ーーただいま、おかえりーー
5年後。
パリ市街のとあるカフェテラスで一人の男が新聞を手にしていた。
世界からAKUMAが消えた。もちろん、その製造者も、イノセンスも。
超人の力もほとんど消えただの人間になったノア達。
人知れず姿を消した者もあれば、ひっそりと人目のないところで暮らしているものもいるらしい。
だが、もう昔のような能力がない今となっては、どこにいるかなど知る術はない。
黒の教団も解体されたらしい。
が懸念してた新たな敵の製造は黒の教団に所属していたエクソシストや科学班によって食い止められたらしい話を聞いた。
その筆頭となっていたのは、かつての強硬策を推進してきたマルコム・C・ルベリエだそうだ。
「ふぅ〜・・・」
テーブルに新聞を置き、深々とため息をつあたティキは椅子に身体を預けた。
世界の情勢が変わろうが、自分には知ったこっちゃない。
その情勢に関わってて、というか当事者の一人だったんだが、今の状況では関係がないのだ。
何故なら・・・
「ったくよぉ〜、どんな姿形なのか言っとけってんだ・・・」
目下、捜し人を捜索中だからだ。
そして相手がいないことで、堂々と悪態を言葉にする。
が、
(「まぁ、聞かなかった俺も悪いがよ・・・」)
一概に相手だけのせいでもないことに、自分のアホさ加減にうんざりする。
エクソシストだった少年達は元気にやっているらしい。
義理もないのに、わざわざ近況報告やらで屋敷に押しかけて来るので迷惑している。
特に少年、アレン・ウォーカーのお節介ぶりには呆れた。
捜す手伝いをさせて欲しいとしつこく、見つかっては巻いているという状況だった。
再びティキはため息をついた。
「どこいんだよ・・・あのバカ」
以前なら、こんなこと口にできなかった。
だが、もう5年だ。
ずっと世界中を捜しているというのに、こうも痕跡のカケラすら見つけられないと文句の一つも言いたくなる。
(「・・・」)
言葉にせず呟いたその時、風が吹いた。
視界を掠めた暗紫に、ハッとしたティキは立ち上がり、周囲を見回す。
そして、
「陰口は見えない所で叩くもんでしょ?」
樹の下にサングラスをかけている女がいた。
風に揺れる長い暗紫、熟れた唇、白いシャツに黒いパンツのラフな装いは屋敷でとても見慣れたもので。
どれだけドレスを勧めても、鼻であしらわれるだけだった。
「・・・・・・・・・なのか?」
目の前の光景が信じられなく聞き返せば女はサングラスを外した。
「何それ?出迎えの言葉はない訳?」
天上天下高慢不遜なその態度。憎たらしい言い回し、忘れもしなかった。
ティキは手摺を飛び越し、その姿に手を伸ばすと腕の中に閉じ込めた。
しっかりとここに存在している感触。
それは5年前とは違い、いとも簡単に収まった。
あの頃だったら、確実に逃げられているか、殺傷能力のある鉄槌を何撃もくらっている。
しばらくされるがままだったの方から口を開いた
「遅く、なったね」
「・・・あぁ、捜したんだぞ」
「その様子じゃ、浮浪児にならなかったみたいね。ちょっと安心した」
からからと何でもなく言うに、ティキは抱きしめる力を強めた。
「ちょっと、ティーー」
「捜したんだ、方々・・・」
言葉が揺れる男の声を聞きながらは頷いた。
「うん」
「世界中だぞ?」
「うん、知ってる」
「どれだけ捜しても、手がかりすらお前は・・・」
それっきりティキは黙ってしまう。
するとは手を伸ばすとティキの頬に触れた。
「でも、信じて待っててくれた」
の言葉にティキは目を瞠った。
飛び込んでくるのは笑顔を浮かべる愛おしい者の姿。
そういえば、初めてかもしれない。
こんな裏のない、自分だけに向けられる笑顔を見るのは。
「ありがとう、ティキ」
あの時のような、悲しみではなく喜びに満ちた声。
ティキの身体から力が抜けていく。
そして、
「おかえり、」
二人の距離はなくなり、パリの空の下で、長い長い口付けが交わされた。
あとがき
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2014.5.4