ーー父の手紙ーー
へ
この手帳がお前の手に渡っていると言う事は、おそらくもう僕はこの世にいないだろう。
そしてきっと、世界の戦局が大きく変わってきているのだと思う。
何より、君がその渦中へと巻き込まれているはずだ。
寂しい思いをさせてごめんな。あと面倒事を背負わせることになって悪い。
手帳と一緒に渡したこの手帳には、君にも流れる僕達の血族についての話を書き留めてある。
信じられないと思うが、これは今まで僕が調べ上げた結果だ。真実に近いはずだから信用してくれ。
だが、まだ全てを解き明かせた訳じゃないんだ。
可能な限りは頑張るけど、どうやら僕に残された時間は限られているらしい。
だからもしものため、まだ謎となっている事と手がかりになるもの、全てを手帳に残しておく。
僕が謎を解けなくなっても、君がこれを見ながら解読すればきっと真実を知る手がかりとなるはずだ。
さて、では解き明かす事ができた事を伝えるよ。
僕達の血族はある者の血を色濃く引いていることが分かった。
それは遥か昔、この地上が一度滅んでしまった時まで遡るらしい。
その者は、この地上で第2イブとして私達、人間の祖となった人物だ。
よく昔話で聞かせてあげたのを覚えているかい?
その者は、名をウリエルという。そう、聖書にある世界滅亡をこの地上に伝えにきた神の御使い、天使だよ。
僕も最初は信じられなかった。
けど、父が中央庁で高いポストにいたとき、ヴァチカンの記録保管所で調べを進めてみた。
そこには、この血筋を引く者には必ず特殊な力を有する事が分かった。
個人差はあったようだけど、その多くは女性だったらしい。(まぁ、僕にもないことはなかったんだけどね)
もしかしたら、には僕以上の、もっと特殊な力が秘められているかもしれない。
過去の記録では、自分が経験した事のない記憶があったり、何かの使命感に駆られたり、時折感情に翻弄されたりしたらしい。
これだけだど精神異常者を疑うけど、決まった血族の、しかも女性だけに見られる傾向を考えると、やはり何かあるのだと思う。
それにこの記録は、ヴァチカンの記録保管所の中でも特に立ち入りが厳しい所に保管されていた記録なんだ。
入るには上位枢機卿5名の許可が下りなければ入れない所に、わざわざだ。
まぁ、どうしてそれがここに書いてあるのかは、読む頃には大人だろうから察して欲しい(笑)
遺跡から読み解けたのは、ウリエルは使命を果たした後も、神の元へは戻らずに地上に留まったこと。
そして神より授かった御力、イノセンスを人間達に分け与えたこと。
その後、ウリエルの足取りを知る者はいない。
けど、ウリエルが常に携えていた武器は本人によってどこかに隠されたことは分かった。
・・・僕が調べる事ができたのは、ここまでだ。
残りは、また調べて続きを書くよ。
これらのことは、以下の遺跡や教会に保管されている古文を解読すれば、もっと詳細が分かる筈だ。
・×××遺跡
・×××古文書
・×××教会
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・
・
今のこの時代も、世界中にAKUMAが蔓延している。それを増長するように戦争もだ。
神様はどうしてこんな悲しい現実に、何もしてくれないんだろう・・・
まぁ、考古学者という身分柄、そういうのは信じていないんだけどね(笑)
いつの世も、犠牲になるのも救うのも人間だ。
神のような超常的存在がいるなら、このような悲しみに満ちた世界、すぐになんとかすべきだと僕は考えるよ。
追伸
手帳を託したのは、僕の古い友人だ。彼はきっとの良い理解者になってくれると思うよ。
気が合ってくれると、僕もとても嬉しい。
大人になったは、きっと母さんに似てとっても美人なんだろうね。それに僕の娘だから頭脳明晰だろう。
ずっと傍で、の成長を見れないのがとても残念だ。
この聖戦が一日でも早く終わり、平和な世界でが幸福になる事を祈っているよ。
あぁ、でも早くにお嫁にはいかないでくれよ?僕が相手をタダじゃ置かない気がするからさ(笑)
どうか、身体に気をつけて。が選択し歩む道を僕は応援するよ。
遠く離れる事になっても、世界中の誰よりも愛している。
愛娘に多くの幸があらんことを・・・
アレク
ストラスブール、セレスタ駅。
無人駅で人より獣がでてきそうなそこで、は父の手紙から顔を上げた。
そしてベンチに寄りかかり、空を仰ぐ。
そこには雲がのんびりと寒空の海をただよっていた。
クロスに投げた3つの問い。
そのうちの一つの答えが、ここからほど近いところにある。
アレクと過ごした、謂わば生家というやつだ。
(「まさか、地下室があるなんてね・・・」)
実質的には数年しか住んでいなかったわけだが、全然気付かなかった。
まぁ、住んでいたと言っても、父にくっ付いて遺跡を巡っていたから、帰ることなどあまりなかったのだから、仕方がないかもしれない。
「さて、じゃぁその隠されたモノを拝みに行きますか」
はそう言って手紙を手帳に戻した。
そして腰を上げ、めいいっぱい伸び上がると歩き始めた。
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2013.12.22