イーストシティ駅。
多くの乗客が出入りする入り口の前に停車している車と、それに寄りかかる一人の男。
大佐から言われた時間まではまだ時間がある。
それまでの時間を、ジャンはゆらゆらと立ち上る煙を見上げていた。

(「いいのかねぇ〜、お偉いさんだったら俺、話し相手なんて無理なんだけどなぁ・・・」)

車に寄り掛かりながら、ここに至までのことを思い出す。


ーー1時間前
『え?俺がっすか?』
『そうだ、中央から客人が来るらしい。
どうせ暇だろう?迎えに行って来い』
『ちょっ!客人って、どういうーー』
『頼んだぞ。私は執務に戻らねばならん』
(『サボりの間違いだろ!?』)


毎度のこととはいえ、こうも説明が不足過ぎるのはどうなのだろうか。
空が馬鹿みたいに青い。
こちらの心情とは正反対だ。
八つ当たりするように気重に溜め息をついた時だった。

「はぁ・・・」
「東方司令部の迎えの人ですか?」
「?」

呼びかけられた声に視線を下げた。
そこにいたのは一人の女性だった。
風に揺れる腰まで伸びた暗紫の髪、こちらを見つめるアメジストの瞳。
白いシャツから伸びるすらっとした脚を包む黒いパンツ。
足元にはトランクと、棒状の物をその手に持っていた。
世辞を抜きにして、美人の部類にはいるその女性にジャンは思わず見惚れる。

(「うわっ、もろ俺のタイーー」)
「どうなんですか?」

惚けるジャンに痺れを切らしたのか、女性の突っ込みにジャンは慌てて答えた。

「あ、ああ。そうだ」
「じゃ、よろしく」

言うが早いか、女性は後部座席へと早速乗り込む。
荷物を持とうかという言葉をかける暇はなく、それは女性の手で隣に乗せられてしまった。

「客って、あんたか?」

急いで運転席に戻って訊ねれば、返ってきたのは素っ気ないもの。

「連絡がいってるはずでは?」
「いや、俺は大佐から迎えに行けって・・・」

正直に口にすれば、女性は呆れて話しにならない、とばかりな溜め息を漏らした。

「そうですか、詳細は上官から伺います。早く送ってください」
(「美人でも感じ悪いな・・・」)

ふい、と顔を背けた女性に、ジャンは内心呟きながら仕方なくキーを回す。
そして車を走らせて5分も経たないうちだった。

『市内を警備中の全兵へ緊急連絡。
南西廃工場跡にて、人質の立て籠り事件が発生。至急、応援に参られたし。
繰り返す、市内を警備中の全兵へ・・・』

無線機からの声に、ジャンはちらりとミラー越しに後部座席を伺う。
すると、それを読んでいたように女性とばっちりと視線があった。

「構わないですよ、そっちの優先度が高い。向かってください」
「ど、どうも」

ひくりと愛想笑いが歪む。
どうにもこの手の相手は苦手意識が拭えない、とジャンは独白しハンドルを切った。








































































































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2019.1.24