Existence of the necessary〜second contact『必然の存在、再会』





































































































































「知ってる、バク?私はエクソシスト、AKUMAを壊しイノセンスを回収するのが仕事で、こんなくだらない社交場にバカみたいに着飾ってバカみたいに無駄 口叩いてバカみたいな男の相手してバカみたいなインテリに媚び売るのはお門違いなのよ」

ブレスなしに、 は言い切った。
それを受けたバクは大きな溜め息をつく。

「仕方ないだろう、貴族の屋敷でしかも舞踏会に限って頻繁に人が消える。
AKUMAによる仕業だったら君の仕事の管轄だ」
「だからって、この格好はあり得んし。団服でよかったでしょ?」

そう、 の言う通り、今日の装いは普段と一線を画する。
貴族達が好き好んで着飾るドレスをその身に纏っている。
ハーフアップされた暗紫、ボディラインを綺麗に演出する紅色のホルターネックドレス。
その容姿とスタイルによって、周囲の目を引いているのも、本人は自覚済みだが、放つ殺気が誰をも寄せ付けない。

「仮にもヴァチカン直属の機関なんだよ、オレ様達は。
その場に応じた装いをするべきだろうが」
「だったら、私を外で待機させときゃ事足りるでしょうが」
「ふざけるな。それじゃあ、誰がオレ様を警護するんだ。このウルトラスーパー貴重な頭脳を」
「沸いているの間違いよ」

隣に立つバクに、壁の花となっている がぴしゃりと言い返す。
が、今日は場所が場所なだけに、バクも僅かに強気だ。

「天才のパートナーなんだ、言動には気を遣ってくれたまえ」
「天才って言葉に失礼よ、死んで詫びなさい。そもそも、なんでバクと同伴?」
「ふっ・・・チャン家のコネだからな」
「はぁ〜、腐ってもボンボンって訳ね」
「・・・・・・」

だがやはり普段通り、バクは閉口する羽目になるのだった。




































































しばらく二人が時間を潰していれば、広場の一角に人集りができていた。
しかも女性ばかり。

「凄い人集りだな、誰が居るんだ?」
「優男でしょ」

バクに興味薄く答え、 はシャンパンを傾ける。
と、その人集りが割れ、こちらに近付いてくる人物があった。
何とはなしに視線を向けてやれば、それは嫌な位見覚えのある姿で、 は盛大に顔を顰めた。

「げっ・・・」
「あれは、クロス・マリアン元帥!?」

バクも驚き立ち上がる。
だが、 は一歩近付いて来る度に、不機嫌メーターが上昇していった。
そして、当人が二人の前に立った。
が嫌いな、こちらを見下げるような笑みを張り付けて。

「誰かと思えば、可愛げねぇアジア支部の跳ねっ返りじゃねぇか」
「あら、人間の風上にも置けない粗大ゴミが私の前にいやがるわ。
不愉快、帰る

すくっ、とソファから立ち上がり、外に出ようとする をバクの手が阻んだ。

「わあ! 、待て待て待て!!任務はどうするつもりだ!」
「生理痛が酷いの、帰る」
「突っ込めない冗談はやめてくれ!」

ヒステリーを起こす上司にさえ は取り合わない。
それを見ていたクロスは赤ワインのグラスを手にすると、

「なんだ、俺のモテ具合に嫉妬して帰って枕を濡らすのか?」

その言葉に、 の動きがピタリと止まる。
そして、振り返ったそこには、誰もを落とせる微笑があった。
纏われている空気は絶対零度だったが・・・

「・・・前言撤回。人間に仇為すAKUMAがいるから、跡形もなく滅却してやるわ」
「ほぅ、そりゃぁどんないい男だ?」

ワインを口にしながら吐かれたセリフに、 の米神に青筋が浮いた。
そして、その手が宙空に向けられると、

「弦月、発dーー」
「バ、バカ!止めろ!落ち着け !こんなところで騒ぎを起こすな!!」

バクから腕を押さえられる。
怒りが収まらない の射殺す視線に、バクは震え上がるが腕を離すことだけは凌いでいた。

「ふっ、こんな跳ねっ返りに構ってられねぇな。
んじゃ、俺をご婦人方が待ってるんで失礼する」
「パトロンへの餌付けには余念がないことで。ついでに仕事もしとけっての不良中年」

