(「初夏とは言え、流石は北海道。まだまだ肌寒いわ・・・」)

内心ひとりごちた は冷える指先を温めるように手を擦り合わせた。
任務ではなかなか訪れない北海道で任務を終え、やっと帰れると思った矢先。
別件の追加連絡が入ったことで致し方なく、空港へと足を運ぶ事となり目的の人物を待っていた。
と、時計を見ればそろそろ予定の便が到着した頃かと、待合席から腰を上げた。
すると待っていたその人を現すように、時間通りにその姿を捉えた。

「七海さ・・・」
ーーRRRRR, RRRRRーー

しかし、その呼びかけは途中で途切れた。
いや、正しくは途中で止めた、だ。
何しろ、諦め顔の待ち人の隣りに部外者がくっついている。
そして呼び出し源のスマホ画面の表示に、何となく連絡内容も察しがついた はため息を一つつくと、通話ボタンをタップした。

「・・・はい、
『ああ! さん良かった!実はですねーー』
「あー、うん。なんとなく予想はついた。
 問題の人が目の前から腹立つくらい意気揚々と歩いてきてるからこれからの私の行動予定だけ教えてもらっていい?」
『す、すみません・・・それではですねーー』
も一緒に同行させるから、後は上手くやっといてね〜、伊地知」

取り上げられたスマホの通話終了が押されてしまった。
いつの間に距離を詰めたのか、自身より高い位置で人のスマホをクルクルと弄んでいる長身に のげんなりとした表情が返された。

「やっほ、久しぶりだね
「・・・お久しぶりです五条さん。私のスマホ返して下さいますか?」
「あれ、僕がここに居ることにノータッチとは寂しいなぁ」
「当然でしょう、白々しい態度の人に一々反応するのは馬鹿らしいですからね」

苦々しい言葉を吐いてやって来た、本来の待ち人に は頭を下げた。

「七海さん、お疲れ様です。お久しぶりですね」
「ええ。そちらも変わりないようで何よりです」
「悪運が強いのでなんとかです。最近は忙しさに拍車がかかって困りものですが。
それで・・・」

そこまで言った は、六○亭の前でチョコを頬張るもう一人を指さした。

「追加の方がいらっしゃった目的を教えていただけますか?」
「・・・それは私も知りたいところです」






















































































































ーー北海道出張ーー




















































































































空港から出、ひとまず目的地まで移動・・・などとスムーズには行かず、追加の同行者の道草に付き合わされた と建人は『北海道まで来たらコレっしょ?』という、行楽気分を僅かも隠さないその人に付き合わされてじゃがバターを食べていた。
は丁寧に辞退し、食べ終わるまで散策でもするかと思っていたが、建人からの『あの人と肩を並べてなんて冗談じゃありません』の言葉で付 き合わされる羽目になっていた。

「なんかぁ〜、 も七海も不機嫌じゃなぁ〜い?」
「任務前に菓子を貪ったりジャガバター食べ始めたりする人がいるもので」
「結局七海も食べてんじゃんよ」
「そりゃぁ北海道まで来てますからね」
「そんで は本当に食べないの?」
「私は先入りしてもう食べましたので結構です」
「いやぁ〜、やっぱジャガバターは最高だね」

和やか(?)な雑談のように見えるだろう。
だが今の状況はよろしくない。
何せ大の大人(アラサーx3)が を挟んで仲良く横並び。
トドメに周囲からの視線を集める容姿の両側にはさまれた構図。
事情を知らない第三者からみれば羨望に近い眼差しが向けられるだろうが、日頃からの付き合いとなっている身としては冗談ではない状況である。
は居た堪れなくなりその場を離れる尤もらしい口実をなんとか捻り出す。

「はぁ・・・あの、五条さん」
「あに?」
「今回の任務に3人も割くのは過剰だと思うんです」
「ふーん」
「なので私は失礼しまーー」
ーーガシッーー

しかし目論見はあっさりとくじかれ、じゃがバターを頬張っていたその人に易々と確保され元の場所へと戻された。

「いーのいーの。
僕が居れば楽できるでしょ?たまにはこんな楽な任務があってもいいじゃない」
「いや・・・」

正直、それはどうでもいいんだが。
そもそもそう言う事を言いたい訳じゃない。
目論見と今しがた聞かされた反論に素直に頷けず、助けを求めるようにもう片隣の先輩を見上げる。
すると とは対照的にいつもの冷静さのまま、最後の一口を運んだ建人は小さくため息を吐いた。

「まぁ、この人がこう言う奥歯に物が挟まった言い方をしてまで引き止めるんです。
当初の予定通り続行でいいと思いますよ」
「・・・七海さんがそう仰るなら、分かりました」
「えー、なんで七海には素直かな」
「私も北海道に来てまで野郎と肩を並べてなんてごめんです」

あー、気持ちは大変すごぉーく共感できるのだが、その言い方はまずいですよ。
という内心の声は相手に届かず、代わりにおちょくる気満々のにやけ顔が建人へと無遠慮に距離を詰めた。

「何なに?七海ってばもしかして と二人っきりでしっぽりと任務が良かったの?」
「少なくとも、こういう無駄なやり取りに気力と時間を削がれる必要が無い分その通りですよ」

自分を挟んでやらないでくれ。
そして頭上で火蓋を切らないで欲しい。
とはいえ、火花を散らしているのは一方のみだが。
このままでは本気で片方が爆発するだろうことが予想できた は話しを変えるかとスマホを取り出す。
そして行きがてらに話そうとしていた内容をスマホの仕事用フォルダから資料を開き、わざとらしく咳払いをした。

「ごほん。
あー、と・・・時間があるようなので腹ごなしに先入りして確認できた情報共有をさせていただきます」




















































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2024.08.20