ーー待ち受ける戦いーー








































































「クロスが手傷を負わされたのも、中央庁の手の者だしね」
「というか、てめぇが首輪をつけてなかったせいだと思うがな」
「あら、人のせいにする気?油断してたあんたが悪いのよ」
「飼い主がこうだ、飼い犬も誰彼構わず噛み付く訳だ」
「ふぅ〜ん。言うわねぇ、表出ろ
「ど、どういうことだい?」

話の路線を戻すように、コムイがとクロスの間に入る。
すると、は仕方なさそうにコムイに答えた。

「クロスを襲った奴は元々は私を守る為、主神から賜った力の一つよ。
名をアポクリフォス。
イノセンスより高座にありハートを守るもの。イノセンスがより強化された存在と思ってくれればいいわ」
「アポクリフォスの目的は?」
「昔のままなら、私を外敵から守る存在のはず。でも、主神が追加で命令を与えたみたいね。
アレン・ウォーカーが黒の教団から去った原因は、あいつの襲撃があったからだし」

襲撃された時、実際に対峙したのだから間違いない。
それに奴自身が言ったことだ。
『我は貴女様を護る力、神の力・イノセンスより高座にあるもの』と。

「なぜ、アレンを・・・」
「アレン・ウォーカーは14番目、ネアの宿主」

リーバーの疑問には答えを紡いでいく。

「7000年前、ネアはノアの一族を裏切って主神と通じていた。
目的はおそらく伯爵に代わり自身がノアの一族を率いる頂点に立ち、地上を統べる長になること。
その為に、主神から天使を抹殺しろとでも条件に出されていたんでしょ」

吐き捨てるようにが言えば、バクが話しを中断させるように声を上げる。

「待て待て!アポクリフォスは主神の力だろ。
神に通じていたというネアを襲うのはおかしいんじゃ・・・」
「私に与えられたとき、すでにアポクリフォスは大本の力から切り離されてる。
神の意志が常に反映される訳じゃないのよ」
「分離されればそれ自体が個体の自我を持つ、ということかい?」
「そ〜いうこと」

話しが早くて助かる、とばかりにはコムイに応じる。
しかし軽口を叩いていたはすぐに表情を引き締めた。

「けど、あいつは私を守るだけじゃなく、アレンのイノセンスを吸収しようとしてた。
私はそもそもそんな命令、下していない。
なら、それを出したのは主神ということになる」
「となると・・・アポクリフォスは敵か?それとも、味方なのか?」

腕を組み座り直したバクに、ははっきりと言った。

「厳密に言えば、味方ではないわ。
あいつは今、二つの命令の板挟みになってる。
私を外敵から守るという事と主神から精製されたイノセンスを回収する事」

私と主神は敵対関係なのにね、とは面倒そうに呟く。

「おそらく7000年の長い年月であいつも歪んでしまったんでしょうね」
「しかし、イノセンスを吸収とな?何故そのような・・・」
「主神は自分の力を少しでも取り戻そうとしているから、でしょうね」
「どういうことだ?」

皆の疑問のこもった視線を受けたは、ソファの背に座り片手を挙げて説明を始めた。

「1年後、この惑星を中心にグランドクロスが起こるの」
「グランドクロスって・・・あれか?惑星が並んで十字形になってやつ」

リーバーの確認するような言葉に、は頷く。

「グランドクロスによって主神の力が各星々に分散され一時的に力が弱まるのよ。
すると神の社に続く結界が弱まり、この地上からでも破る事ができる。それを少しでも防ごうとしているんでしょ」
「防ぐって、どうしてさ?」
「伯爵はそれを機に行動を起こすからよ」

の言葉に一同は目を瞠る。

「伯爵は世界終焉、『暗黒の3日間』を神に再現させる為に、世界をこれまで以上の争いに満ちた混沌に叩き込む。
グランドクロスによって、天界から地上にその力が届かない主神は、間違いなく地上に降りてくる。
そして地上に降り立った主神を、伯爵は打ち倒しこの世界に真の幕を引く。
倒すタイミングとしては未だかつてない絶好の好機でしょうからね」

の言葉に、部屋は沈黙で満たされる。
しばらくして、それを破ったのはコムイだった。

「・・・結局、僕達が倒そうとしていた伯爵は敵なのかい?」
「人間に仇なす、と言う点においては敵でしょうね、間違いなく。
でもこの世界の救済、という意味では味方ではあるわ」
「しかし、伯爵のやり方は・・・」

バクはその続きを言えなくなった。再び沈黙に包まれる。
とてその心情が分からない訳ではない。
エクソシストとして最前線で戦ってきた。人間の悲しみを利用し負の連鎖を、AKUMAを造り出す千年伯爵。
いくらその先に世界救済が待っていても、失われた生命は、残された者が負った傷はあまりにも大きい。

