ーー高座にあるものーー



































































不本意な強制休暇を取らされた1日目も、そろそろ終わりの時刻となろうとしていた。
はあてがわれた部屋でランプをつけ、カリカリと筆を動かし続けていた。
と、

「まだやってんのか、 ?いい加減飽きねえのか?」

今朝方、やりあった男が断りもなしに部屋に入って来ると、テーブルに手をつき呆れて言った。
それに本から目を上げぬまま は言い捨てる。

「うっさい。学がない奴は引っ込んでろ」

まだ怒りが収まってない はつっけんどんに言い返す。
朝のやりとりは全面的に向こうの言い分に軍配があると自覚しているからこそ、言葉を交わしたくなかった。
餓鬼だ八つ当たりだと言われようが、今回のことはどうしても許せなかった。
例え、元を正した非が教団にあろうとも・・・

(「どうして、そっとしておけないの・・・」)

恐らく、これまでで一番思い入れが深い二人のことだからこそ、そう思う。
だが、その抱いた思いは教団に対してなのか、伯爵に対してなのか。
今、たくさんの感情が渦巻いている には分からなった。

「へーへー、んじゃ退散しますかねぇ」

今だに熱が冷めていない に、また八つ当たりされてはたまらないと、ティキはその場を後にしようとする。
が、視界の端にティキの手袋から僅かに見えた包帯を目敏く見つけた は、その腕を掴んだ。

ーーパシッ!ーー
「な、なんだよ」

驚き顔のティキに構わず、 は手袋を取り払いその包帯も外す。
そこにはまだ癒える事のない、生々しい傷跡。
を新たに悩ませた一つ。
思い出されるのは昨日のアポクリフォスの言葉。

ーー『我は貴女様を護る力、神の力・イノセンスより高座にあるもの』ーー
(「高座にあるもの・・・それは存在が高められてるということ?」)

だからティキの、ノアの再生能力を以てしても治りが遅いと言う事なのだろうか。
でも、それが自分を護る力というのはどういうことなんだ?

(「そういえば、あの時・・・」)

こいつは助けようとしたのか?少しでも、心配というのをしたのだろうか?
だから、自分の名前を呼んだのか?
もしそうなら間に合わなかったとはいえ、借りにされたらたまらない。

(「そうよ。これはあくまでも借りを返すだけ・・・」)

絶対、それだけだ。
グリグリと手をひっくり返したりしている は自分に言い聞かせる。

「・・・アポクリフォスの力、ノアには相当厄介なのね」
「大したことねぇよ」
「ふ〜ん、やせ我慢しちゃって」

動かす度に顔をしかめているくせに。
呆れ返った は、すっと目を閉じる。そして弦月に意識を集中した。

(「Seal Adhara、Compensation癒しの御手」)

すると、淡い光がティキの手を包み、光が収まると傷跡は綺麗に消えていた。

、お前・・・」

目の前で起こった事に、ティキはちょっと感激している。
しかし、 はというと・・・

(「うん、集中すれば時間はかかるけど使えるようになったか。
でもまだ意識とモーションに結構、差があるな・・・」)

ティキの手を掴んだまま、動かない は淡々と自己分析を進めている。
単に練習台となった事に気付いていないティキは、その長い指で の顎を持ち上げる。

「?」
「そこまで俺の事ーー」
ーーゴスッ!ーー
「ぐはっ!」

条件反射で鋭い一撃を放った は、踞るティキを睥睨し吐き捨てた。

「盛ってんな阿保」
「な、殴られる意味が分からん・・・」

今際の呟きに構わず、 はティキを放置してその場を立ち去るのだった。














































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2013.10.26