朝靄がかかる早朝。小鳥が唄い、新たな一日の始まりを告げる。
太陽が顔を出す前に目を覚ましたは、窓から外を眺めていた。
白い靄が、まるで雲海のように辺りに広がる。
と、ちょうど朝日が辺りを照らし、暖かな色味を世界に加えた。
「・・・やっとか・・・」
不本意な強制休暇も本日が最終日。
これを乗り切れば、明日から再び調べ物が再開できる。
は足取り軽くキッチンへと向かった。
ーー意外すぎる特技?ーー
(「んー・・・何の匂いだ・・・?」)
ティキは香ばしい香りに、眠りの淵から意識を浮上させる。
ベッドの中から時計を見ればまだ6時30分。
普段なら絶対にベッドから出ない時間だ。
しかし、耳に届く軽快でリズミカルな音、何よりも鼻腔をくすぐる香り。
千年公と行く三ツ星レストランに入る時とはまた違うが、起きがけにはとても空腹を刺激するそれ。
だが、こんな早くにAKUMAが支度をするはずがない。
だとすれば残る可能性は・・・
「まさか、な・・・」
そう言いながらもティキはむっくりと起き上がると、誘われるように音の元へと歩き出した。
キッチンに到着すると、そこにはまさかと思っていた予想だにしない光景が広がっていた。
「マジ、かよ・・・・」
その一言に、元凶は振り返った。
・・・不機嫌な表情付きで。
「なんだ、起きてたの」
まるでここにいちゃ問題がある風の返し。
念のために言っておくが、この屋敷のホストは間違いなくティキで、向こうがゲストである。
呆然としていたティキは、鍋の前に立つ相手に恐る恐ると聞いてみた。
「・・・お前、・・・だよな?」
「はぁ?夢の世界に行きたいなら今すぐにでも旅立たせてあげましょうか?」
「間違いねぇ。だ・・・」
容赦のない、己様な返答。
この世に同じ人間がこう何人もいてはたまったものじゃない。
ティキの視線はテーブルに移る。
カゴに並べられたバターロール、新鮮な野菜が使われたサラダ、ふわふわのスクランブルエッグに、良い感じに焼かれたベーコン。
立派な朝食が、目の前に並んでいた。
「おま・・・料理できたんだな」
「あんた、本当に馬鹿ね。この3日だって、自分で用意してたわよ」
「はぁ!?」
まさかとばかりに、驚愕を見せるティキ。
それに、は答えず鍋に向き直った。
(「ま、近場のマルシェで調達したんだけど」)
と、は内心で呟きながら、出来上がったばかりの野菜スープの味見をする。
彩りも豊かで、味も申し分ない。
上出来だ。
「はぁ〜、人は見かけにって言うが、ほんーー」
ーースコーーーンッ!ーー
「ぁ痛ッ!!」
お玉(スープに入れたて)が狙い違わず、眉間に直撃した。
うぉおっ、と痛みにうめくティキに構わずは言い捨てる。
「失礼な奴ね。誰も料理したことないなんて言ってないわよ」
「・・・いや、お前みたいなタイプ。絶対できないのが普通だ・・・・」
「今度は包丁にしてやるわよ?」
「イラナイデス」
新しいお玉を取り出したの肩越しの台詞に、ホールドアップのティキ。
は器にスープを移し、コーヒーを新たに淹れ直した。
(「ま、単に毒を盛られたくなかっただけなんだけど」)
口には出さずにそう思うだけにとどめる。
さて、朝食はできあがった。
うるさい奴にいつまでも構うなんて、作った料理に失礼だ。
早速、席についたは手を合わせた。
「いただきます」
>余談
「あれ?俺の分は?」
「コーヒーだったら恵んでやらんこともないわ」
(「俺の屋敷なのに・・・」)
でも、なんだかんだ量は多めに作ってあったりする(笑)
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2013.10.26