主神を倒すことはできた。
思わぬ助けもあったが、当人の思惑が分からない以上、考えても仕方ない。
ひとまず、得られた結果には小さく息をついた。























































ーー約束と初めての言葉ーー


























































渾身の一撃は主神の体幹の半分を割いた。
このまま放置しても自然と消えるほどの致命傷だ。
だが、の目的は世界から神を無くすこと。
その根源たる力を残さないためには、その力で滅せなければならない。
主神を見下ろすは、ぐっと拳を握る。
と、

『・・・血同じくする者を・・・・・・手にかけるとは、な・・・』

虫の息の主神が途切れ途切れに呟く。
それを受けたは、きっぱりと言葉を返した。

「この世界が愛おしくなったの、壊すなら誰であっても許さない」
『・・・ふっ、愚かな・・・』

嘲る主神。
はもう終わりだと、自身の手を主神に伸ばす。
と、

ーーガラガラッーー
「っ〜・・・痛ってぇな、ったくよ・・・」

その声に、の動きがピタリと止まった。
肩越しに振り返れば、意識を取り戻したティキが起き上がりこちらに向かってくるところだった。

(「どうしてこいつは、いつも間の悪い時に・・・」)

はキュッと唇を噛みしめ、内心で毒づいた。
そんな心情を知らないティキはの後ろから倒れた主神を見下ろす。

「やったのか?」
「最後まで読めなかった奴のおかげでね」
「は?」
「気にしないで、ただの独り言」

片手を振ってティキの疑問をはぐらかす。
自分に視線を向けることなく話し続けるのはいつものの姿。
だが、問うた言葉に素直に答えが返されたことに、ティキは不審に思いながらも聞いた。

「で、どうすんだ?」
「決まってる。ハートの力で消すだけよ」

そう言ったは、身体に引き寄せていた拳を再び固く握る。
そのまま身動きを止めたことで、ティキはその背中に呼びかけた。

?」
「・・・神は神の力でしか倒せない。分かってた、その上で貴方達を利用したの。
酷いでしょ?流石はこんな神の血を持つだけあるわ」

自身の腕を蔑むように見ながらは呟く。
今まで見たことがないの様子にティキは返答に迷い、押し黙った。

「そうそう私が消えたら、貴方達ノアの力も消えるから覚えておいてね」

しばらくしてからだけど〜と、話を変えるように、は軽快に話し始める。
まるで沈黙から逃げるように。

「だからどっちの生活にするか、ちゃんと選んどくのね」

普段通りに見えるように。
いつも通りだと、後ろの男に思われるように。
そして、向こうの問いを許さないように。
だが、

「お前はどうなるんだよ?」
「・・・・・・」

ティキの問いかけに、は言葉を失う。
沈黙しか返せる答えを持たない。
おかしい、と確信したティキはに近づこうとした。
が、

「レーー」
「ねぇ、ティキ・・・」

それを遮るように、は使徒の名前ではなく、出会った時の名前を呼んだ。
ウリエルの記憶を受け入れる直前まで呼んでいた男の名を。

「神に支配されない本当の自由の世界になったらーー」

やめろ。
私は、何を言おうとしているんだ。
この結末は自分で決めた。
この道を選択してから覚悟し、これでいいんだと決意したのに。

「・・・私をーー」











































































なんて無意味なことを・・・











































































「私を・・・・・・探してくれない?」











































































馬鹿だ、そもそも戻れる保証なんてどこにもない・・・
きっと昔の記憶に当てられてるだけなんだ。
7000年前の記憶がないこの男に、こんなことを言っても仕方が無いに。

「どういうことだよ?お前のその言い方、まるで・・・」

ほら、やっぱり気付いてなかった。
だったら黙っていればよかったんだ。
今からでも遅くない。
冗談だと、また簡単に騙されて残念な奴だと言えばいい。
そうすれば、もう・・・

「・・・・・・っ!」

でも、湧き上がる感情は止まらない。
止めることなんて、できなかった。

「戻るから・・・きっと・・・きっと、戻ってみせるから!だから、
だかーー!」

それ以上の言葉を阻むように、ティキはの腕を引いた。
満身創痍の身体は簡単に男の腕の中に収まった。

「待ってる」

引き寄せられた腕の中で耳にした言葉には目を瞠った。

「どこにいようと探してやるし、いつまでも待っててやる。
みたいなワガママな奴、相手できんの俺くらいだしな」

過去の記憶などないはずなのに。
なのにどうして、そんなことが言えるんだ?
どうして、この男は初めからずっと私の名前を呼んでくれるんだ?
名残惜しそうに離れた二人の視線が絡み合う。
そしてに手を伸ばしたティキは頬に触れる。
下へ下へと移ったその手は、いつかのように顎を捕らえた。
だが、ティキは親指の腹でその唇を撫でるに留める。

「行ってこいよ、

7000年前とは違う言葉。
胸が苦しい。
切ないからではない。
今まで感じたことがないほど、心満たされた思いだからだ。
溢れてくる喜びに、視界が揺れる。
ティキの言葉を噛みしめるようにしていたは、一つ息を吐くと頷いた。

「行ってくる。だから、最後まで見届けて」
「ああ」












































































の手は硬くティキと握り組まれる。
そして、は倒れた主神に手をかざした。
自身の内に残る、最後のハートの力を用いて主神を消すと同時に、の身体は透け始める。
あっという間に握られている感触は消え失せていく。
自分の姿が消える直前、は後ろに立つティキの胸へと飛び込んだ。
昔とは違う、ただ受け入れるのを待つのではなく自らの意思で。
しかし愛しい者と交わされるはずの口づけは、まるで風が撫でたようなそれでしかなかった。
と、























































ーーありがとう、ティキ・・・ーー























































その呟きにティキは目を見開く。
目の前では光の粒へと消えた。
暫くしてティキは盛大に吹き出し、額を押さえた。

「はっ!初めて聞いた、そんなセリフ・・・」

そう言えば、『悪かったわね』と聞こえてきそうだったが、やはりそんな声は聞こえない。
辺りは寂しいくらいにとても静かだ。
と、ティキは足元に落ちる羽根に気付き、拾い上げると光が昇った空を見上げた。

(「待ってるからな、」)



































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2014.5.4