廃工場から、立て篭もったテロリスト達が連行されていく。
保護された少女は、顔色は優れないながらも素直に聴取を受けていた。
後始末諸々を手伝うことなく、それらを手近な壁に寄りかかって遠目に見ていたに声がかかった。
「良くやった」
リザを連れ現れたロイを一瞥したは、嬉しさのカケラも籠ってない声で言い返す。
「別に大した事してません。
これも出世の足掛かりにしてくださって結構ですよ」
「いいのかね?」
「出世したところで、良い事がないのは分かりましたので」
面倒そうに肩を竦めそう言うと、は再び聴取中の人質だった者に視線を向ける。
「・・・話は変わりますが」
「ん?」
「今回のこの事件、背後関係を洗い直した方が良いかと」
「どういうことだ?」
「テロリストが言っていました。
時間が稼げれば、焔の錬金術師がいようとも逃げられると」
「・・・」
の報告にロイは考え込む。
犯人の真意を探ろうとするその横顔に一瞥を投げたは再び口を開いた。
「そうそう、雨で無能化するなら、水でもぶっかけてやろうとも言ってましたね」
「それは嘘だろ」
「あら、無能は事実では?」
「ぐっ!」
「・・・」
「ま、随分と自信たっぷりでしたので、一応ご報告だけしておきますよ」
リザに制され仕方なくその先の続きは口にしなかった。
未だに憮然顔の上司に、再びは聴取中の人物を見やった。
「それと、あのお嬢さんですが」
「?」
「テロリストの残党の襲撃から守るために、護衛を付けた方がよろしいかと」
「まだ残党がいるのか?」
「さぁ?私はそう愚考しましたが?」
こてんと首を傾げながらも、その瞳にはあとは自分で考えろよとばかりな侮蔑の色。
ぐっと文句が出かかったロイ。
それを見ていたロイの背後に控えるリザは、深々とため息をついた。
「さて。いい加減、司令部に連れて行ってもらえませんか?
管轄外の事件を解決してやった功労者をいつまでも突っ立ったせておかないで欲しいですね」
「・・・・・・」
痛烈な皮肉に、何も言い返せないロイはこれ以上噛めないほど苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「中央から異動してきました、・少尉であります。
ほどほどにどーぞよろしくお願いします」
翌日。
執務室に響いた凛とした声とそれと裏腹な表情の挨拶が響いた。
その場には昨日の現場で顔を合わせているメンバーも多く、青い軍服に身を包んだの登場に多くが唖然としていた。
「本日より彼女は東方司令部の配属になる。
ハボック少尉」
「?うっす」
「昨日の功績は賞賛に値する。引き続き彼女にいろいろ教えてやるように」
ロイの言葉に暫し固まっていたジャンだったが、言われた意味を理解すると素っ頓狂な声を上げる。
「はぁ!?い、いや、彼女は女性ですしホークアイ中尉の方が・・・」
「私は大佐のおもりがあるから無理よ」
「で、でも・・・」
「大丈夫。彼女なら問題ないわ。それで構わないわよね??」
「問題ない、ありがとねリザ」
「決まりだな」
(「拒否権なしかよ・・・」)
がっくりとうなだれるジャンの肩をブレダだけが同情を込めて叩くのだった。
司令部内の場所を案内しながら、リザに返された砕けた口調の事をジャンは隣に聞いた。
「知り合い、っすか?」
「同期なの」
「じゃあ、やっぱり・・・」
「たかだか庁舎の場所や仕事のやり方、誰が教えても同じゃないかしら?」
こちらに視線を返さず、冷ややかに返したレイカにジャンは口をへの字に曲げた。
「・・・・そりゃ、悪かったな」
面倒な仕事は早く終わらせようと、ジャンは愛想の無いレイカに一気に説明した。
自分ならこれだけ詰め込まれれば諸手を挙げて降参だ。
が、相手から返されるのは『ええ』『ふ〜ん』『なるほど』など短い返事だけ続くことすでに4時間。
ついにジャンの方が痺れを切らせて問い返した。
「本当に分かってんのか?」
「ええ、もちろん」
(「本当かよ・・・」)
「本当ですよ」
「!?な、なんで俺の考えてる事・・・」
「ハボック少尉は感情が素直に表情になる方なので」
ジャンの驚き様に、レイカの方が不思議そうに首を傾げる。
だが、相手から返るのはこちら以上に驚愕し固まっている姿。
自分で聞いといて、何故そこまで驚くんだ・・・
「そんなに疑うなら・・・
今から4時間7分前、庁舎の説明が開始。1階の受付係の女性、サラ事務官に私を紹介。その後、彼女からの冗談に渋い顔を浮かべ、タイミング良く現れたブレ
ダ少尉と数分間の談笑。後、移動し訓練場、射撃場、シャワールーム、中庭、医務室、食堂へ案内。道すがらは声をかけられる同僚、計16名に挨拶を交わす。
