ーー似た者同士ーー





























































































時刻は深夜に差し掛かろうとした頃。
医務室の処置台前で待機していた硝子は近付いてきた足音を耳にしたことで、椅子から立ち上がった。

「しょーこー。ほい、お届け」
「よし。そこに寝かせろ」

あらかじめ開けておいたドアから現れたまるで宅配でも請け負ってきたような悟に、硝子は淡々とした口調で手術用の手袋をはめながら応じる。
しかし届けられたのは荷物ではなく、意識をようやく保っているような が弱々しく笑い返した。

「てま、かけし・・・ます」
「それはいい。言えるか?」

挨拶も心配も抜きに放たれる端的な問い。
その間でも、硝子の手元は必要な機器と点滴に繋ぎ、血に濡れた の服を裁ったりと僅かも止まることはない。
自身の状況を理解している はどうにか腕を持ち上げると震える指で胸を指した。

「たぶ・・・あ、な」
「気胸か。派手にやらかしたな。五条、どういう状況だった?」
「ん?いつも通り、非術者助けようとして瓦礫被ったって、アホだよね」
「今の所、頭は問題なしだな」
「ついでに頭ん中に反転かけてやってよ」
「騒ぐなら出てけ」

他の大きな負傷を確認しながら出血が多い頭部を中心に診察を進め、優先度が高い負傷を確認していく。
そして、最初の の申告が最優先という診断となったことで、硝子は胸に手をかざし反転術式をかけていく。
しばらくして粗方の処置を終えたが、モニターに繋がれた一つの数値が一向に回復の兆しを見せない。
それを裏付けるように の顔色も良くなるどころか悪くなっていってることに硝子は内心首を傾げた。

(「なんだ、穴塞いだってのに呼吸も数字もが戻らない」)

刻々と血中の酸素濃度の表示が90%を割ろうとしている。
運び込まれた直後より悪化していることで、硝子はペシペシと の頬を軽く叩きながら声をかけた。

「おーい、 。まだ気ぃ失うなよ」
「・・・っす」
「よしよし、指立てる気合は残ってるならそのまま気張れよ」

口調は最初から変わらないまでも、硝子の動きはスピードを上げ投薬をいくつか増やし、そして聴診器を当てどうにか原因を探る。

「硝子、まだー?終わったらパフェ食いに行くんだけどー」
「黙ってろ、クズ」

一人だけ状況が分かっていないのんきな悟へピシャリと言い返し、硝子は片肺ずつ確認を進める。
と、響いた雑音を確認したことで盛大に舌打ちと共に悪態をついた。

「・・・くそ、血胸もかよ」

原因が分かった硝子はすぐにスマホを手に取った。
苛立っている硝子の単語を漏れ聞いた悟は首を傾げる。

「けつ?」
「伊地知、搬送先に連絡取れ。あぁ、急患1名、これから送るって連絡しろ」
「は?」

状況についていけない悟を置き去りに、硝子はすぐに別の番号へとかけた。
僅かな時間の呼び出し音が過ぎると、相手側の通話ボタンが押されたが相手からの言葉を待つことなく硝子は用件を告げる。

「家入だ。至急EICU一つ空けろ」
『・・・開口一番なんだ、無茶振りオーダーな』

電話口から返される寝起きのような呻く声に構わず、硝子はハンズフリーにしながら追加の投薬、必要な書類に走り書きをしつつ話を続ける。

「気胸で応急はしたが血胸してる、経過はおおよそ1時間」
『話し聞けって』
「今、伊地知がそっちに救急の依頼してる、さっさと受け入れろ」
『クランケは?』
「お前の従姉妹」
『あ"?』
ーーゴンッ!!ーー
『ってえぇぇぇ!』

まるでタンスの角で小指をぶつけたような濁った悲鳴が電話口から響いた。
しかし相手の心配をすることなく、硝子は急き立てるように答えを催促した。

「遊んでんな。受け入れるな?」
『ってて・・・あぁ、分かった。すぐ車回す』
「それはいい。おそらく10分以内に着く」
『は?そっからどんなに急いでも片道30分はーー』
「準備は任せたからな」
『あ、おい!』

相手の反論を聞くことなく一方的に通話を切った硝子は、今度は悟に向いた。

「五条」
「いや、急患って。反転かけてんだからーー」
「こいつはあと30分ももたない」
「・・・は?」

大袈裟な感の悟に対し淡々と説明しながら の装いを運び出せるように手早く準備を進めながら硝子は続ける。

「肺に開いた穴は塞いだが、肺の中に血が溜まってる。これは反転術式じゃ治せない、すぐに精密検査と手術しないとこいつは死ぬ」
「マジ?」
「搬送先は分かってるだろ。すぐに運べ、ただし可能な限り揺らすな」

説明を終えたと同時に の準備も終えた硝子は真剣な表情で悟に振り向いた。
元々、このような状況で冗談を言う性格でないことを知っている。
故に聞かされた言葉が真実であることを暗に示していることで、悟も表情からふざけた調子を消した。

「できるか?」
「愚問」

状況を理解した悟は を揺らさぬように抱え、次の瞬間には姿が消えた。
硝子は小さく息を吐くと、再度スマホからリダイヤルをかける。

『おう』
「今向かった。準備は?」
『やってるとこだ。状況は?』
「外傷はこっちでやった、見た目は健康体だろ。
瓦礫受けたらしいから、抗生剤も一緒に輸血してやってくれ。とりあえず緊急なのがレントゲンだ、溜まってる方の処置は頼む」
『なら精密検査もして・・・って、マジかよおい。本当に着いたよ』
「あとは任せる」
『任せとけ』

気安い声で応じられ、通話は終わった。
短時間の割に怒涛の喧騒だったが、今はではそんなことなど起きていない様に深夜独特の静けさに包まれる。
あとのことは向こうに任せるか、と硝子は伸び上がるとコーヒーでも飲もうと処置室を後にするのだった。



























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2025.01.08