「さて、と。
地図から坑道はここみたいだけど・・・」
ジョージから話しを聞いていたが、いるはずのファインダーの姿が見えない。
仕方なく、坑道の入口周辺をは調べ始める。
すると、
「・・・一足遅かったわね」
そこには砂の山とファインダーが身に付ける装いに、壊れたタリズマンが転がっていた。
は膝を折り、タリズマンに触れればそれはまだ熱を持ったままで、この状況になってから時間が経ってない事を示していた。
「AKUMAがいるのは確かってことか。
タリズマンを破られる辺り、最低でもLv.1が複数ないしLv.2クラスってとこね」
は砂の中からIDタグを拾い上げ、それをポケットに押し込んだ。
そして、立ち上がると、漆黒の口を開ける坑道を睨みつける。
次いで口端を上げた。
「こんな辺鄙なところまで引っ張り出されたんだから。
イノセンスの一つも持ち帰らないと、割に合わないわ」
ついでにAKUMAも殲滅してやろう。
ルイジへの八つ当たり前にはちょうど良い憂さ晴らしになる。
は弦月をいつでも放てるよう、クロスを手の平の中に収め、坑道へと足を進めた。
ーー物言わぬ残骸ーー
「だっ、誰だっ!?」
「黒の教団よ。そっちは何者?」
薄暗い中、怯える声には要点のみを返した。
すると坑道の物陰から薄汚れた風体の男が現れた。
「わ、私は中東支部ファインダー、ライナー、です」
「他の仲間は?」
「坑道の入り口で、皆・・・」
それ以上言葉は続く事なく、ライナーはただうな垂れた。
しばらくそれを見下ろしていたは淡々と告げた。
「そ。イノセンスの情報は?」
「最奥に銀が湧く泉があるとの、情報までは掴みましたが確証までは・・・」
「そう。ならまずはその真偽を確かめるのが先ね。
で?あんたはどうするの?」
「も、勿論、同行します!AKUMAからエクソシスト様をお守りするのが私の役目ですので!」
「・・・ま、好きにしなさい」
ーー1時間後
坑道内には、不機嫌そうな声が響いていた。
「あ"ーもう!ウザイわねぇ、ったく!」
ーーザンッ!ーー
先ほどからの前をAKUMAがお出迎え。
その熱烈ぶりと言ったら、坑道の中腹を超えてから早30分。
いつもであれば、弦月で瞬殺するところだが、生憎このような場所で本気で戦えば坑道は間違いなく潰れる。
その巻き添えで生き埋めなど冗談じゃない。
仕方なく、は近接戦を余儀なくされていた。
そして、
「さーて、ここが一番奥みたいだけど・・・」
辺りには何もない。
申し訳程度の外光が崩れた上壁から射し込んでいるだけ。
それももう夕暮れ時のようで、力強い白光ではなく、弱々しい夕陽だ。
くるりと振り返ったは背後にいたファインダー、ライナーに向いた。
「ここまで連れ込んだ理由をそろそろ吐いてもらうわよ」
鋭い眼光を向けられたライナーは驚きを隠すことなく狼狽した。
「な、何を申されるんですか、エーー」
ーーチャキッーー
「まず一つ。
私は黒の教団とは名乗ったけど、エクソシストと名乗った覚えはない」
「そ、それは応援に来るのがエクソシスト様だと聞いてーー」
「なら、その到着を告げるファインダーかもしれなかったじゃない?
マントで団服が見えなかったんだから余計にね」
「で、ですから・・・」
「それに、私はAKUMAが現れてから初めてイノセンスを発動させた。
それより前にエクソシストだと断言できる方がおかしいわ」
「ご、誤解です!わ、私はーー」
ーードシュッ!ーー
「舐めんじゃないわよ。
これ以上、三文芝居を続けるなら、弦月でその口塞いでやるわよ?」
「・・・」
の挑発にまるで弓張り月のように、ライナーの口が歪んだ。
そして背中が割れ、中から人ならざるAKUMAが姿を現した。
『クククククッ、イツ分カッタ?』
さも楽しげに語るAKUMAには鼻を鳴らした。
「そんなの、最初からに決まってんでしょ」
『ナラ、ワザト誘イニ乗ッタノカ?』
「そりゃね。イノセンスの場所も確かめたかったし」
『フン、ソンナモノハ貴様ラ、エクソシストヲ釣ル餌ニスギナイ』
「・・・なるほど」
すい、と視線を細めたに気付くことなくAKUMAは高らかに笑い転げた。
『愚カ、愚カ!
貴様ヲ殺シテレベルアーー』
ーードシュッ、ドシュッ!ーー
だが、その哄笑は光の軌跡が己自身に突き刺さったことで止まることとなった。
『・・・エ?』
「ねぇ、あんた知ってた?
無駄口叩く敵に限って、大したことないっていうジンクス」
『ク、クソ!コノ私ガ負ルハズーー』
「まぁ、知るわけないわよねぇ。所詮、AKUMAに教養を求める方がバカだもの」
ーードシュッ、ドシュッ、ドシュッ!ーー
瞬きにも満たない間に更に光の矢がAKUMAに突き刺さる。
両腕、腹部に撃ち込まれたそれは完全にAKUMAの動きを封じていた。
「たかだかLv.2の分際で、この私をこんな辺鄙な所まで呼びつけといた挙句、イノセンスはデマだったですって?」
ーードシュッ、ドシュッ!ーー
顔の真横に打ち込まれる矢。
磔同然のAKUMAにの冷徹な視線がさらなる追い討ちのように突き刺さされば、兵器のはずのAKUMAは恐ろしさのあまり息を呑んだ。
『ヒッ・・・』
「嬲り殺しても足りないわ」
矢の刺さった場所から、焼け爛れるるような異様な音が上がる。
神の力が、AKUMAを断罪するそれ。
『タッ、助ケーー』
「るわけないじゃない。
ジワジワ苦しむがいいわ。
あんたが手にかけた人々の苦しみはその程度じゃ済まない。
それにその苦しみさえ、もう感じる事ができないんだからね」
その瞳に宿るのはもはや憎悪に近い。
いや、怨恨とも言えるかもしれない。
AKUMAの苦しむ姿が、かつて自分の大切なものを奪った復讐を遂げているような甘美なひと時を感じれているようで・・・
『グゥッ・・・ク、苦シイ・・・イタイ、イタイ・・・』
「・・・・・・」
ーードシュッ!ーー
頭部を弦月が貫き、AKUMAは破壊された。
そしては苛立ちを紛らわすように乱暴に頭を掻いた。
「あ〜ぁ、何苛ついてんのかしら、私・・・」
くだらないことをした。
AKUMAを嬲ったところで、何が変わるでもないというのに。
きっとあのジョージとかいうファインダーと話をしたからだ。
そして、あの同情するような視線。
苛々する。
もう自分には持ち得ない、他人を思いやる心。
とっくの昔に捨てたはずのそれ。
この戦いに身を置く以上、心を許したが最後、敵に簡単に付け入られる。
だから今の自分には不要の産物だ。
は絡み付く不愉快さを払うように頭を振った。
そして、AKUMAが崩れ落ちた場所へ向け歩き出す。
ファインダーの衣服だけとなったそこから目的の物を拾い上げると、出口に向かって歩き出した。
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2018.8.11