翌朝。
漆黒の夜は消え、世界は光で満たされる。
小鳥の囀りを聞きながら紅茶を傾け、新聞を広げていたは穏やかなモーニングタイムを過ごしていた。
と、部屋の扉が開かれ爽やかな朝とは縁遠い不機嫌な顔が入ってくる。

「あら、おはよ神田」

珍しくが挨拶をすれば、返ってきたのは・・・

「・・・ああ」

の一言。
神田だから、というか神田らしいその応対に新聞を読んでいたはちらりと横目で見やる。
そして紅茶といっしょに並んでいた朝食(神田分)を目にも留まらぬ速さで投げつけた。

ーースコーーーンッーー
「っ!」

狙い違わず眉間を直撃した凶器(スコーン)に額を押さえた神田は蹲る。
それを気にする訳もなく、そして何事もなかったような仕草では新聞をめくった。

「私が挨拶してやってんだから、挨拶くらいしろ」
「〜〜〜っ!うっせ!」





























































ーー眉間にスコーンーー





























































神田にとって散々な一日の始まりとなったこの日。
新聞を読むの斜め前に陣取った神田は、新聞の壁で表情の見えない目の前の人物を呼んだ。

「おい」
「・・・」
「おい、こら・・・」
「・・・・・・」

絶対に聞こえない距離ではないというのに、さも聞こえません、な完全無視の態度を見せる
ピクリと米神をひくつかせた神田は、這うようなドスの効いた声を上げた。

「聞こえてんだろ」
「私は『おい』じゃないの」
(「〜〜〜〜〜っ!こんの野郎・・・」)

新聞越しにしれっと言い返してきたに、神田は射殺せんばかりの鋭い視線を注ぐ。
だが、そんなことで新聞に穴が空く訳もない。
悔し気に怒りを収めた神田は、嫌々といった感じで目の前の女性を再び呼んだ。

「・・・・・・・・・
「なぁに?」

今度は素直に返事が返される。
ようやく話ができることに、ため息を一つ吐いた神田は本題を話し始めた。

「モヤシにストーカーがついてる」
「あぁ、リンクの事?」

ようやくは新聞を下ろした。
しかも、今頃その話がどうした、とばかりな表情に神田の機嫌はさらに下降する。

「・・・何で知ってる?」
「だって、あいつの事助けてやったの私だし。
それに、あいつに告げ口されたから科学班を抜けなきゃならなかったのよ」

ま、やる事は終わってたから別に良いんだけど、と言いながらは再び新聞に視線を落とした。
幾分、話すことを躊躇っていたというのに、呆気ない答えを返された神田はバカバカしいことをしてしまったと不機嫌さを露わにしながら椅子に身体を預けた。

「で?お前はこれからどうすんだ?」
「んー・・・そうねぇ、まずは伯爵のとこ行ってくるわ」
「・・・は?」
「ついでに中央庁にーー」
ーーバンッ!ーー
「敵陣に乗り込むってのか?てめぇ一人で?」

テーブルに手をついた神田が、に詰め寄る。
それに目を瞬いただったが、こてんと首を傾げた。

「あんた、話聞いてた?やっぱりユウはおバカさんね」
「・・・・・・」
ーースラッーー

の言葉に、神田は無言のままに六幻を抜き、切っ先を突き付けた。
それを見ていたは、さも面倒だとばかりに再び朝食(ジョニー分)を手に取る。
そして、

「いちいち六幻抜くな、ウルトラ短気が。鬱陶しい」
ーーサクッーー

斬れ味が大変よろしい六幻に、スコーンはいとも簡単に貫通した。
だが、そんなことをされて神田が黙っているわけもなく・・・

「なっ!てめぇ、六幻にスコーンを刺すんじゃねぇ!」
「何よ、ジャムなら自分で塗りなさい」
「そうじゃねぇ!!」

逆ギレした神田に終始、呆れっぱなしだっただが、以前よりはほんの多少僅かだけ素直になっている青年に教えてやるか、とばかりに口を開いた。

「乗り込むんじゃないわ。ちょっと話をしに行くだけよ。
聞く耳持つかどうかは知らないけど」

そう言いながら、紅茶を注ぎたす。
マイペースを崩さないかつての戦友に、神田はもう何を聞けば良いのか分からなくなり仕方なく話題を変えた。

「・・・モヤシはどうする」
「あぁ〜、それはねぇ・・・ネアと話したいって言ってたんだから、納得できるまで待つしかないんじゃない?
クロスの居場所は私が知ってるのは分かってるし、ネアなら私の居場所くらいは辿れるだろうしね」
「・・・・・・」

ここでの用事は済んだとばかりなの言い草に、ついに神田の話題は消えた。
それを見越していたかのように、今度はの方から話が振られた。

「で?ユウはどうする訳?
義理立ては終わったんでしょ。このまま静かに暮らすっていうのもーー」
「バカにすんじゃねぇ」

神田の遮りに、は目を瞬いた。

「本当の黒幕をぶった切れるんだ。
その『来るべき戦い』ぐらい、付き合ってやる」
「そ。なら、せめて私が投げたスコーンを避けれるくらいには鍛錬するのね」
「なっ!」
「それができないようじゃ、ユウなんて秒殺・・・いや、瞬殺が落ちね」

ぷぷ、瞬殺なんてダッサ、と完璧にバカにしているの雄弁な視線に神田の負けず嫌いの性格に火をつけた。

「・・・・・・上等だ」

そう言って肩を怒らせ、部屋を出て行った神田を紅茶を傾けたままのは横目で見送った。
そして、

「ホント、単純w」

含み笑いを浮かべながらはカップをソーサーに戻し、再び新聞へと視線を落とす。
に嵌められたとも知らず、この日から神田は鍛錬に勤しんだそうな。









































>余談
「ふぁ、おはようちゃん」
「おはよ、ジョニー」
「あれ?朝食のスコーンがあるってマザーさんに聞いたんだけど、足りなくない?」
「蕎麦を食べれないユウがヤケ食いしてったわよ」
「え?そ、そうなの・・・?」

※増えていく事実無根な濡れ衣(笑)





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2014.2.23