翌朝。
朝靄に埋まるローマの街が朝日に照らされる。
まるでそれは雲海に沈んでいる古の遺跡のように見えた。








































































ーー歩み出す時ーー








































































「主一人でやるつもりなのか?」

テラスから街並みを見下ろす背中に声がかけられる。
が振り向けば、そこにはいつもの神妙な顔つきのブックマンがお決まりのポーズで立っていた。

「・・・ええ。
ノアの一族は私の・・・ウリエルの話しか聞かないだろうし。最終手段、命令してやるしかないしね」
「そうか」
「でも、それが上手くいくか分からない・・・」

そう言って、は再び街並みに視線を戻した。

「だから自分の身を守るくらいはやって欲しくてね。恐らく、そこまで手が回る余裕はないだろうから」

それっきり黙ってしまったの隣に、ブックマンはテラスに背中を預けると感慨深そうに言った。

「まさか、世界の終焉をこの目で記録するとはな」
「あはは、ブックマン冥利に尽きるって?」

軽く笑ったは、肩越しに部屋の中を見た。

「良い後継者を見つけたわよね」
「?」

疑問符を浮かべるブックマンに、は部屋の中でリーバーと笑って話し合ってるラビを見ながら続ける。

「ブックマンに感情は要らない、常に中立で傍観者でいるべき。
でも、人が作る歴史に感情がなかった歴史なんてなかった。いいんじゃないの、ああいうのがブックマンでも」

日頃、文句しか聞かないが、何となく察している。
きっと何よりもこの人は今の後継を大切に思っているだろうことを。

「ふん、まだじゅくじゅくの未熟もんじゃ」
「ならこの先も鍛えてやらないとね」

素直じゃない憎まれ口に、は不敵に笑い返した。

「新たな世界を、楽しみにしててくださいよ」
「随分な言い様じゃな。儂らには見せぬつもりか?」

ブックマンの返答に、目を瞬いたは隣を見つめた。

「参戦するおつもりで?ご老体にはつらいんじゃないですか?」
「戯けが。神とは戦えなくとも、天使には直に対峙できるのじゃろう?
ならば記録せんでどうする」
「・・・仕事熱心な事で」
「それがブックマンじゃからな」

呆れた表情を浮かべたに見送られ、ブックマンはその場を後にした。
それをしばらく見ていたは再び街並みを見下ろす。
そして、物思いに耽るように瞳を閉じた。


















































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2014.2.9