翌日。
はベッドから起き上がった。
眠る前の倦怠感はほぼ消えている。
まだ完全に力を扱いきれてはいなかったが、すぐに戦いに行く訳ではないのだから問題はない。
これからすぐに向かわなければいけない所がある。
は身支度を整えると、すっと瞳を閉じた。
すると、その姿は滲むように部屋から消えた。



































































ーー性格は一朝一夕に変わるもんじゃないーー




































































次に目を開ければ、辺りは闇に染まった空間。
この世ではない場所。
そこに部屋だけが切り取られたかのように浮かんでいた。
それを見下ろしたは、その場に降り立つように部屋へと侵入した。

ーートンッーー
「どうにか、うまくいったか・・・」

部屋を見回しそう独白したは、室内にある二つのベッドへと歩み寄る。
そこに横になっている人物はがよく知っている人物だ。

「あ〜ぁ、こりゃまた随分と痛めつけられちゃって・・・」

一つに近付いてが呟けば、パンダメイクの男が目を覚ました。
はひらひらと手を振ってみせる。

「はぁい、ブックマン。お久しぶり」

軽快な挨拶をするとは対照的に、凝視してくるブックマン。
しばらくして、その口が開かれた。

「・・・何故、お主がここに・・・」
「捻りのないごあいさつですね」

ま、それも仕方ないか、とは言うと、片頬に手を当て物憂い顔で呟いた。

「ノアに攫われたと聞いたので、心配でいても立ってもいられなくてぇ〜」
「・・・・・・」
「うっわぁ、なんですかそのうっす〜い反応。冗談で返す所ですよここは」
「直前までが冗談のような状況だったのでな」
「はっは〜、そりゃ確かに」

軽口で応じたは、水差しからコップに水を注ぐ。
そして起き上がったブックマンに差し出した。

「まぁ、答えてあげてもいいですが先にJr.の方を何とかしないと」
「!」

その言葉に、ブックマンは弾かれたように隣を見た。
そこには自分と同じように寝かされているラビの姿があった。
さっと青くなるブックマンには安心させるように言う。

「ご心配なさらず、まだ生きていますよ」
「だが、ノアの者がーー」
「あぁ、フィードラの寄生蟲のことですよね。それはこれからなんとかしますから」

まるで全ての事情を把握しているような答えに、ブックマンの視線が鋭くなる。

「なぜお主はそこまで知っておる?」
「いや、何故って・・・教団から私の事、聞いてたんじゃないんですか?」
「お主が戦争の鍵を握っておるということか?」
「?」

ブックマンの的外れな答えには目を瞬かせた。

(「あれ、そっち?科学班の件とかは伏せられているのか?」)

だが、自分の正体はまだこの場で言う時期ではない。
はブックマンに背を向けると、近くの戸棚へと歩き出した。

「まぁ、いいや、その辺も後でお答えしますよ」

そう言いながらは、部屋のあちこちを歩き回った。
テーブルの上に集まったのは、タオル、洗面器、ゴム手袋、ロープ。
そしてロープを手にしたはでラビの両手、両足をベッドの隅に縛り付け始める。
そんな姿を見たブックマンは呆れたように口を開いた。

「・・・お主、何を考えとんじゃ」
「そっちこそ、なに如何わしい想像してんだエロジジイ」

ぴしゃりとは言い返す。

「荒治療になるだろうから、先手を打っておくだけですって」

今、抵抗されたら加減できないし〜と言って、準備完了とばかりには腰に両手をつくとラビを見下ろした。

「さて、と」

そしてゴム手袋(手術用)をはめながら、は隣にいるブックマンに言った。

「じゃあ、ブックマン。Jr.を呼んでもらえます?」
「んな事、お主がやれば良かろうが」
「そうなんですけど・・・
ノアに相当、精神的に追い込まれてギリギリで踏ん張ってたんでしょう?
あまり面識のない私が呼んでも反応するか微妙なんで」
「・・・なるほどな」

の言い分に納得したのか、ブックマンがラビに呼びかける。
すると、しばらくしてラビが意識を取り戻し、はベッドに近付いた。

「どうもでした。あとは私が」
「どうするつもりじゃ?」

ブックマンの問いに、は不敵な笑みを返した。

「まぁ、任せてください。恐らくなんとかできるので。
あー・・・結構、衝撃的というかグロイので同席するならそのつもりで」
「・・・・・・」

まったく意味が分からないブックマンだったが、はそれに答えることなくラビに声をかけた。

「はぁい、Jr.。中国ぶりね?」
「・・・・・・あん、た・・・港、で・・・」

掠れた声だったが、が誰か分かったラビ。
その反応に上々だとばかりには不敵に笑う。

「はいはい、そこまで覚えてるなら結構よ。さ、口を開けてもらいましょうか」
「・・・?」

言われている意味が分からず、ラビは首を傾げる。

「・・・なんーーんご!?