「あの戦いから7000年・・・」

それはまるで、戦いの発端となった主神がやろうとしていたことと同じ。

「この長い間に、伯爵の想いも歪んでしまった。そして、その力になるはずだったイノセンスも」

あの時、世界を数多の生命の為にと剣を取った。
再び訪れるだろう戦いの為にイノセンスを後世に託した。
それが長い年月によって、このような結果を生んでしまった。

、聞かせてくれ・・・」

ぽつりと紡がれたリーバーの声には顔を上げた。

「俺達は・・・伯爵を倒そうとしていた俺達ってなんなんだ?」

組んだ両手に額を押し付けているリーバー。
その声はぶつけようがない苛立ちを、どうにか押しとどめているようだった。

「この世界が滅ぼされるのを、その主神の手から取り戻そうとしていた伯爵を倒そうとしていた俺達はなんなんだよ!
その伯爵に一体、どれだけ!」

怒りのままに吐き捨てるリーバーの視線との視線がぶつかる。
それから逃げる事なく、正面から受け止めたはゆっくりと口を開いた。

「私の・・・せいでしょうね」

弁明するでも言い訳するでもなく、はただそう言う。

「何も生み出さない、犠牲と悲しみに満ちた世界に歪めてしまったのは・・・」
「リーバーよ、ここでそれを言っても始まらんだろ」
「クロス元帥・・・」

それまで沈黙を保っていたクロスが初めて口を挟んだ。
キョトンとするを他所に、ワインを傾けたクロスは話しを続ける。

「結局、人間はいいように騙されてたってこった。
そして、俺達人間は神が造った箱庭にある駒の一つ。神の気分次第で消されるだけの存在。
かつてのノアの一族はその箱庭を残す為にその神を倒そうとし、神はそのノアを消す為に駒を使ったってだけだ」
「・・・・・・」

クロスが大雑把にまとめた話しにリーバーは口を噤むしかなかった。
それを見たは、再びにソファに座り込むと淡々と続けた。

「恨むなら好きにして。ただ、私は罪の告白するために来たんじゃない。
オトシマエはつけるつもりなことは理解して欲しいわね」
「教えて欲しいことがあるんだけど」
「なに、コムイ?」
「ハートの正体って、一体何なんだい?」

話題を変えたコムイにはどうするか逡巡したが、まぁいいかとばかりに口を開いた。

「・・・ハートとは、イノセンスの命とも言える核たる存在。7000年前の戦いの勝敗を握ったもの。
すなわち・・・神の力、そのもののことよ」
「「「「「!?」」」」」

の言葉に一同に衝撃が走る。

「なっ!じゃぁ、ノアがハートを破壊しようとしているのは!?」
「そう、主神の力を削ぐ為。壊せば圧倒的優位に立てるからね。
ま、そもそもハートが主神の力そのものじゃないんだけどね。この地上にあるハートは主神の力の半分だし。
アポクリフォスが天界に帰る事なく、地上に留まっているのがその証拠でしょうしね」
「どういうことだ?」

バクの問いにはバッサリと切り捨てた。

「・・・推測である今の段階でははっきりしたことは言えないわ。
今は無視して」
「結晶型については?」

矢継ぎ早にコムイの問いが重ねられる。
はだんだん面倒そうな表情になっていくが、自分で教えてやると言った手前、仕方なく答える。

「人間にイノセンスの力は強大すぎる。だから私はあえて能力にフィルターをかけたの」
「フィルター?」
「そう、フィルターがかかった状態のイノセンスは大した力は発揮できない。
けど、適合者がより大きな力を求め、それに見合う覚悟、信念があればそこにある種の契約が結ばれフィルターが取り外される。
結果、今まで以上の力を発揮する事ができるの。
装備型の次の段階が結晶型ということになるわけ」
「適合者への影響は?」
「必死ねコムイ。
まぁ、リナリーがそれに該当しているから分からなくはないけど・・・」

そう言って、は再び語り始める。

「まず、結晶型は寄生型とは根本的に違う。
ただ、適合者の血液を媒介するようになっただけの事。寄生型のように寿命を蝕んだりはしない」

の話しにホッとしたようなコムイだったが、はすぐに言葉を続ける。

「ただし、結晶型となった者のイノセンスが相当なダメージを負って、適合者が尚も力を欲すれば、その保証はできない。
先に言った通り、あれは主神より賜った力、私の力の及ぶ所じゃない。
それは念頭に置いておいて」

戒めの忠告に、室内はしんと静まる。
それを破ったのはブックマンだった。

「して、主はこれからどうするのだ?」
「目的は変わらないわ。主神からこの世界を取り戻す」

ブックマンに答えたは周囲を見回した。

「他に質問は?」

それに応じる者がないことを確認すると、は一仕事終えたように伸び上がった。

「よ〜し、なら前座は終わりね」
「前座?」

バクの不思議そうな声には肩を竦めた。

「私は昔話だけをする為に呼んだんじゃないのよ?」
「ようやくか、寝ちまう所だったぜ」

そう言ってクロスは寄り掛かっていたソファから起き上がった。
それを横目でジロリと見たは皆に向き直る。

「私があなた達をここに呼んだ目的をこれから話すわ。
話を聞いた上で、これから後に控える戦いに協力するかどうか判断して」


















































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2014.2.9