痛烈な皮肉を込められた の言葉だが、クロスは全く意に介さない。
そればかりか、 の神経を逆撫でするように、あの余裕綽々の笑みを浮かべると、

、寂しかったら一緒に寝てやるぞ?」
「この世が破滅したってあり得ないわ」
「相変わらず、素直じゃねぇ奴だ」
「くたばれ、エセ聖職者」

この場に人の目がある事を、 はこの時以上に恨めしく思ったことはなかった。




































































少しは頭を冷やせ、とバクに言われ はテラスに出ていた。
あんな奴と同じ空間にいるのも癪だったので、こちらとしては好都合だったが。

(「相っ変わらず、人をおちょくって・・・ホント、あいつ嫌い」)

欄干に手をつけば、外の景色が一望できる。
空に浮かぶは繊月。
月光がテラスから見下ろせる庭園を青白く演出していた。
その時、

「どうかされましたか?美しいお嬢さん」

声をかけられた。
誰だよ、人が一人になりたいってのに。
と、言いかけたが、揉め事でバクの煩い小言を聞きたくなかった は、さっと猫を被る。

「・・・いえ、気分がすぐーー!」
「おや、貴女は・・・」

目の前にあったのは、黒い波打つ髪、左目の下にある黒子。
見覚えがあった。

(「うわっ、いつぞやのキザな貴族」)

めんどくさい相手に会ってしまった予感。
心情を他所に、表情はかろうじて笑顔を取り繕った。

「あ、あら、偶然ですわねミック公」
「覚えていただいたとは喜ばしい。ジェシカ嬢」
(「うげ、確かそんな適当な名前を言ったっけ・・・」)

別にバレても構わないが、説明が面倒だ。

「今日は以前よりも増してお美しい、どうしてこちらに?」
「ええ。友人の付き添いで」

もし、こんな時にバクが来たら・・・
面倒この上ない状況になるのは目に見えている。

「せっかくなら一曲お相手願おうかと思っていたんですが・・・」
「ええ、私もざーー」
「お、いたいた。おーい、レイーー」
「いえ!折角ですので一曲お願いします」

すぐに言い直した に、ティキはキョトンとした表情で訊ねた。

「おや、気分がすぐれないのでは?」
「ミック公とお話しして治りましたわ。お相手願えますか?」
「喜んで」

ティキに手を引かれながら、楽しみですわぁ、と は口で言いながらも

(「バクの奴、後で潰す」)

内では怒り心頭であった。




































































あまり好きではないダンスを終え、 とティキは互いに礼を返した。

「楽しい時間をありがとうございました」
「いえ、こちらこそ」

にっこりと、笑顔で応じるティキに も同じく笑みを浮かべていたが、

(「仕事の邪魔しやがって、ったく。
全く探れなかったじゃない・・・」)

