「そのむかつく口、二度と叩けないようにしてやるわ」
『面白い・・・やってみよ!』























































ーー放たれた一矢ーー
























































大剣を現し、手にした主神は玉座からに向け歩き出す。
7000年前と光景が重なる。
あの時と同じような追いつめられている自覚など微塵もない、優雅とも言える足取り。

「いいわね、必ずツーマンセル。単独は自殺と同義だと思いなさい」
『・・・無駄なことを』

ノア達に言うの姿を貶す主神の言葉に、癇に障ったのか二人同時に飛び出した。

「無駄かどうか・・・」
「試してみやがれ!」

怒声とともに、トライドとマーシーマが主神に襲いかかる。
だが、二人の攻撃軌道を見たは焦った声を上げた。

「っ!バカ!正面はーー」

しかし、の言葉はそこで途切れる。
まるでつまらないものでも見るようにしていた主神が腕を振れば、二人は塵へと消えた。
が、それだけで終わらず主神はらに向けて手を向ける。
その意図を知ったはその場を飛び退り、他のノアもそれに倣った。
が、回避してもなお主神の攻撃はマイトラを塵に変え、余波を受けたワイズリーは辛くも回避するが立てないほどの傷を負わされる。
あっという間に数を減らされ、次々と消えていくノア達。
その度に自身の力を分け与えていたは、喪失感に突き上げられる。
自力で立つことすらままならず、剣を床に付き対峙しているを睥睨した主神は蔑むように言った。

『愚かよのぉ。縁を絶たぬから足枷ばかりが増え、貴様はいつまでも我輩に勝てぬのだ』
「・・・その、足枷を絶ったから・・・あんたは世界を壊すしか、能がないのよ!

その場から斬撃を放つ
だが、身を引いただけで簡単に避けられた。
の後回しにしても問題ないと判断した主神は、に背を向け歩き出す。
その先には手負いのワイズリーに駆け寄っている、フィードラとマイトラの姿がある。
これ以上の手出しをさせまいと、は3人を庇うように主神の正面へと躍り出た。
主神は剣を振り上げ、対するも鋭い視線のまま剣を握る。
と、

「舐めるな!」

主神の背後を取ったティキが、能力を纏った蹴りを叩き込む。
が、

『児戯よな』
ーードガーーーン!ーー
「ジョイド!」

軽々と弾き飛ばされるティキは壁に叩きつけられる。
だが、主神の攻撃はそれだけで終わらない。
間を置かず繰り出される連続の斬撃がを襲った。

ーーギィーーンッ!ーー
「っ!」

どうにか防いだだったが、相殺はできず軌道を逸らすしかできない。
そして再び襲われる喪失感に片膝を付く。
主神から大きく引き離された挙句、助けようとした3人すら助けられなかった。
残っているのはティキ、アレン、デビットとジャスデロしかいない。
壁に埋もれたティキは、額から流れ落ちる血を手の甲で拭う。
見せつけられた力の差に、乾いた笑みが浮かんだ。

「ぐっ・・・ちぃ、アポクリフォスん時がお遊びに思えんぜ」
『欠片と比べるとは、不敬だぞノア』

服すら汚していない主神の言葉に、ティキは上体を起こす。
そして・・・

「そうかい、そりゃぁーー」

地を蹴り、能力を纏った拳を主神に振り下ろした。

「悪かったな!」
ーードゴオォーーーン!ーー

爆音が響き渡る。
それをは遠目に見つめながら、剣に変わった弦月を握り締めた。

(「力の半分は奪ってるはずなのに・・・」)

なのに、この差。
出し惜しみしている訳ではないのに、あっという間に数を削がれた。
これ以上数を減らされれば、もう勝機がない。
なら、残された道は一つしかなかった。

『3人とも聞いて』

呼吸を整え気持ちを落ち着かせたは、すっと意識を集中させ離れた3人の心に言葉を送る。

『一瞬でいい、主神の動きを足止めして』
『どうするつもりですか?』
『ハート全ての一太刀を叩き込んでやるわ』
『そんなんで勝てんのか?』
『私の力も上乗せするわよ』

間を置かずに返す。そして、3人の返答を待たずに続けた。

『退いてもいいわよ、特攻しろって言ってるようなもんだしね』
『バーカ、こんなおもしれぇ戦い、誰が止めっかよ』
『はい。戦争の元凶を止めるためにも』
『ふん、あんな奴オレらの敵じゃねぇっつーの』
『・・・そう』

