さて、やるべきことは山積している。
さっさと済ませてしまおう。
残された時間は、刻一刻と迫っているのだから。
ーー真実への招待状ーー
黒の教団本部、深夜。
この時刻になれば本部内を歩き回る人もまばらだ。
そんな寂しい廊下に、重い溜め息をつく一人の男。
「はぁ・・・」
その理由はというと・・・
「またフェイ補佐官に小言を言われた・・・ただ、リナリーの淹れてくれたコーヒーが飲みたいなぁって言っただけなのに、
ちょっと言ってみただけだったのに。そこから素行が悪いとか室長としての自覚を持てだとか無駄話が多いとか逃亡癖をなんとかしろとか、
どうしてそんな事まで言われなくちゃいけないんだよぉ・・・」
※すべて自業自得
室長室に入ったコムイは、再び溜め息をついた。
「はぁ・・・ん?」
と、頬を撫でた風に視線を上げる。
すると視線の先には、ソファ越しに閉められたはずの窓にあるカーテンがゆらゆらと揺れていた。
(「あれ、窓なんて開けたっけ・・・」)
そんな覚えはなかったコムイだったが、気にすることなく窓を閉め仕事の続きを再開しようとした。
が、振り返ったソファに腕と足を組んで座っている人物がいた。
「なっ!?」
「声を上げるのは控えた方がいい、コムイ・リー科学班室長」
辛うじて叫ぶのを抑えたコムイは、慌てて入口に鍵をかけに飛んで行った。
逃げられないようにするためではない。誰かが入って来ないようにする為だ。
そして違う意味で溜め息をついたコムイは、向き合うように自分の椅子に座る。
しばらく、どう話しを切り出すべきかを考えていたコムイだったが、まずは当然の疑問から投げることにした。
「どうして君がここにいるんだい、ちゃん」
「話があってきた」
以前と変わらない、高慢不遜な態度。
ウェーブのかかった長い暗紫も、意志の強い瞳も、己様なその態度も変わらない。
変わったと言えば、服装が団服ではなく白シャツ黒パンツのラフなものになっているぐらいか。
いつもなら冗談の一つも言う所だが、もう前のような気軽なやり取りをできる関係ではなくなってしまった。
コムイは言い聞かせるように口を開く。
「君ね、自分の状況分かってる?見つかったら中央庁に連行されちゃうんだよ?」
「彼奴ら如きにはもう捕まらんよ」
「は?なんか口調、変わったね・・・何かのプレイ?」
真剣な顔でボケを飛ばすコムイだがの方はそれに付き合うつもりはなく、ばっさりと切り捨てた。
「無駄話に付き合うつもりはない。
中央庁の息のかかっていない、信用の置ける班長以上の面子を集めろ。
支部長はアジア支部長バク・チャンだけで十分だ」
「ちょ、ちょっと!ストップストップ!!
いきなり来て何言ってるの!僕は立場上君を捕まえなきゃいけないんだよ?」
机に両手をつき詰め寄るコムイ。
ここに彼女の上司がいれば、間違いなく大騒ぎの上、蕁麻疹を出しているだろう。
だがコムイの慌てぶりと対照的に、は余裕顔で落ち着き払っている。
追われている自覚など微塵もない。
そしてソファに腰を落ち着けたは足を組み直すと不敵に笑った。
「戦争を終わらせたいのだろう?」
「!」
その言葉に、コムイは固まる。目の前に居る彼女が戦争に勝つ鍵を握っていると聞かされた。
しかし、それがどういうものかは聞かされていない。
身動きを止めたコムイに、は余裕の態度を崩さず続けた。
「ルベリエから話を聞いているはずだ。我がこの聖戦の勝利を握っているという、な」
「それは・・・」
「何もすぐに集めろとは言わん。一週間後、パリでキャメロット公爵主催の舞踏会がある。
それに黒の教団代表として参加してもらう。
来るならこの戦争に関する事、これから起こるであろう事を話そう。来ないなら、このままこの無意味な戦争を続ければいい」
それだけを言うと、は立ち上がり窓へと近付いた。
しかし、コムイは後を追うようにに問いを重ねる。
「
ちゃん!もっと詳しくーー」
「誰が聞いているか分からない所でこれ以上は言えんよ」
ーーバタンーー
夜風が室内に吹き込まれる。
書類が舞うが、今のコムイにそんなことを気にしている余裕はなかった。
窓の桟に足をかけたは、言葉少なに呟く。
「では、な」
「待った!ここ何階だとーー!!」
コムイの言葉は続かなかった。
何故ならが薄い光を帯び、肩越しに向けられた瞳が暗紫ではなく赤紫だったからだ。
硬直するコムイに、は再び不敵な笑みを浮かべた。
「言ったろ。我はもう捕まらんと」
「はあ?言ってる意味が・・・」
「一週間後にまた会えるのを楽しみにしているよ。我が愛しいーー」
そう言って、は窓から姿を消した。
すぐに駆け寄ったコムイだったが、下を見てもの姿は見当たらなかった。
「・・・いない・・・」
ここは地上から30Mはある。
飛び降りたのなら、その姿があるはずなのにそれがないのは不自然だ。
それに、別れ際のあの言葉。
「どういう、意味なんだ・・・」
『一週間後にまた会えるのを楽しみにしているよ。我が愛しい子供達』
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2014.1.14