時は遡り、7000年前。
この世界を創造した主神は天界より地上世界の行く末を観ていた。
地上は神々が創ったもの達が暮らし、主神は時折り天使を遣わし世界を導いていた。
しかし、地上に住まう者たちが悪事を働くようになり始め、主神の描いた世界から徐々に離れ始めていた。
そして、主神はある行動に移ろうとしていた。
ーー回顧〜下された命〜ーー
主神が座する間。
玉座に腰を落ち着ける前でたった今聞かされた言葉に、片膝を付いたウリエルは愕然と呟いた。
「地上世界を、ですか・・・?」
「左様。何度も言わせるでない、ウリエル」
「申し訳、ありません」
主神の言葉に、ウリエルは頭を下げた。
それをしばし眺めていた主神は、玉座から立ち上がり、後ろ手を組み歩き始める。
「これ以上、地上を穢すわけにはゆかぬ」
「しかし、あの地上世界は第一アダムが創りし頃より続いている世界。
それを滅ぼすなど・・・」
「貴様は主神である吾輩にもの申すか?」
「いいえ、そのようなことは!
ただ、地上で暮らす命は尊いもの。意に適わぬ世界に傾いたからとて滅ぼすのはあまりにも・・・」
必死に食い下がるウリエルの訴えに、横目でそれを見ていた主神はふむ、と顎に手を当てた。
「確かに、根こそぎ滅ぼすには些か難があるか・・・」
主神の言葉にウリエルは僅かな期待を抱きながらその続きを待つ。
「ウリエル」
「はい」
「創生より吾輩に従順だった一族がおったな?」
「はっ、レメクが率いるノアの一族でございますね」
何度も地上に降りている自分にとっては、その一族との縁は深い。
主神はきっと何か考えがあるのだろう。
「すぐにその一族と家族となりし者らに方舟を造るよう命を下せ。
それに乗れる者は、吾輩に絶対の忠誠を誓うもの。裁定は主に一任する」
「それは承知しましたが・・・何故そのようなことを?」
言葉の意味を計りかね、ウリエルが問えば主神は淡々と呟いた。
「方舟が完成し次第、この世界の澱を原始の海へと還す。
そして、穢れなき純潔たる世界へ吾輩の手で粛正してくれる」
主神の意図を理解したウリエルは言葉を失った。
海へ還す?それは地上を沈めると言う事か?
「お、お待ちください!それでは失われる命の数があまりにもーー」
「吾輩に従わぬ世界の駒など、存在する価値もない。海へ還すだけでも慈悲のうちだ」
「しかし・・・」
「よいな、ウリエル。直ちにノアの一族に指示せよ。
一刻も早くこの世界を浄化し、吾輩の威光が満つる世界とするのだ」
そして茫然自失のウリエルに構わず、主神は続けた。
「地上はもう安寧の楽園ではない。
主にいくつかの力を渡しておく。方舟が完成し次第、報告を忘れるでないぞ」
「・・・承知致しました」
その場を後にする主神に、ウリエルの絞り出した声は瞬く間に消えていった。
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2014.1.14