夜も更けた深夜。
森の中に白衣を引っ掛けた人物がいた。
普通なら誰も出歩かない時間であるために、それを知るのは夜空に浮かぶ繊月くらいだ。
しばし夜空を見上げていた白衣の人物は、懐に手を伸ばすとそこからゴーレムを取り出した。
ーーピッ、ザザーーーッーー
『・・・なんだ?』
たいした間も置かず、応答が返る。
不機嫌そうなのは時間が問題なのではない、相手の元々がこうなのだ。
「あらぁ〜、なんだとはご挨拶ですよぉ。神田さん?」
科学班にいる時のように、わずかに声音を高く、語調を緩やかに応じる。
それに神田の声がさらに低くなった。
『気色悪い声出すな、うぜぇ・・・』
「うふふ、そんな口を聞ける立場なのかしら?」
『ぐっっ!!』
瞬く間に素に戻ったの容赦ない脅しに、神田は悔しげに呻く。
きっとゴーレムの向こうでは、射殺せんばかりの視線を向けていることだろう。
ひとしきり笑ったは、それまでのからかう口調を改めた。
「フランス、プロヴァンス。
3日後、そこのゲートが開くわ。方舟に入ったら、そのままアジア支部のゲートに向かって」
つらつらと言うに、黙って聞いていた神田は短く返す。
『分かった』
「フォーに話を全部通してる。詳しい事は彼女に聞けばいいわ」
『あぁ』
「向こうには恐らくコムイもいる。あ、ルベリエは川に沈めていいから」
『あぁ』
第三者が聞いていたら思わず突っ込む場面だが、両者とも沈める人物を嫌っているので問題はない。
そして、
「じゃ・・・ズゥ爺によろしくね」
『・・・あぁ』
そう言っては通信を切ると夜空を仰いだ。
そこには先ほどと変わることない、まるで死神が持つ大鎌のような細い月が浮かんでいるだけだった。
ーー言い方を間違えてはいけませんーー
神田がプロヴァンスに行ってみると、そこにはかつての仲間、リナリーとマリがいた。
余計な気を回しやがって、と神田はお膳立てた人物に悪態をついたが、目の前にその相手はいないのでそれは心の声としかならなかった。
「どうして俺達があそこにいると分かった?」
「お前らなんて知るか。ゲートの場所を張ってただけだ」
方舟ゲートでアジア支部に向かいながら、マリからの問いに神田はぞんざいに言い捨てる。
事実を告げる訳にもいかないだろう。まぁ、告げた所で当人がそれで困るような事がないよう手は打っているだろうが・・・
ズゥとの短い会話と別れを済ませた神田は、再び六幻をその手にした。
そしてフォーに指示された部屋に向かいながらマリと話を続けていた。
「それにしても、追っ手が一人もかからないとはな」
「・・・ここの守り神の能力だろう」
そう。
本当なら、失踪したはずの神田を教団は全力を持って確保にかかる。
イノセンスをその手に戻したのだから、余計にだ。
だが、今の神田はマリと二人、人気のない廊下を歩いていた。
こうも悠長にできるのは、教団の追っ手を引き受けているフォーの擬態能力が大きく関係している。
マリはしきりに感心しているが、真意を理解しているのは恐らく神田だけだろう。
ちなみに、この場にいるはずのリナリーがいないのは、本部からリーバーの連絡で迷子になったコムイを捜してくれという指示があったからである。
(「あいつら、ぜってぇー楽しんでやがる」)
この場にいない二人の、最凶タッグの笑い声が聞こえるようだ。
「神田、老師のことをどうやって知ったんだ?」
神田の心情を知る由もないマリの問いに、神田はどう返すか迷った。
だが、マリはそれを予想していたように続ける。
「もしかして、誰かから連絡あったんじゃないのか?」
「・・・あぁ」
「それはもしかして科学班の・・・」
その先を言い淀むマリに、知っていたのか、と神田は苦虫を噛み潰した渋い顔をした。
「あいつの差し金だ」
「・・・そこは協力って言うところだぞ」
常識人たるマリの指摘に、ふん、と鼻を鳴らした神田は訂正するつもりは全くないようだった。
>余談1
「はぁ・・・」
「ん?どうしたジェシカ、溜め息なんてついて」
「いえ、ちょっと。惜しいことをしたなぁって」
「は?」
(「バクとかコムイが翻弄されている醜態、直接見れないのが残念で・・・」)
「いえ。それより、リーバー班長。レモンスカッシュどうぞv」
「お、サンキュな」
「いえいえ♪」
(「今度アジアに行ったら今日の映像、絶対見せてもらおっと♪」)
>余談2
『コムイ兄さん、私の純潔がバクさんに・・・!』(うるっ)
ーージャキンッーー
「バクちゃぁ〜ん。よくも僕のリナリーを・・・」
「ま、ま、待てコムイ!誤解だ!俺様がそんな事する訳なーー」
「問答無用!!」
ーーチュドーーーンッ!ーー
(「ぎゃははははっ!マジウケる!さて、お次ぎは・・・♪」)
さんは頭脳派というか、人を弄ぶ根回しが早い(笑)
シリアス場面のはずなんだけど、おかしいな?
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2013.11.4