「じゃあ、悪いんすけどここでーー」
ーーガチャーー
「ちょ、ちょっと!?」

ジャンの言葉を無視し、廃工場跡に着くやいなや女性は颯爽と当然の様に車を降りた。
そして人集りを縫い、軍人が集まる中心へと向かうのだった。











































































































「はぁい、リザ。状況は?」

見知った後ろ姿に、女性は声をかける。
すると、それに返されたのはとても驚いた表情と声。

!?中央からの異動者って貴女だったのね」
「まぁね」

と呼ばれた女性は肩を竦めると、リザに歩み寄る。
他の軍人がを連れ出すのをリザが止めると、二人は肩を並べて歩き始めた。

「廃工場に人質1人を取って、テロリスト5人が立て籠もってるわ」
「5人だけ?」
「最少では」

歩きながらリザから状況を聞いた
そして歩みを止めたそこは、謂わば作戦司令部のような場所。
そこには廃工場の見取り図を囲んだ所に、皆に指令を出す男の姿があった。
は臆することなくその中心へ足を進めた。

「噂では雨の日は使えないと聞いていましたけど、こういう所でも使えないんですね」
「口が悪いな、部外者が何の用かな」

鋭い黒曜の瞳がに向けられるが、当人は表情を変える事なく口を開いた。

「状況に手を拱いているアホ面指揮官の顔を拝見しに」
「・・・おい、誰かこのご婦人を安全な場所にお連れしろ」

の周りを軍人が取り囲む。
皆、二回りは大きく鍛え抜かれていた。
は横目で相手をちらりと見やる。
そして、伸ばされる手がに届こうとした。

ーーガンッ!ーー
「「「うわっ!」」」

あっという間に地面に倒れた大の男3人。
後ろで成り行きを見ていたリザの小さな嘆息は掻き消えた。
足払いをかけた張本人は呆れたとばかりに見下ろし、はすくっと腰を上げた。

「あらあら、まだ昨日のお酒が残ってるようですね。足元がふらついてますよ?
で?突入しない理由は?」

男達をまたぎ、何事も無かったようには見取り図に近付きながら話しを続ける。
目の前で起こったことが信じられず、呆気にとられるロイ。
そんな上司に代わり、リザがに説明を始めた。

「人質が中央将官のお嬢さんなんですって。休暇中に巻き込まれたみたい」
「なるほど。で?出世欲まみれの指揮官殿はどうするおつもりで?」
「・・・軍人か?どこの所属だ?」

ようやく回復したロイの言葉に、再び呆れた表情を見せた

「今はそういうことに構ってる場合ですか?焔の大佐殿はおつむも無能でいらっしゃいますか?」
「言葉が過ぎると、それなりな対応をとらせてもらうが?」
「これは失礼を。根が正直なものでして」

まったく失礼だと思っていないの態度に、ロイは渋い顔をする。

「どうします?まだ辞令を受け取ってない以上、責任はまだ異動元にありますよ?大佐殿には好都合なのでは?」

の言葉に、ようやくロイは合点がついた。

「君が、季節外れの異動者か?」
「ええ」
「事態を収拾できると?」
「さっきからそのつもりでお話していましたが聞こえませんでした?」

見た目はどこにでもいるような普通の女性。
だが、親友がわざわざ連絡を入れてくるくらいだ、ただ者ではないのだろう。
それに彼女の話しの通り、万が一があったとしてもこちらにマイナスになることは一つもない。

「・・・よし、手並み拝見といこう。
で?名乗るくらいはしたらどうかね?」
「これは重ねて失礼を。、階級は・・・確か中尉くらいでしたが、少尉になる予定です」

そしてはすっと左手を上げ、敬礼をとった。
言葉と裏腹な表情を浮かべて。

「お目にかかれて光栄です、焔の錬金術師、ロイ・マスタング大佐殿」














































































































ジャンがようやく追いついた頃には、すでに話しは終わっていた。
目の前で着々と作戦は進んで行く。

「必要な人数は?」

廃工場跡の入口に向かうの背中に、ロイが問う。
髪を結ったが手にしているのは、布に包まれた長い棒状の物だけ。
歩むスピードを緩めることなくは答えた。

「要りません」
「は?」
「ですから、人数を割いていただく必要はないと申し上げたつもりなんですが?」

仮にも階級が上であるロイに対してもこの物言い。
色んなことを言ってやりたい所だが、状況が状況である為にひとまずロイは文句を呑み込む。

「・・・連絡役を付ける」
「邪魔なので外してください」
「そうはいかん」

即答で切り返してきたロイに、はようやく肩越しに振り返った。
だが、それだけで小さく溜め息を零すとまた再び視線を前に戻した。

「ではお好きに。でも足手まといを助けるつもりはないのでそのつもりで」
「よし。
おい、ハボック少尉!」
「う、うっす」

完璧に外野となっていたジャンを呼んだロイは、ビシッと指を突きつけた。

「迎えの続きだ。彼女の連絡役として、工場内へ一緒に行け」
「ま、マジっすか・・・」
「勝手にここまで連れて来た責任だ」
「だって!あの人が行けって・・・」

言い募るジャンだが、ジト目のロイの睨みに文句は尻窄みになる。
そしてこちらに背を向けるに、ロイは声を潜めた。

(「不審な動きがあれば報告しろ」)
(「は?でも、あの人味方なんじゃ・・・」)
(「上官命令だ」)

有無を言わせない言葉に、ジャンはぐっと言葉に詰まった。

「りょーかいっす」
「無駄話は終わりました?いい加減にもう行かせてもらいますよ」

そう言ったは歩き出し、ジャンは慌ててその後を追いかけ始めた。








































































































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2019.1.24