しかし、は問答無用でラビの口にタオルを突っ込んだ。
起き抜けに近いラビだったが、そんなことをされて寝ぼけている訳にはいかない。
だがそんなラビに構わず、次なるの行動は馬乗り。
目を見開くラビだが、それに返されたのは悪寒が走るほどの黒い笑み。

「歯ぁ、食いしばんなさい?」
「!?」

意味が分からないラビはを下ろそうとする。
が、この時になって両手両足が拘束されている事に気付いた。
目を白黒させるラビを他所に、馬乗りになったは、ラビの胸に手をかざす。
そして、ある一点でその動きが止まった。

「・・・見つけた」

そう呟き、ふぅと息を吐くと集中を高め、手を振り下ろした。

ーードッ!ーー
「「!!」」

目の前で見せられた光景に、ブックマン、ラビに衝撃が走った。
の腕がラビの身体に突き刺さっているのを生で見ているのだから当然だ。
突き刺されている方のラビは、相当な痛みがあるのかその身を捩る。

「ぐ・・・ぁああっ!
「我慢しろっての」
ーーガシッーー

拘束がほどけかけたラビの片腕を、は片足で押さえつける。
そして、空いた片手では弦月の矢を発動させた。
そして・・・

ーードシュッ!ーー
「がっ!!」

ラビの脇腹を光の矢が刺し貫いた。
ついにラビは意識を手放し部屋は静かになった。
はラビの身体から腕を引き抜くと、その手からさらさらと砂のようなものが零れ出す。
ゴム手袋を外したは、さも一仕事終えたように汗を拭う仕草をした。

「はい、終わり」
「・・・随分、荒っぽいのぉ・・・」

ブックマンの同情の視線が、気絶した後継に向けられる。
一方、それを仕出かした方のはどうってことない風に話しを続けた。

「先に荒治療になるって言ったじゃないですか。
そもそも医者じゃこの寄生蟲は取り除けませんからね」

敵の能力を知っているようなそれ。
そして、あの絶望的な状況からいきなりこのような場所に助けられたこと。
教団を後にした理由。
いろんな疑問が渦巻いていたブックマンは、に静かに問うた。

「説明してもらえるか?」
「もちろん、そのために助けたんですから。
けど、まずは身体を休めて体力を回復してください。すべての話はそれからです」
「なら、一つだけ答えてもらえるか?」
「内容にもよりますね」

近くのテーブルで紅茶を傾け(いつ用意されたかは謎)ながら、は即答した。
それに、ブックマンはしばらく考え込むとようやく決まった問いを口にした。

「儂らをどうやって助け出した?」

ブックマンの言葉を聞いたはキョトンと固まった。
そして、紅茶をテーブルに置くと椅子の背にもたれかかりながら、ベッドの端に座るブックマンに向いた。

「意外ですね。
ストレートに私の正体を聞いてくるもんだと思ってましたけど」
「一番答える確率が低そうだったのでな」
「なるほど、流石は年の功。
その質問でしたらお答えします」

そう言ったはブックマンに左拳を突き出した。
そして、

ーーパチンッーー

指を鳴らす。
その不可解な行動にブックマンが眉根を寄せていると、はにっこりと笑った。

「こうやったんですよ」
「・・・は?」
「では答えたし一息もつけたのでこれで失礼します」
「待たんか。説明になっとらん」
「あ、出口はローマのとあるホテルに繋げてあるので、食事とかはそこで」
「繋げてあるだと?どういうことじゃ?」
「あー、それとホテルの部屋にいる奴のことはお気になさらず。
次に会うのは一週間後くらいだと思うので」

問いに一つも答えが返らない中、はどんどん一人で話しを進めて行く。
それに振り回されっぱなしだったブックマンは、問いを止めると低い声で唸った。

「・・・お主、はじめから答える気などないな?」

ブックマンの言葉に、ドアの前に立ったは肩越しにふっと笑った。

「ついさっき言ったじゃないですか。内容にもよるって。
耄碌しました?」
「戯けが。その憎たらしい性根、相変わらずじゃ」
「たかだか1年足らずで性格なんて変わりませんよ」
「開き直りおって・・・」

悪態を吐くブックマンに、は不敵な笑みを絶やすことなく向き直った。
そして、まるで執事がするように深々と礼をとった。

「楽しみは後に取っておくものでしょうが。
では、失礼」
















































>余談
「ところで・・・」
「はい?」
「ゴム手をした意味はなんじゃったんじゃ?」
「台所用が良かったですか?」
「そういう事を言うとるんでないわ」
「別に」
「は?」
「強いて言えば、気分ですね」
「・・・・・・」






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2014.1.14