普段ならそれなりの制裁を加えているところだ。
だが、今日はつくづく厄日だ。
こんなひらひらした格好では、まともに動けやしないし、何より人の目がある。

「この辺りは最近、物騒だといいますし、連れと早めにお帰りになられた方がいいですよ?」
「ご親切にどうも、それでは」

ドレスの裾を持って、僅かに膝を折った は、そそくさとその場を後にする。
そしてバクの姿を見つけると、その腕を掴み舞踏会場を後にした。




































































「へぇ・・・あんな格好すりゃあそれなりだな」

闇の入口のような物陰から、男の声が響く。
ねっとりと絡み付き、聞いた者を離さないような笑いが含んでいる。
そして、男は闇から一歩踏み出した。

「さて・・・」

月光に照らされたのは、シルクハットとそこからのぞく波打つ髪。
歩く度に、男の背後にあった闇が蠢いた。

「ショータイムというこうか、AKUMA共」

パチン、と指を鳴らせば闇が膨れ上がる。
それを見ていた男の口元が夜空に浮かぶ月の様に歪んだ。




































































、誰だったんだ?」
「この間、任務の途中で会ったキザな貴族。バクのせいで偽名がバレるところだったわよ」
「それはオレ様のせいなのか?」

不当な言いがかりに、バクは口を尖らせる。
しかし、 の方は応じるのも面倒とばかりに、自分から話を打ち切った。

「まぁ、いいわ。バク、他の面子と一緒に馬車で待機してて。
これからこの屋敷、探ってくるから」
「分かった」




































































首元の結び目に手をかければ、ドレスはあっという間に床に滑り落ちた。
は用意された団服に身を包み、髪を結った。
やはりこちらの方が肌に馴染む。
戦いに身を置いた時間の長さが為せる技ということだろうか?
人目を縫い、影から影へ移動する。
そして見つけた、不穏の存在。

「ご登場、ってかしら」

立ち止まった が尊大に言えば、闇のような物陰からぞろぞろとAKUMAが這い出てきた。

『見つけた、見つけた』
『人間だ、女の人間だ』
「雑魚が群れて・・・うざいったらないわね」

圧倒的に数で劣っているはずの の言葉に、AKUMA達は苛立ちを見せた。

『生意気な奴』
『殺せ、殺せ』
『コロセ、コロセ』
「殺す?面白いこと言うじゃない、たがだがLv.2の分際で」

そう言って、 は空中に手をかざした。

「弦月、発動」
『!!!』

の手に光が集まり出す。
そして、その手には光を纏った弓が握られていた。

「今、無っ性に腹立たしいのよねぇ」
『ま、まさか・・・』

広場から耳に届くのは、オーケストラによる調べ。

夜想曲ノクターンを聞きながら逝けるなんて、AKUMAにはもったいないシチュエーションじゃない」

そう言って窓を背にした
その手に光る弓と月光とが相まって、幻想的な光景だ。
まさに死をもたらす死神の如く。

『エクソシスト!?』

動揺するAKUMA達。
弦月を構えた は、とっても綺麗に笑った。

「神の慈悲があらんことを」




































































AKUMAを全滅させた は、ドレスに着替えるのも面倒と、そのまま団服で戻った。
そして、手短な報告を済ませ今は帰路についていた。

「あーあ・・・ったく。
なんで私がバクのお守りしなきゃなんなかったのかしら」

こきこき、と肩と首を回す は先ほどから文句が止まらない。
そのあまりな言い草に、ついにバクは反論を口にする。

・・・オレ様、一応上司なんだが・・・少しは敬意をだな・・・」
「そういうのって、払える敬意を持ってる人が言うセリフよ?バクちゃん?」
「バクちゃん言うな!」

恒例のからかいネタでバクを遊ぶが、 はまだ気分が晴れない。

「まったく、イノセンスはない。いたのはLv.2の群れ。とんだ空振りだわ」
「だがそれだけの数。いきなり湧くには不可解だな・・・」
「まぁ、やけに統率が取れてたのは気になる事だけど・・・」

そこまで言って、 ははた、と我に返った。
そしてとても冷めた視線を一応の上司に向けた。

「・・・それを考えるのが、あんたの仕事でしょうが、バクちゃん」
「だから、バクちゃん言うなぁー!!」

上限が浮かぶ空に、ヒステリーな声が木霊した。


















































































>余談
「そうそう、バク?」
「なんーーゴスッ!ーーぐはっ!!
「・・・レ、 ・・・おま、オレ様を、殺ーー」
「仕事の邪魔した責任よ」



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2013.9.28