ーーリィーン!リィーン!ーー

相手を急かすようなコール音が執務室内に響き渡る。
書類にペンを走らせていた男は、仕方なさそうにため息を零すとペンを置くことなく受話器を取った。

「私だ」
『よぉ、ロイ!元気してるか?』

こちらのテンションとかけ離れた底抜けに明るい声。
相手の表情までありありと伝わるそれに、ロイは苦虫を噛み潰した表情でげんなりと声が沈んだ。

「・・・ヒューズ、用もないのにかけてくるな」
『おいおいそう固い事言うなよ〜、今日は特ダネを教えてやるってのによ』
「その手の冗談は要らん」
『実はな中央から東方(そっち)に、季節外れの異動者があるらしいぞ』

予想に反した内容に、ロイの表情が変わった。

「この時期にか?」
『あぁ。噂じゃ相当な美人だそうだ、うらやましい奴だよな〜
ま、グレイシアに勝てる美人はこの世界のどこにもいないがなv』
「異動の理由は?」

いつもの嫁自慢が延々と続く前に先手を打つ。
すると、電話口の向こうから歯切れ悪い唸りが返った。

『それがよ、前歴が抹消されてんのよ。不思議な事にな』
「・・・妙だな」
『まぁな。手ぇ出すなら早いうちにしとけよ』
「余計なお世話だ!」
ーーガチャンッ!ーー

一言多い台詞に怒りに任せて受話器を叩き付けた。
まったく、真面目な話かと思えばすぐにまぜ返す。
付き合い切れないとばかりに、ロイは再び書類にペンを走らせた。
これが、嵐の前触れの第一報になるとは誰が予想できただろうか。





































































































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2019.1.24