「・・・レメクの様子は?」
「ロードとルルが付いてる。起きる様子はねぇよ」
「そう・・・」












































































ーー自身の運命、膨らむ想いーー






















































は当初予定していた合流場所へと戻ってきた。
そこには、ベッドに横たわる千年伯爵の姿。
そして、その周りで心配そうな顔で見守っている家族の姿があった。

戻って早々、ティキの鬱陶しい問いを煙に巻き、は伯爵の元へとやって来た。
だが、男の様子を見たからと言ってにできることはなかった。
かつてウリエルに力を分け与えられ、その力を悪に染めた千年伯爵。
ラファエルはその悪の心を癒し、元に戻しただけ。
力を得る前の、かつてのレメクの姿に。
しかし、今まで生きていた間に自身が行った悪業の数々の記憶までなかった事にはできない。
だから自身が犯した過ちをどう受け止めるかは本人の問題で、そこにができることはないのだ。

「ハート、どうするつもりだってほかの連中が言ってるぞ?」

背後から響いた声に、テラスに出ていたはちらりと視線を投げてやる。
だが、僅かだけ交錯させた視線は再び外の景色に戻った。

「壊すつもりはないわ。後に控える、『来るべき日』の為に私が使う」
「納得すんのかねぇ」
「最終手段は力尽くよ」

の言葉に怖ぇ奴だな、とティキは呟きながらの隣に並ぶ。
テラスから見えるそこには、エーゲ海に夕日が沈んでいくところだった。
光と闇の交わる黄昏時。
美しい濃紺に沈む橙が辺りを暖色に彩っていく、刹那の光景。

「綺麗ね」
「?」

思わず呟いたの声に、ティキは不思議そうな顔で隣を向いた。
瞬間、息を呑む。
そこにあったのは夕陽に照らされた、初めて見る穏やかなの横顔だった。
ティキの様子に気付くことなくは続けた。

「こうしてゆっくり夕日を見て、そんな感情を抱ける日が来るなんて思ってもみなかった。
エクソシストだった時は、戦い以外はどうでもいいと思ってたし。
太陽なんてただの塵とガスの燃焼体、ぐらいしか思ってなかったし」
「おま・・・夢もロマンもあったもんじゃねえな」
「あんたがそれを言うの?」

視線を向けられることなく、呆れたようにが言えばティキもそ同じように夕陽を眺めた。
そして、

「ま、確かに悪かぁねぇな」
「・・・ええ」

二人の間を、風が通り過ぎる。
遊ばれる髪をそのままに、はちらりと横目でティキを伺う。
そこにあるのは、夕陽に照らされた横顔。
遥か昔と、その情景が重なる。
穏やかなこの時が、長く続く事を願って止まなかったあの時。
交わした約束を果たせず、自分は消えるしかなかった。
あの時の悲しみは、今でも心を掻き乱す。
最期に耳にした、この男の悲痛な慟哭。
二度と会える事のない所へ旅立ったとき、ようやく自分は理解した。
自分は愛していたのだと、胸を抉る痛みが深い悲しみだと言う事を。
願ったとしても、もうあの隣に戻ることはできない。
それがとてもとても、悲しかった。

(「・・・でも、それは過去の私。今の私じゃない・・・」)

そう、だから違うんだ。
今、この胸を刺すような痛みはきっと幻。昔を単に思い出したから痛んでいるだけ。
そして、この先待ち受ける戦いの結末。
どうなるかの推測を必死に打ち消しているのは、別れの悲しみから目を逸らそうとしているからじゃない。
しかし・・・



















































ーー愛の前には理屈も種族も御使いでさえも関係ないのかもしれんーー

















































先の教皇の言葉がリフレインする。
だが、はその言葉を即座に打ち消した。

(「違う。私は絶対、違うわ・・・」)

は、絡み付く感情を振り払うように頭を振った。
そして、

「ジョイド」
「ん?」
「レメクから神との戦いについてどこまで聞いてるの?」

さっきまでとは違う、引き締められた雰囲気にティキは訝りながらも答える。

「そこまで詳しくは聞いてないぜ。
ノアが扉を開く鍵、ぐらいは聞いてたがな」
「そう・・・」

その言葉を聞いたは、くるりと踵を返す。
まるで内に渦巻く感情と決別するように、夕陽に背を向け歩き出した。

「皆を集めて。神との戦い、『来るべき日』について話しておかないといけないことがあるわ」


































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2014.4.26