとうございました」
「こっちも久しぶりに話しできて良かった、気を付けてな」
「はい」

潔高と一緒に店を出る
完全に置いてけぼりになった悟は不満たらたらに席を立つと、孝徳がへらりと笑い返した。

「んじゃ、また会いましょうね。ごじょーさん?」
「はあ?もう二度と会わねぇっつーの」
「はは・・・あいつのこと頼んます」

これまでの軽薄さがない、真摯な一言。
交錯する視線は紛れもなく・・・
返事を返すつもりはなかった悟だったが、ただ一言だけ返した。

「言われるまでもないっつーの」



































































































先に店外に出たは疲労困憊のようなメンタルを少しでも慰めるべく深々とため息をついた。
が、そんなものでは回復するわけもなく。
同情に近い視線を向けた潔高は自身が把握しているスケジュールを訊ねた。

さん、今日はオフだったはずでは?」
「いや思いっきりオフだったから人と会ってたんだけど、どうしてか五条さんが乱入してきてさ・・・」
「わ、私は教えていませんよ!」
「それは知ってる。そもそも伊地知くん知らなかったでしょ」
「う、はい・・・」
「そもそも疑ってないし」
「よっしゃ!じゃパフェでも食べに行こうか」
「任務が先です」
「任務が先ですよ」

当たり前のように会話に参加してきた悟に2人の声がはもった。
だが、はやはり腑に落ちないのか眇めた視線を悟に刺す。

「というか、なんで五条さんあの店知ってたんですか。誰にも教えてないんですが」
「僕最強だもん、なんでも知ってるに決まってんじゃん」
「・・・はぁ」

質したところで無駄だったかと、は面倒そうにため息をついた。
だが、自身の予定はひとまず終わり目的も達せられた。
残りの追加問題を片付けるべく、は時間を気にしてそわそわとしている潔高に向いた。

「伊地知くん、とりあえず五条さん捕まったし任務に連れてってよ」
「ええ、そうさせていただきます」
「じゃぁ、気を付けーー」
ーーガシッ!ーー
「よーし!じゃ、ぱっぱと祓ったらパフェコースだね〜。
伊地知、ちなみに何件?」
「え、えーと、本日は5件ですが・・・」
「5件?だっっっる。嫌がらせにも程があんだけど、冗談じゃないっつーの」
「私のこの状況も冗談じゃないんですが?」

首元を腕でホールドされたまま、無表情のまま米神を波打たせているが地を這うような声を上げる。
ご機嫌ブリザード中の相手に、悟は底抜けに明るい表情のまま続けた。

ヒマでしょ?パフェ奢ってあげるよ」
「ヒマじゃなくてオフなんです。何で特級案件に同行しないといけないんですか、しかもオフに」
「いい経験になるじゃん」
「間に合ってますし、オフなのにタダ働きなんてゴメンです」
「僕が居るから大丈夫大丈夫」
「そういう問題じゃ・・・って抜けないぃ
「よっしゃー!しゅっぱーつ!」

力尽くで抜け出そうにも、身長差から宙ぶらりん&引き摺られる形になるだけでどうにもならない。
しばらく悪足掻きよろしくもがいていただったが、やはりという結果に諦めのため息を吐いた。

「・・・はぁ」
(「すみません、さん」)




























































ーー末長く?
五「んな!?」
 「ん?よう、先日ぶり」
五「は?なんで部外者がここにいんの」
夜「知り合いだったか?」
 「いえいえ、はじめましてですよ。ねー?」
五「・・・」
夜「それにしても十数年ぶりか。ずいぶん大きくなったな」
 「いやいや、夜蛾さんから見ればまだまだガキっすよ」
夜「悟、お前とは顔を合わせることは少ないだろうが今後、負傷者が多い場合はこちらが運営している霞病院が受け入れてくれることになる。喧嘩するなよ」
 「てなわけでこれからも末永くよろしく、ごじょーさん」
五「お断りだっつーの!」
夜「言ったそばから・・・」




ーー犯人はすぐそばに
 「まさか硝子さんが知り合いだったとは思いませんでした」
家「医大の時にちょっとな」
 「道理で、やけに話しがスムーズすぎる運びになっていると思いました」
家「とは言え、お前が間に入ってもらわにゃこうも早く話は固まらなかったさ」
 「そう言っていただけるのは嬉しい、ですが・・・」
家「ん?どうかしたか?」
 「・・・もしかして、先日、打ち合わせする件もご存知だったりして?」
家「お前の行動を一から十まで知るはずないだろ、ストーカー扱いするな」
 「で、ですよね!すみません」
 (「それにしては突然の乱入の割に向こうの反応が薄かった気がするんだけどな・・・」)





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2024.3.12