家族を失ってもなお、戦い続ける選択を選んだ3人には謝意を示すように一度目を閉じた。
そして再びそれが開かれた時、そこには決意の固まった鮮紅の瞳があった。

「行くわよ!」










































































ーーぱたーー

































































ーーぱたたーー



































































床に、鮮やかな模様が広がる。
その場に両膝をついたは、脇腹から止めどなく流れ出る血を押さえていた。

『手勢が消えたな。分を過ぎたと理解したか?』
「・・・ちぃ」

デビットもジャスデロもアレンも、そしてティキも・・・
壁に埋もれ、瓦礫の下になり、床に倒れ、動きを見せなかった。
・・・辛うじては生きているのだけは分かったが。
一瞬の隙を作る事もできなかった。
捨て身で臨んだというのに、こんな結果になろうとは・・・
やはり、創世より世界を統べてきた者の力は強大だった。
昔よりも戦えているという自覚はあっても、打ち倒すまでにはいかない。

(「くそっ・・・」)

は、ぎりっと唇を噛む。
まだその手には剣となった弦月が握られているが、この状態での勝算など無いに等しい。

『さらばだ、ウリエル。冥府へ下れ』

振り上げた剣をは悔しげに見上げる。

(「ここまでか・・・!」)
『!?』

と、突如、主神の動きがぴたりと動きが止まったのをは見逃さなかった。
自分が取れる選択肢など限られている。は迷わず踏み込んだ

「はあああああぁぁぁっ!」
ーーザンッ!ーー

確かな手応え。
全身全霊を込めた一撃に、剣の形すら保てなくなった弦月が光の粒へと消えた。

『馬鹿、な・・・』
ーードサッーー

驚愕した主神の声。
倒れた音を聞いたも、そのまま崩れ落ち辛うじて床に両手をついて倒れることだけは免れる。

「はぁ、はぁ・・・はぁ・・・」

だが、息も絶え絶えだ。
そして、ようやく振り返ったが見たのは、主神の背中に刺さっていた見覚えのある剣だった。

「!この、剣・・・」

予想だにしなかったモノに、は素早く気配を探る。
すると、背後にあると突き止めたその者の気配に勢い良く振り返った。

「ガブリエル!どういうつもり!?」

主神の玉座の奥。細い通路にそいつはいた。
前髪の片方をピンで留め、無造作に伸びた焦げ茶の髪を後ろに流し、金輪を髪留め代わりに使っているその男。
壁に背を預け腕を組み、の鋭い視線を受けても動じる事なく肩を竦めた。

『あ?手元が狂ったな〜、お前に当てるつもりだったのによ』

軽口を叩くガブリエルに、はふらつきながらもどうにかして立ち上がった。

「ふざけないで。ミカエルと同等以上の腕を持つあんたが、的を違える訳がない」
『お?それ褒めてる?』
「答えろ!」

激しい詰問に、面倒そうに頬を掻くガブリエルは、しばらくしてから両手を上げた。

『べっつにぃ〜、単なる気まぐれだろ?』
「・・・私が何をしようとしてるか、分かってるはずよ」

一転し、語気を収めたの静かな言葉。
それをガブリエルはしげしげと見つめる。
同じ紅の視線が交錯する中、ようやく紡がれたのは・・・

『・・・飽きた』
「は?」
『創世からけっこ〜マジメに働いてたじゃん、俺?
でもこうも変化がない仕事も、こ〜、なんつ〜の?やる気が起きねぇなぁって』

これ以上、使いっパはしんどくてよ、と話を締めくくるガブリエル。
相変わらず、読めない性格には訝しんだ。

「だからって・・・」
『だから、気まぐれだって言ってんだろ?仕事もなく休めんなら、大歓迎♪ってな』

さも満足気に言うガブリエルだが、は不審丸出しの視線で問う。

「・・・何が目的?」
『大概しつこいな、お前も。そんなに知りたいか?」
「・・・・・・」

無言のにガブリエルは笑った。

「実は7000年振りに会えた想い人の願いを叶えてやろうと思ってな』
「・・・・・・こういう時の冗談って嫌いなんだけど」

間を置かず切り返したに、くっくっくっ、と喉の奥で男は笑った。

「そーかい。そりゃぁ、失礼したな。
んじゃ、そっちの用事を続けてくれや」

じゃね〜、と背を向けガブリエルは歩き出してしまった。
は後を追おうにも、負った怪我では簡単に逃げられてしまうのが予想できた。
何より、今の状態で戦えば間違いなく、返り討ちが関の山。
どんどん離れて行くその姿に、は複雑な胸中のまま声を絞り出した。

「礼は・・・言わないわよ」
『は?んなのハナから期待してねぇ〜よ』

片手を振り去っていく背中をは黙って見送る。
そして、それに目礼だけを返すのだった。





































Next
Back

2014.5.4