次に、3時間前。2階に移動し執務室に関係のある部屋の説明。書庫、給湯室、仮眠室、大佐の部屋、執務室へと戻り執務室内にある書類、必要な文具類の説明。
そして、2時間前。3階のグラマン中将の部屋へ。入室はせず、そのまま屋上へ。
この場所はよく大佐がサボっている時の隠れ場所だという情報を私に教え、タバコが終えるまで屋上で時間を過ごし、再び執務室へ。
執務室到着後の1時間40分前。昨日の『赤の団』立てこもり事件の報告書作成を始めようとするも、マスタング大佐より過去の事件を把握しておけという追加命令により、書庫で関係する書類を執務室に持ち込み、説明と背後関係の洗い出しを始めた。
何か違う所がありますか?」
「・・・・・・・・・・・・」
ジャンはもう何も言えなかった。
「おい、ヒューズ。どういうことだ!」
『なんだ、珍しくお前からかかってきたと思えば何怒り狂ってんだ?』
いつもとは逆転した状況だというのに、マースはいつもと変わらないあっけらかんとした声音で返す。
しかし、ロイの方は心中穏やかではない。
「あの異動者。ただ者じゃないだろ!」
『お!もう着任したのか?どうだ?やっぱり美人だったか?』
「まぁ確かに、美人だが・・・・って!そうじゃない!
異動の理由はあの性格じゃないのか!?相当、捻曲がってるぞ!
上官にあの態度は有り得ないだろ!あんなんで中央のどこの隊で務まるって言うんだ!?」
『ありゃ、そうなのか・・・ま、顔が良い分、性格に難があっても仕方ないだろうが。諦めろ』
「だから!そういう話をしているんじゃない!」
的外れな回答に、ロイは頭を乱暴に掻きむしる。
しばらくして、深くため息をつくとロイは語調を抑えて話し始めた。
「昨日テロリストの立て篭り事件があったが、彼女は一人で片付けたんだ」
『マジか!?そりゃすげぇ〜』
「感心するところじゃない。
相手は最低でも5人はいた。それを国家錬金術師でもない、たかが軍人一人、しかも女が片付けたんだぞ?
前歴がないのは彼女の強さが関係してるんじゃないのか?
尉官なんてとんだデタラメだ」
それに、ハボックの報告を聞けば聞くほど階級に不似合い過ぎる手際の良さだ。
錬金術師でない一軍人なら、その実力は自身と同じ左官、腹立たしいが下手をすれば将官クラスに届く可能性すらある。
『まぁ、確かにそいつは只者じゃないわな』
「調べてくれないか?爆弾を抱えるなら、事情を把握しておきたい」
『ああ、いいぜ』
過去の報告書をめくりながら、とジャンは昨日の報告書をまとめていた。
「なぁ、少尉は中央ではどこにいたんだ?」
「で結構ですよ。ハボック少尉」
「なら、俺もハボックでいい。階級も同じだしよ」
「それはどうも」
そうですね、と前置きしたは新たなページをめくりながら続けた。
「んー、まぁ口止めもされてませんし左遷されたなら言っても構わないでしょう」
「?」
「大総統直下に、秘密裏に大総統令を遂行する部隊が設立されていました」
疑問符を浮かべるジャンに構わずはさらっと事も無げに語る。
「・・・は?」
「私はそこの実動部隊に配属となってました。
主な任務は敵国の諜報、要人の暗殺、誘拐、破壊工作etc…汚い事はすべてやってきました。
そしてある時、上官に不審な行動があったので探ってみたら、某将官と軍事金の流用を突き止める形になりまして」
「・・・」
「協力を強要されたので丁重にお断りしたんですが、実力行使に打って出てきたので、こちらもそれなりな対応を。
で、証拠全てと袋だーー」
言いかけて、はピタリと動きを止める。
だが、そこまで言ってしまっては後半の言葉などジャンでも想像に容易い。
「・・・・・・」(「袋叩き?」)
「こほん。
証拠全てと身動きしないように拘束した上官と某将官を中央司令部前に転がした翌日、部隊が解体され私に辞令が下りたと言う訳です」
「お、おもしろい冗談だな」
ひくり、とジャンは顔を引き攣らせた。
その言葉に、ページをめくる手を止めたは視線を上げた。
「ええ、冗談ですから」
「・・・・・・・・・は?」
「お楽しみいただけました?」
「はぁ〜、なんだ、本当に冗談かよ!驚かすなよなぁ〜」
うわぁ、変な汗かいた、とジャンは椅子に寄り掛かった。
「・・・・・・」
そんな声を聞きながら、はまたページをめくるのだった。
当人は簡単にバラしてちゃったりする(笑)
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2019.7.12