ーートッーー
「!」
背中に当たった固い何かの感触に、人影が身動きを止めた。
このような状況で次にあることと言えば二つだ。
問答無用で手を下されるか、背後を取った自分より手練れだろう、要求を言う低い声がーー
「はぁい、動かな〜い。ついでに札にも触れずに、両手を挙げてゆっくり振り返ってもらいましょうか?」
だが、予想と裏腹に届いた声は高く、しかも若い女のようだった。
だからと言って油断はできない。
自分の背後を取れたこともそうだが、こちらの武器が何かも分かっていることをみれば下手には動けない。
指示通りに両手を挙げ振り返れば、目の前にあったのは身体をすっぽりと包むマント。
これでは容姿は分からない。
分かるのは、自分よりも背は低く恐らく女性だろうということだけ。
「・・・何者だ?」
警戒を露わに問えば、唯一見える口元が三日月の形を描いた。
そして、フードが外され陽光の下にその顔が現れた。
「はぁい、4ヶ月ぶり。ストーカー監査官?」
ーーおひさ〜、駄犬♪ーー
リンクの目の前にある姿は、自分にはとても見覚えのある人物だ。
どれも記憶しているのは、好ましい類いとは程遠いものばかりだが・・・
「いつからそこに・・・」
「ご挨拶ね。それを聞く前に私に言うことがあるんじゃないの?」
高圧的に言ってくるに憮然としたままのリンクだったが、しばらくして視線をさらに細くした。
「よくも私の任務を邪魔してくれましたね」
「おおっと!そっちに持って行くか。
ま、仕方ないじゃな〜い。方舟を操れるのはアレンだけだったんだから。
でも、使ってなかったんだから、文句を言われる筋合いはないわ」
あくまで陽動だったし、というは少しも悪びれた様子を見せない。
こちらは散々な無駄骨だったことで、リンクは恨めし気に言う。
「公務妨害です」
「騙される方が無能なのよ。
それにその公務ができてるのは誰のおかげだと思ってるのかしらねぇ?」
「・・・」
「それに、恩を仇で返してんのはそっちでしょ?ルベリエに告げ口しといて、細かい事気にするなっての」
腕を組み、手近の壁に背中を預けたの言葉にリンクは苦虫を噛み潰した表情になる。
だが、の言い分も的を得ているだけになかなか強気にも出れない。
「・・・命を救ってもらったことには感謝しています」
「うっわー、何それ可愛くなーい。可愛くやられても気持ち悪いけど」
「・・・・・・・・・」
渋々、礼を言ったというのに返された態度に怒りが湧く。
「で、さっきの質問はどっち?
尾けられてること?それとも背後をとったこと?」
そんなリンクの心情を知っていながら、わざと逆撫でているようには自分から振った今までの話をスルーし、最初の問いに戻った。
「・・・では、前者を」
「何よ、両方教えてくれだなんて図々しいわね」
「・・・・・・なら後者で構いません」
頭痛に襲われる側頭を押さえたリンクが言えば、は肩を竦めて言始めた。
「マザーさんの家から出てこないアレンにヤキモキして、近付こうかどうか迷ってた時にお怒りモード真っ最中のユウが出てきて仕方なく気配を絶って距離を置
いて、また頃合いを見計らって近付こうとしたけど、今度はバーバがいつも通りに洗濯を始めてことにアレンは危険じゃないんだろうとちょっと安心したから、
愛読本をチラ見しようかとソワソワしだした5分前よ」
「・・・・・・・・・・・・・」
ちなみに、それは1時間も前である。
聞くだけ無駄だったことに、リンクは再びため息を吐くと、居住まいを正した。
「そんなくだらない話をするためにここへ?」
「まさか。ストーカーするあんたと違って暇人じゃないわよ、一緒にするな」
理不尽すぎる返しにリンクは怒りを通り越して殺意が湧く。
だが、それすらも楽しんでいるようなは小馬鹿にするように笑いながら続けた。
「あんたの飼い主に用があるの。居所を吐いてくれる?」
「断ると言っーー」
間髪入れないリンクの返答に、それ以上の速さでは切り返した。
「あ〜ら、そんなのーー」
ずいと顔の距離を縮め、ニッコリv、とは笑った。
男なら誰もが落ちるだろうその笑み。
だが、目の前の人物を知っている者にとっては恐怖以外の何物でもない、死神の笑み。
「決まってるじゃなぁい♪」
「・・・・・・・・・」
リンクが口にできる言葉など、決まっていた。
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2014.2.23