両手に重い荷物を持ったは目的の部屋へと到着した。
が、両手が塞がってしまってノックできない。
「・・・」
しばらく悩んだ末、面倒になりーー
ーードゴッ!ーー
「キャーーー!犯されぇ・・・ぶえっくしょーー」
ーーバダンッーー
「・・・」
蹴り開けた勢いがありすぎて惰性でドアが再び閉まってしまった。
部屋の中からはクシャミなのか咳なのかをしながらも笑い転げる声が響いている。
「・・・横着するもんじゃないな」
片方の荷物を床に置いたは、今度はちゃんとドアノブを捻りやかましい部屋の中へと入って行った。
ーーRe;ーー
「だはははっ!おま、何やっーーゴホッゴホッ!」
「風邪ひいてるくせに爆笑するなんて馬鹿ですね」
「やー、僕ってば優しい後輩に恵まれたな」
赤ら顔でケタケタと語る悟に、げんなりとした表情のがドン引きのテンションで続けた。
「そのテンション本気でウザいので止めてください。
ってか、私より硝子さんに頼めば良かったじゃないですか。連絡してないんですか?」
「したー、『死にそう』って連絡したら『ウケるw』って返ってきた」
「・・・」
だから私に回って来たのか。
いきなり『クズの始末は任せた』とメッセが来た時は何事かと思ったが。
あの人のことは尊敬してるが、面倒を私に押し付けるのはやめて欲しい。
「はぁ、最強が聞いて呆れますよ。
はい、計っててください」
「ん」
「それで、今の症状は?」
「悟を触って確かめてv」
「・・・そうですか、では失礼しまーす」
「いででででで!ちょ、マジ痛、千切れる!」
「痛覚正常です。次はどこを触って確かめてやりましょうか?」
「、学生時代よか可愛げなくなったよね」
「ありがとうございます」
電子音がなった事では悟の耳から手を離し、手を出せば悟から体温計を渡される。
が、
「は?」
「ん?」
「あ、いや・・・なんかエラーみたいなんでもう一回お願いします」
「ちぇー、仕方ねえなー。ダッツ一つで手を打ってやろう」
「はいはい」
応じながらは手元の携帯でメッセを送りながら、妙にハイになってる悟に訊ねる。
「五条さん、ここ一週間って何してました?」
「んー、任務で出ばっておみや買ったなー。
仙台の喜久福ってーー」
「あ、その話要らないです。その他には?高専以外にどこ行きました?」
「お前が聞いたから教えてやったのに〜」
「あー、はいはい。続けてください」
「あと・・・京都と恵に稽古付けたくらいか」
その言葉にはやらかした、とばかりな表情を浮かべた。
「・・・」
「んだよ、そのあっちゃーっての」
「恵くんとの稽古って、無限切ってやってますよね、やっぱ・・・」
「さすがに小学生を無限で吹っ飛ばさないだろ、鬼畜だね」
「その恵くんが体調不良だと私、一昨日五条さんに連絡してますけど見てます?」
「しらなーい」
「あは、そうみたいですね、自業自得ですね馬鹿みたい」
「はぁ!?このGLGに馬鹿って酷くない?」
「防げるもんを防げてないじゃないですか、ったく」
再びの電子音に、やはり先程の結果が間違いじゃ無かったことには深々とため息を吐いた。
「ちょっと首元失礼します」
「さとるん、犯されちゃうv」
「10秒でいいんで黙っててくれます?」
面倒そうに言い捨てたは悟の首元へと触れる。
異様な熱と共に、やはり妙な腫れ上がりに最悪な予想が的中したことが分かった。
「扁桃炎貰ってますね。
最短で三日、運が悪けりゃ一週間かかりますよ」
「わーい、休暇だー」
「若さの力で三日で治してくださいよ私は付き合いませんからね。
あ、硝子さんですか?
