満点の星空に浮かぶ、白銀の光を放つ満月。
月光を受け、ステンドグラスに彩られた大聖堂の床には一夜限りの芸術が飾られる。

ーーコツッ、コツッ、コツッ、コツッ・・・ーー

そんなひっそりとした礼拝堂に一人の足音が反響する。
と、

「久しぶりね、ギルバート・コーデス枢機卿」

闇に溶け込むような声に足音は止む。
そして、その声の主は行く先を阻むように男の前に姿を現した。
しかし、月光で浮かび上がったシルエットは上から下まですっぽりとマントに隠れ、どのような人物かは定かではない。

「どちら様かな?」
「あら、私のことを忘れるだなんて随分なご挨拶じゃないの」
「・・・・・・」

尊大に言い捨てられたその声に、ギルバードと呼ばれた男は怪訝な表情を浮かべる。
だが、その声に心当たりはない。
ギルバードの反応をまるで笑うかのようにマントが揺れる。
そして、そのマントの中から細い腕が伸び、表情を隠していたフードが取り払われた。

「それとも『アポクリフォス』と呼ぶべきだったかしらね?」

月光に照らされる暗紫の髪、男を見据える強い意志の宿るアメジストの瞳、ぷっくりと熟れた唇。
一度、目の前の人物と面識を持っていた男は、敬意を払うように居住まいを正すと、片膝を付いた。

「ウリエル様、どうしてこちらに?」
「愚問ね。分かっててそれを聞く?
この私が、教皇の御座すこの場に居る意味が分からないほど朽ちたわけ?」

睥睨するの言葉を受けたアポクリフォスは、ゆるゆると頭を下げた。

「どうぞ、愚かしい事はお止めください」
「私に命令できる立場じゃないでしょうよ、あんた」
「たとえウリエル様だとて、ハートに触れるようでしたら容赦致しかねます」

ゆっくりと立ち上がったアポクリフォスの言葉。
脅しではない、事実を淡々と口にする相手には不敵に口端を上げた。

「そうね、サシなら骨が折れそうだけど・・・」
ーーパチンッーー

左指を打ち鳴らす音が響けば、の背後の床が波打った。
そして波紋の中心から徐々に人の形が姿を現す。
それは古より自身が力を与え、今尚その業を身に宿す者達。

「袋叩きなら、どうってことないわよ?」























































ーー対峙する巨大な力ーー
























































の好戦的な言葉を受けたアポクリフォスは、その身を変質させていく。
それは以前も目にした生きる気配を感じさせない、真っ白な悪魔の姿。

「ジョイド、トライド。奴の腕を飛ばして。ボンドム、マーシーマ。あんた達は脚よ」

戦闘モードのアポクリフォスに攻め入るタイミングを図るは、背後に控える戦士に指示を飛ばす。
だが、それを黙って聞くはずもない奴はの隣に並ぶと、自信満々に言った。

「まどろっこしいな。俺一人でやってやるぜ?」
「返り討ちにされたくせに、大口叩くな」
「・・・へいへい」

即座に切り返されたティキは、言い逃れができない痛烈な指摘にぐうの音も出せず、すごすごと引き下がる。
情けな過ぎる二人のやり取りを見たロードは、戦い前の張り詰めた空気さえ気にせずティキに飛びついた。

「きゃははははっ!ティッキーだっさぁ〜い」
「ロード・・・あんたはどうして付いてきたんだか・・・」

ロードのバタつく足がちらちらとの視界に映る。
しかしそれだけで終わらず、今度は重さを感じさせない動作での首にしがみついた。

ーーガシッーー
「っと」
「だってぇ〜、ウリエルの戦いっぷり、見たかったんだも〜ん☆」
「あー、分かった分かった。離れてレメクの所で大人しくしてて」
「はぁ〜いv」

に引き剥がされ、襟首を持たれたロードは素直に返事を返すと、そのまま伯爵の元へと走り去る。
目の前で繰り広げられる、端から見れば緊張感のないやり取りに、変質を終えていないアポクリフォスは感情のない表情のまま口を開く。

『本気で我を倒せるとお思いですか?』
「そっくり返すわ。
あんた如きに、今の私を倒せるとでも思ってるなら、不敬もいいところよ?」

そう言い放ったは手を横に掲げる。
するとそこに光が集まり、いつもであれば弓が現れるはずだが今回は違った。
身の丈ほどもある大剣。
それは、方舟で伯爵と対峙した時にもその力を振るうた太古の力。

『・・・なるほど、全て思い出されましたか』
「分かったんなら素直にハートを渡してくれない?」
『我に命を下せるのは主神のみです』
「そう言うと思った。だったら・・・やっぱり力尽くね」

その言葉が合図のように、ノアの4人が地を蹴った。











































































時間は要さなかった。
ノアの一族とのコンビネーションから一瞬の隙を突いたの攻撃は、アポクリフォスを簡単に戦闘不能にした。
床にあるのは上半身を大剣で貫かれ、床に縫い留められた上に両足と片腕を失った白い悪魔の姿。
しかし、それでもまだソレは生きていた。

『ノア如きにこの我が遅れをとるとは・・・』
「勘違いしないで」

地に伏したアポクリフォスの言葉に、は落ちてきた髪を後ろに払いながら尊大に続けた。

「私がいるからこそ、成立した作戦よ」
『・・・やはり、御心は変わりませんか?』
「諄いわね」

重ねられた言葉をぞんざいに切り捨てたは、決意の湛えた瞳で見据えた。

「私はこの地上が滅ぶ事を望まない。主神がやるってんなら倒すまでよ」
『そうですか。
ならば・・・あの方に、お伝えせねば』
「あの方?それーーってぇ!!

突如、は叫んだが遅すぎた。
今まで動けなかったことが嘘のように、アポクリフォスは俊敏な動きでその場を逃げ出していった。
見送るしかできなかったは、出し抜かれたことで怒りを露わにする。

「あんにゃろ、逃げた!」
「どうすんだ?」
「追うわよ!決まってんでしょ!おそらく向かう先は一つしかないわ」

ティキにそう応じたはアポクリフォスが消えた進路へと足を進めた。































うーん、戦闘シーンは苦手。。。
いずれ画才が上がった時にでも書こうかな(逃)



Next
Back

2014.4.25