汽車が動き出して、早1時間。
ファーストクラスの一室はどうにもぎこちない空気で満たされていた。
それはの対面に座るリーバーの表情が固く、が話を振っても生返事しか返さないからだった。

(「にゃろぉ〜、こっちがわざわざほぐそうとしてやってるってのに・・・」)

普段なら制裁して沈めているところだが、今それができないは路線を変え、心配顔で覗き込むようにリーバーを見上げてみた。

「リーバー班長、具合でも悪いんですか?顔が強張ってますよ?」






































































ーー恩を仇で返されたようで・・・ーー





































































のそれに、ようやくリーバーは違う反応を見せた。

「ジェシカ・・・」

言葉を探すように視線さえも彷徨わせるリーバーに、も不審気に先を待つ。
そして、

「ジェシカ・・・嘘、だよな?お前がスパイだなんて・・・」

リーバーから返ってきた問いに、は思わず目を瞬かせた。
が、状況をすぐに理解し、すっと表情を引き締める。
黙してしまったに、リーバーは悲しげな表情で再び問う。

「・・・・・・」
「なぁ、何か言ってくーー」
ーーガシャァーーンーー

その時、通路から窓が割られる音が響いた。
何事かとリーバーが立ち上がれば、扉から見えたのはLv.1のAKUMA。
思わぬ襲撃者に、リーバーは逃げ場のない部屋で軽いパニックに陥る。

「AKUMA!なんでここに・・・!」

しかしこちらの問いに答えが返るはずもなく、AKUMAの銃口が向けられる。
リーバーは咄嗟にを庇うようにその前に立つ。

ーージャキン!ーー
(「やられる!」)

襲ってくるだろう衝撃に思わず目を瞑った。

ーードシュッ!ーー

が、いつまでもそれは来ないことで、リーバーは恐る恐る顔を上げた。
目の前には崩れていくAKUMA。振り返れば、光る弓を構えたジェシカの姿があった。
だが、その手にある武器はジェシカではなく別の人物が持っているはずのものだったことに疑問が口をついた。

「お前、どうしてそのイノセンスを・・・!」
ーートンッーー

その時、壁をすり抜けて男が一人現れた。
そして身体のラインをなぞるように手を滑らせ、を腕の中に入れる。
黒く波打つ髪、左目の下にある黒子、人間ではないことを証明する灰色の肌。
その男に見覚えがあった。
北米支部で見たノアの一人。リーバーは身を固くした。

「ノア!?」

衝撃に打ちのめされているようなリーバーに構わず、素に戻ったが低い声で問う。

「・・・どういうつもり?」
「おいおい、シェリルから教団にバレたって連絡受けたから助けにきてやったってのによ」
「頼んでないし」

そう言って、弓が光の粒となっての手から消える。
自分の存在を無視してのやりとりに、やっと回復したリーバーは説明してくれとばかりに声を上げた。

「ジェシカ、一体どういうことだ!?どうしてそのノアと・・・!」
「お前、またその偽名を・・・」

リーバーの言葉を聞いたティキは呆れたようにを見下ろす。
が、当人は無愛想に鼻を鳴らした。

「誤解を解くのが面倒なこと言うな」
「へいへいお姫様」

そう言たティキは、見下ろしていたに手を伸ばす。
男の手はそのまま髪の留め具に伸び、外された事での髪がぱさっとほどけた。
それに当人からは相当な苛立ちがこもった視線が返される。

「ちょっと・・・」
「外せよこんなもん。お前の長い髪がもったいないだろ、?」
「なっ!?」

ティキの台詞に、リーバーは驚き固まった。ぱくぱくと、魚のように口を動かしている。
事態が目に見えて面倒なことになったことで、は額を押さえた。

「はぁ・・・」
ーーゴスッ!ーー
「ぐはっ!」

ティキの鳩尾に、の鋭い肘鉄が炸裂する。
数歩離れたは踞るティキを睥睨し、

「話がややこしくなるから黙ってろ」
「か、過激だな・・・相変わらず・・・」
「いつまでも人の身体触って・・・安くないのよ」

そう言い捨て、ティキを放置してリーバーに近付く。

「一体、どういう・・・」
「ひとまず場所を移すわよ」

それだけをリーバーに言うと、は颯爽と廊下を歩き始めた。

(「あの駄犬、恩を仇で返すとは・・・上司が上司なら部下も部下だわ・・・」)

この状況を引き起こすことになった犯人をそう毒づき、絶対仕返ししてやると、は心に決めた。














































Next
Back

2013.11.4