ーーコツ、コツ、コツ、コツ・・・ーー

長い大回廊に響く靴音。
そしてその歩みが止まる。

「長い戦いもこれで本当に最後よ」
ーーパチンッーー

が指を打ち鳴らせば、背後の床からゆっくりと扉が姿を現す。
太古の意匠が施された、大きな扉。
それが開かれれば、7000年前に共闘した戦士の一族が歩み出してくる。
はすっ、と目を閉じ瞬く間にその姿を原始の姿に変えた。

「今日でケリをつけるわ・・・」

そして決意と共に、主神の間へと足を踏み出した。























































ーー辿り着いた神の座ーー























































玉座には、一人の男が座っていた。
人間に置き換えてみれば、壮年に差し掛かるほど。
薄茶の髪に口髭を生やし、伝承にある神々が纏う衣に身を包む。
だが、その男は創世よりこの世界に存在している、地上では『神』と呼ばれる存在。

「はぁい、主神。7000年振りね。決着を着けに来てやったわよ」

の軽口に、瞑想していたような男は目を開いた。
向けられるは、血のような鮮紅の瞳。

『性懲りもなくまた吾輩に楯突くか、ウリエル?』
「感動の対面して早々だけど、消えてもらうわ」

にやりと笑った好戦的なに、主神は僅かに視線を眇めた。

『神に再び弓を引くとは、痴れ者が』
「救いがない世界にしか導けないくせに、過ぎた口を聞くじゃないの」
『救いはあるとも、吾輩こそが救いそのものなのだからな』
「あっそ。じゃあ聞かせてもらいましょうか」

さきほどまでの軽口を叩いていたものから一転、真剣な面持ちとなったは問うた。

「どうしてレメクが世界をAKUMAで満たそうとしたとき、神の鉄槌を下さなかったの?
まさか知らなかったなんて言わせないわよ」
『・・・無論、分かっておったよ。吾輩は成り行きを見守っていたのだ』

主神の言葉に、は訝り眉間に皺を寄せた。

「見守る?何の為に?」
『世界を次なる繁栄へと導く為だ。その篩だったのだよ』
「まさか、それが神の試練だと?バカバカしい」

期待して損したとばかりには言う。

「苦しみの果てに何か得られるものがあるなら分かる。でも、それはなかったはず。
悲しみが悲しみを生み出す負の連鎖だけ。それが試練というのかしらね」
『言ったはずだ、繁栄が待っていると』
「そんなの犠牲の上に成り立つ虚像でしなかいわ。
繁栄ですって?あんた、その言葉の意味知ってんの?」

まるで叩き付けるようなの詰問に、主神は冷徹に返す。

『神に真偽を問うか、身の程を弁えよ』
「問いたくもなるわ。あんたの性格を考えりゃね」

うんざりしたようには言う。
そして、暴れ出す感情を押し込めるように、ぐっと拳を握った。

「もうたくさんよ・・・
古の業を背負わせ続けるのも、今生きている者が苦しみ悲しむのも。
世界はもう、導く者がなくても歩いて行けるーー」

きっぱりと断言したは、決意の湛えた視線で主神に宣言した。























































「ーー神は人の心の拠り所であればいい。存在する必要はないわ」
























































玉座に座ったままの言葉を聞いた主神は今まではと違う、真剣な視線でに問う。

『・・・その意味、分かって口にしておるのか?』
「はぁ?7000年の間に耄碌した?寝言ほざいてんじゃないわよ」

主神の問いには不敵に笑い返す。
そして、

「当たり前でしょ」

断言した決意を耳にした主神は、額に手を当てると深々と溜め息をついた。

『朽ちるに任せ放っておけば、再び過ちを犯すとは・・・』
「何それ、7000年前は慈悲でもかけてたつもり?ツメが甘かっただけでしょ」

腕を組み容赦なくピシャリと言い返す
それに一瞥を投げた主神は玉座から立ち上がった。

『笑止、のこのこ現れおって戯言をほざきに来おったとはな。
吾輩が繁栄へと導いてやっているのだ。駒は黙って享受しておれば良い』

主神の宣言にはアレンに視線を向けた。
『もう文句はないな?』とばかりなのそれに、アレンは悲しみから目を伏せる。
は視線を主神に戻した。

「ねぇ知ってた?私、あんたのそういうところーー」

腕を解き、手を横にかざしたの手にスラリとした細身の剣が現れる。
そして、その切っ先をピタッと主神に向けた。

「昔から大っ嫌いだったのよね」

の告白に主神は蔑むように笑った。

『そうか、ではーー』

主神も同じように手をかざせば現れた杖を手にし打ち鳴らす。

ーーカンッ!ーー
『二度とまみえぬ冥界へと、駒諸共、その魂堕としてやろう』

主神の言葉に怯むことなく、ふん、とは鼻を鳴らした。

「これ以上あんたの支配者ごっこに付き合わされるのはごめんよ。
そんなに世界を好きにしたいなら、あんた一人で冥界でやってるといいわ」
『ほぉ。吾輩を倒すか・・・面白い事を言う』
「なら、もっと面白くさせてやりましょうか」

そう言っては剣を持たない方の手を主神に向けた。
瞬間、

ーードッ!ーー
『!』

主神が手にしていた杖が木っ端微塵になり、それは光の粒へと消えた。

「どう?冷や汗もんでしょ?」
『・・・貴様、吾輩のハートを手にしたか・・・』
「自分の物なら名前でも書いておくのね」

の馬鹿にする言葉に主神はこれまで表さなかった、はっきりとした苛立ちをみせた。

『ラファエルめ・・・使えぬ下僕だ』
「ホント、あんたは自分以外は駒にしか思ってないわね」

吐き捨てるように言ったは手を下ろすと、剣を構え直した。

「そのむかつく口、二度と叩けないようにしてやるわ」


































Next
Back

2014.5.4