ええこの人、扁桃炎です。
実はこの人が見てる子が三日前に発症してて傍迷惑にもって感じです。
いえ、私はこの人と違ってちゃんとしてますので大丈夫です。
はい、伊地知くんには私から連絡します。はい、失礼します」
通話を終えたはギロリと、とベッドで横になる悟を見下ろした。
「そんな怖い顔しちゃいやん」
「・・・何食べれます?」
「ダッツで」
「分かりました」
教員用に広くなった一室で、冷蔵庫に向かったは買って来ていた品を学生時代のように悟へと渡した。
「やっぱり用意済みなのね」
「口閉じて喋っててください」
ーーペチッーー
「はーい」
冷えピタを貼り付けたは一旦、寝室を出る。
そしてキッチンに立つと携帯からもう一人へと電話をかけながら氷の板を砕き始めた。
「お疲れ様です、です。
すみません五条さんなんですけど、三日ほど動かせません。
いや、単なる体調不良なので心配無用ですよ。
あぁ、この音は氷砕いてるだけなので気にしないでください。
はい、ええ、調整お願いします。
私は明日以降なら大丈夫ですから。ええ、お願いします。では」
手短に用件を済ませ、は砕いた氷を氷嚢の中へザラザラと流す。
伏黒家でもこの三日はずっと氷を砕いていたのに、なんなんだこのループは。
どんなプレイの罰ゲームなんだか、とは出来上がった氷枕を持って再び寝室へと向かう。
「遅ぇぞ、お代わり」
「お代わる前に薬が先ですよ。横に置いてるんですから飲んでください。
というか大人なんですから、それくらい察してください」
「やだねー、可愛げある後輩が歳食って嫌味っぽくなったゃったよ」
(「あんた散々可愛げないっつってたろーが」)
熱でここまでおかしくなるのか、と哀れみの目で見下ろせば、それはそれで気に障ったらしく口を開こうとするのが分かった。
「お前ーー」
「はーい、それ以上口開いたら追加のダッツ無しで、問答無用で坐薬突っ込みますからね」
「・・・」
後者の効力で黙って薬を飲んだ悟に追加のダッツを渡すと、は手近のクローゼットから着替えを引っ張り出し悟へと渡した。
「はい、お次は着替えで。
着替え終わった反転術式をーー」
「やー、もう無理動けん」
「・・・」
きたよ。
ほどほどスムーズに終わるかと思えばこのタイミングで駄々こねか。
これじゃあ小学生相手の方がよほどスムーズに終わるんだが。
「小学生でさえ言われたことは全部出来たのに、その先生である成人が出来ない訳ないですよ、甘ったれるな」
「本日最強はお休みでーす」
(「・・・うわ、面倒くさい質が変わった」)
やばい、このまま面倒が続くと明日の任務に私が差し支える。
早々に説得を諦め、は悟のシャツの裾を掴むと容赦なく引き上げた。
「きゃー、ってば大胆v
GLGの裸を見て興奮した?しちゃった?」
「はいはい、したした。
体拭くので無駄に大きい体倒しとけ」
「いだいいだいいだい!僕柔軟そんな得意じゃないから!」
騒ぐ悟を尻目にもはや玄人じゃないかと自賛したい手際で替えのシャツを悟に被せると、氷枕へと頭を放り投げた。
「わーい、病人の扱いじゃなーい」
「はい、やかましい。
反転術式かけるんですから少し黙ってください」
そう言って、は悟の額へと手をかざし術式をかけていく。
最強と言わしめるこの人の術式の性質上、フルオートで術式を展開し続けている。
その上、特殊な眼を持つ莫大な情報処理に耐えきれない脳内の処理を自己補完の為に反転術式も同時発動し続けているというなんとも常識外れをやってのけてくれている。
体調不良で術式が乱れれば、反転術式の効力も落ちる。
過去、ハイになり過ぎたこの人を尊敬する先輩が苦労して治した話を聞いたこともあり、同じ状況に陥いるなんてごめんだった。
「あー、の反転術式はしょぼいね」
「扁桃炎もらってる奴には言われたくないセリフですね。
そんなしょぼい奴に介抱されてる現状を恥じてください」
「あははは」
笑い事じゃねぇっつーの。
とはいえ、最初に見た時よりは顔色も幾分落ち着いているように見えた。
「とりあえずですが、この辺でどうですか?」
「そーねー、小指第一関節分くらいは楽」
「具体的にどーも。楽になったなら寝てください」
「はーい、も明日は僕が助けに行けないからって泣いちゃダメだぞv」
「早く寝ろ」
ーーバダンッーー
最後まで面倒だった部屋から抜け出し、深々とはため息を吐いた。
なんだか学生時代よりも大人になった今が面倒ってどうなんだろうか?
昔より出来ることが少し増えたが、問題児が問題児であることに変わりがなくて困る。
(「は、やだやだ。
さっさと粥だけ作って寝よ・・・」)
考える事を放棄したは、再びキッチンへと向かうと手早く病人食を作り終えることに意識を向けることにした。
ーー先輩が手伝ってくれました
「ありがとうございます、七海さん。
担当の一つ、片付けていただいたと伊地知くんから聞きました」
七『いえ、私の位置から近場でしたのでお気になさらず。
それにあの人の尻拭いをしていると聞きましたので』
「とっても助かります、今度あの人の奢りで飲みに行きましょう」
七『都内のフレンチはどうですか?』
「良いですね、私は好き嫌いないのでお任せします。何なら星付きの店予約ちゃいましょう」
七『候補は任せてください』
「はい、楽しみにしています♪」
後日譚
Back
2021.10.29