全ての事の始まりは一枚の指令書。
まるで人生全部の不幸と不運が詰め込まれたような散々な任務の始まりとなったのは、恐らくアレを受け取ってしまったからだと思う。
ただ受け取った当初は、とんだ僻地の任務を請け負ってしまったという感覚しかなかった。
ーー厄日の始まりーー
「・・・何よ、この指令書」
薄暗い司令室に、さも不服だとばかりな声が響く。
そして一枚の紙を持ったは、渡した相手に突き返した。
「ちょっと、なんでこの私が中東くんだりまで行かなきゃならないことになってんのよ?」
「仕方ないだろ。調査に出たファインダーが次々に行方不明になってる。
エクソシストの投入を決めたのは本部だ」
偉そうに格好つけて指を組む、一応上司であるバクの言い分には眉間に皺を寄せた。
「だからって、なんだって私がーー」
「ルイジ・フェルミ中東支部長のご指名だ。有能なエクソシストを派遣してくれってな」
「はぁ?あんな老いぼれバーコードに褒められても嬉しくないし」
「お前な・・・」
容赦ないの口ぶりに、バクはげんなりとした表情となる。
一応、自分もその中東支部長と肩を並べているアジア支部長だ。
自分がいない所で同じように言われているのかと思うと、少し泣けてくる。
※しっかり言っている
「そもそも有能なのが欲しいなら元帥に頼みゃあいいじゃないの」
「支部にそこまでの人事権がないことは知ってるだろうが」
「嫌、行きたくない」
「正当な理由でもあるのか?」
「理由ですって?そんなの決まってるわ」
ーーガンッ!ーー
指令書が置かれた執務机の上に、の長い足が荒々しく振り下ろされた。
そして、は自信たっぷりの表情で言い放つ。
「埃っぽいし、暑いし、料理は口に合わないし、アジアからは遠いし、汽車に長時間座りっぱなしでお尻が痛くなるからよ」
「・・・・・・・・・」
全て正当な理由からは程遠い。
「あー・・・、まずは足をどかせ。
兎も角、文句なら向こうに言うんだな。本部からの了承もらってあるって連絡あったぞ」
「はあぁ?何それ、完璧に越権じゃない。
バク、仮にも一応上司でしょうが。仕事もしないで何やってたのよ」
仕方なさそうにが足をどかせば、今度はふてぶてしく腕を組んで文句を並べる。
一応、仕事をしっかりとしている自覚があるバクは、の指摘に顔を顰めて返した。
「・・・こういう時だけ上司扱いか・・・」
「細かいこといちいち気にしてるともっと剥げるわよ?」
「俺様は剥げてない!
それにこれはすでに決定事項だ。
案内役のファインダーとはカイロで合流。必要な書類はすべてその時に渡される」
ーーバンッ!ーー
「だから、行くなんて言ってないでしょ!」
「本部で決まったと言ってるだろう!
俺様でもどうにもできん。文句は直接、ルイジにでも言え!」
机を叩いて怒声を上げたに負けじとバクも怒鳴り返し睨み合う。
傍では補佐役のウォンはおろおろと右往左往するが、二人の剣幕に口を挟めない。
しばらくして、がすっと目を細めた。
「・・・ふ〜ん、言っていいんだ?」
「まぁ、越権には変わらんからな」
そう言って、バクが再び腰を下ろせばはくるりと背を向けた。
「あっそ、なら文句言いに行って来ようっと」
目的が変わってる。
だが、向こうに行く事に変わりはないので、バクはまぁいいと思う事にした。
何しろ、こちらの目的は指名されたエクソシストを送り出す事。
だからそのエクソシストが目的外のことをやったとしても、それはエクソシストの責任で何かを仕出かしたとしても管轄地を任されている者の責任だ。
「」
「何よ」
足取り軽く歩いていくを呼び止めれば、多少の不機嫌さは直ったような顔をバクに向ける。
「・・・やり過ぎて支部を潰すなよ?」
不安から思わず零れたバクの言葉には目を瞬く。
次いで、その顔に浮かんだのは不気味な笑みだった。
「そりゃぁ、向こうの出方次第よね〜」
(「こりゃやりかねんな・・・」)
これは自分の責任も出てきそうな予感に、バクは深々と溜め息を吐いた。
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2016.5.10