時は満ちた。戦力も整え、舞台の幕はついに上がった。

「さて、行くわよ」




































ーー神への道を阻む者ーー






































集合場所に集まったエクソシストの面々を出迎えたは、能力で作り出した扉から一行を天界へと導く。
そこは、まるでタイムスリップをしたような神殿が並ぶ、幻想的な光景。
だが辺りには重装備に身を包む兵士達の姿が目立つ、物々しい雰囲気となっていた。

「どうやって攻め込むつもりだ?」

小さな森から辺りを伺うの背中に、クロスの声がかかる。
それに視線を返す事なくは答えた。

「正面入口にはおそらく天界軍が控えてる。
バカ正直に正面突破を狙うつもりはないわ」
「かといって出し抜いた挙句、背後を取られるなんざ笑えねぇぞ?」

クロスの言葉も一理あるはふむ、と考え込んだ。
そして、顔を上げると背後にいる3人の元帥を見た。

「フロア元帥、クラウド元帥、クロス元帥」
「は?」

初めて呼ばれた名前にクロスは間抜けた声を上げる。
が、は続けた。

「御三方に軍勢をお任せしてよろしいですか?」

今までの高慢な態度からかけ離れたの口調も去ることながら、言われた内容。
Lv.4と同等の相手1000名。
これを3人で相手しろと言っているのだ。
端から聞けば自殺を強要されているのと同じ。
だが、3人の答えは是だった。

「構わないよ」
「我々が適任だろうしな」
「・・・しゃあねぇな」

実力を持ってすれば当然だとばかりな答えに、は頼もしい限りだとばかりに微笑を浮かべる。
そして、

「ありがとうございます」
「「「!?」」」

返された軽い会釈に、3人の元帥は衝撃を受けたような顔をする。
はそれを気にすることなく歩き出すと、他のメンバーに声をかけた。

「残りは私についてきて。
別のルートから天界軍の背後に回るわ」



































天界軍の背後に回り込んだは、主神がいる場所に通じる側門の前にいた。
気配を探り、見回りの兵士の姿がないことを確認すると、その場を一気に駆け抜けようとした。
その時、

『おいおい、断りもなしに通るのはいただけないぜ〜』
「!」

かけられた声に、は動きを止めた。
視線を巡らせれば木の上に何者かがいた。
組んだ自身の腕を枕にし、呑気にも寝ている男。

「・・・ガブリエル」
『よぅ。久しいな、ウリエル』

横になりながら気安く片手を挙げ挨拶をする、浅黒い肌のかつての同胞。
前髪の片方をピンで留め、無造作に伸びた焦げ茶の髪を後ろに流し、御使いの証である金輪を髪留め代わりに使うようなこの男をは好んでいない。
それは腹の底が読めないことと、いつもその口から出るのは虚言ばかりだからだ。
かつてのウリエルと同じ鮮紅の瞳で二カッと笑うガブリエルにが返すのは座った視線。

「私がここに来た目的は分かってるはずよ。
通してもらうわ」
『勘弁しろよ。7000年振りの再会の挨拶がそれか?』
「あんたのふざけた与太話に付き合って暇はないって言ってんのよ」

警戒し身構えるは語気鋭く言う。
その姿に、肩を竦めたガブリエルは小さく呟いた。

『・・・どれだけ時間が経とうが、変わんねぇな、お前は』

ガブリエルの言葉が届かなかったは、最初と同じく続ける。

「譲る気がないなら、力尽くでどいてもらう」
『主神からは通すなって言われてんだ。悪いがお前でも通せねぇ』
「上等じゃねぇか」

と、二人の会話に割り入るように男がの前に出た。

「このまま走ってるよか、こいつをぶっ潰す方が楽しそうだ」
「ソカロ元帥!」

非難するようなの声。
だが、ソカロが退くわけもなく肩越しに残忍なにやりとした笑みを向ける。

「おい小娘。こいつは俺がもらうぜ。文句は言わせねぇ!」
「・・・・・・」

ソカロの言葉には逡巡する。
が、考えている時間はない、と判断したは一つ溜め息をついた。

「・・・分かりました。
ブックマンとJr.もフォローお願いします」
「承知した」
「任せとけさ!」

先に進む選択をしたに、それまで寝ていたガブリエルが不服そうな声を上げた。

『なんだよ、3対1とは卑怯じゃねぇの?』
「神の御使い相手よ?両手両足を落とすぐらいしてもいいんじゃないの?」
『・・・会わない間に、おっかねぇこと言うようになったなぁ〜』

そう言ったガブリエルは、よいせっと起き上がった。
そして、凝り固まった身体をほぐすように肩を回す。

『あ〜あ、ったく。面倒な時に面倒事ってのは増えるもんだ。
これじゃあ、何人かは通しちまっても仕方ねぇか』
「?」
「・・・・」

ガブリエルの口走った言葉にとブックマンは不審気な表情を浮かべた。
だがこのまま立ち止まってはそれこそ無意味。

「・・・3人とも、この場は任せます」

は残りのエクソシストを連れ先行する。
それを邪魔することなく黙ってガブリエルは見送ると、心底、面倒そうな声を上げた。

『しっかし、なんでムサい奴が俺の相手なんだ・・・とんだ貧乏くじだぜ。
折角なら、見目麗しい方にお相手願いたいもんだ』
「ガブリエルとやら」
『あん?』

自分の名を呼んだ声に、ガブリエルは高い位置から高慢不遜な態度のまま応じる。
それだけ見れば、と通じる雰囲気がある。
まるでそれは、血の分けた者同士であるかのように。

『なんだ、老人』
「なぜ他の輩を通した?」
『舐めてかかれる相手じゃないだろ?
お前らが手にしているモノは俺ら天使も害することができんだからな』
「あやつを止めるぐらい、主には造作もなかったのではないか?」

ブックマンの『あやつ』が誰を指すか?
それが分かったガブリエルは、企み顔でにやりと笑った。

『おいおい、過ぎた口を叩くなよ。
俺はてめぇらなんぞの理解の範疇外の存在だ。
分かった風な御託並べてんな。黄泉に持ってくセリフでも考えてな』
「はっ!地獄に落ちるのはそっちの方だぜぇ!
ズタズタにしてやるよ」

にぃぃ、と笑うソカロは自身のイノセンスを舌なめずりする。
やる気のなさそうにしていたガブリエルだったが、よっ、とかけ声を上げて宙返りすると地面に降り立った。

ーースタッーー
『おぅおぅ、御使いに対しての冒涜だぞ、人間?』
「神をぶち殺そうってんだ、それがどうした」
『ま、そりゃそうだ』

肩を竦めたガブリエルは、空中に両手をかざす。
すると、その両手にすらりとした双剣が握られた。

『来いよ。いっちょ揉んでやんぜ』




































側門を抜け、残るは回廊を抜けるだけ。
すでにガブリエルにこちらの存在を知られているということは、隠れていても意味がない。
エクソシストを率い一気に走ってきただったが、回廊の前でその足を止めることとなった。

(「やっぱり主神へ続く大回廊の門を守護する番人はこいつか・・・」)

主神の間へ通じるただ一つの門。
そこには7000年前と変わらず、生真面目な顔の男がの前に立ち塞がった。

「ミカエル」
『・・・ウリエル様』

を見たミカエルは、見るに堪えないとばかりな失望した表情を浮かべた。

『なんと惰弱な姿に・・・』
「本人を目の前に悪口とは、いい度胸ね」

ピシャリと文句を叩きつけたは、尊大に言った。

「時間もないの。そこ、どいてもらうわよ」
『言ったはずです、再びまみえる事があれば今度こそ屠ると・・・』

そう言って、ミカエルは腰の剣を抜きに向けた。
それを見たミランダは身体を固くし、隣にいるマリも身構える。

『あの時の慈悲はありませぬ、お覚悟を』
「あっそ。だけど・・・」

しかし、二人の前に立つは丸腰のままミカエルを見据えにやりと笑った。

「7000年前と違うのはあんただけじゃないのよ?」
『!』
ーーギィーーーン!!ーー

咄嗟にミカエルが剣を振り上げれば、不意を突いた斬撃を受け止めた。

「こんな成りで、本当に強いのかよ」

黒髪を翻した神田の呟きに、ミカエルは視線を険しく問うた。

『何奴か?』
「剣の腕が立つって教えたら、どーしても戦りあいたいって聞かなくてね」

ミカエルの問いに答えただが、すぐに不機嫌な声が返ってきた。

「誰が戦りあいたいなんて言った」
「戦わせてくださいませ、だっけ?」
「・・・言ってねぇ」
「別にいいじゃんよ、戦えるんだから」
「ちっ!」

盛大な舌打ちをした神田は、ミカエルを弾き飛ばした。
そのタイミングを見逃さずは動き出す。

「じゃ、ミカエルの相手は任せたよ、ユウ」
「邪魔だ、さっさと行け」

はいはい、とはその背中に答えると、この場に残る2人に視線を移した。

「マリ、ミランダ。ユウのバックアップ、頼んだわよ」
「任せろ」
「は、はい!」

そして、先に進もうとした矢先。
こちらを見つめるミカエルと視線が交錯する。
互いに黙していたが、先にがその視線を引き剥がし、くるりと背を向けヒラヒラと片手を振った。

「その子を倒せたら、相手してあげるわ」
『待てウリエル!貴様、謀るのか!?』

ミカエルの怒りの声には肩越しに振り返った。
そして、

「そっちこそ、昔の面影を私に重ねないでもらえる?」
「っ!」

その言葉に、ミカエルはわずかに怯んだ。
は暗紫の瞳を細めると、不敵な笑みをその口元に浮かべた。

「私はもう・・・あんたが知ってるウリエルじゃないわ」




































所変わり。
神の社、正面入口。
軍勢を目の前に、3人の元帥が立ち塞がっていた。
一人は口にタバコを咥え、一人はいつものように穏やかに、一人は相方を撫でながら目の前に迫る敵と対峙していた。
だが・・・

「なぁ、の奴は天界の兵は1000ぐらいだっつってたよな」
「聞いた話だとそうなるね」
「ふむ、軽く見積もっても5000はいるな」

そう。
当初聞いた話と大きくかけ離れている状況が起きている。
元帥ともなればLv.4程度、遅れをとることはない。
数が1000体ほどなら、3人の実力者が集まれば問題はなかったはずなのだ。
が、敵の数が予想の5倍ともなれば、話しはだいぶ変わってくる。

「話とちげぇ・・・」
「7000年前はそうだったんじゃないのかな?」
「年月が流れたのであれば、致し方あるまい」

不機嫌さを隠そうともしないクロスに、大人な対応を返すティエドールとクラウド。
そして、目一杯タバコを吸ったクロスは盛大に煙を吐き出す。

「くそっ・・・終わったら、ロマネ・コンティ、一生貢がせてやる」
「あの子がそう簡単に応じるとは思えんがね」
「同感だな。それにこの場はに託された場だ」

クラウドの言葉に、他の二人もふっと口を噤んだ。
思い出されるのはと別れた時のこと。

「彼女があのように頭を下げるとはね」
「ガラでもねぇことしやがって、ったく・・・」
「決するつもりだろうな。
この長かった戦いを、そしてこの世界の命運さえも、その身一つで」

クロスは勿論だが、ティエドールもクラウドもコムイから全てを聞いた。
この場にいる者は察している。本人から聞かなくても簡単に予想のつくこと。
戦いが勝利に終われば、どういう結末が待っているかを。
それが分かっているからこそ、クロスは舌打ちをついた。

(「馬鹿野郎だぜ、アレク。
てめぇも、一族の宿命なんかを背負い込んでるてめぇの娘もよ・・・」)

あの親友も大概だ。
このような思いはアレンに真実を打ち明けた、あの時一度だけで十分だというのに。

「あーぁ、ったくよ。こいつら一人がLv.4と同じだってか。面倒くせぇ」

ガシガシと頭を掻くクロス。
そんなクロスに、二人の元帥も同じように乗ってくる。

「やれやれ、難儀だねぇ・・・」
「だが戦争の締めくくりにはちょうど良い」

そして、各々が自身のイノセンスを取った。

(「アレク、よく見ておきやがれ。
世界はこの戦いで変わる。お前の遺志を継いだ愛娘の手によってな」)

クロスはその手に断罪者を構えた。
の手によって、再びその適合者となり結晶型に進化した神の力のカケラを。

「相手してやんぜ」
「かかってきなさい」
「・・・来い」


































それぞれの場所で、戦いの火蓋が切って落とされた。



































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2014.5.4